1章第6節 推理
ネクロのアジトから急いで帰ってきた二人は事務所で休憩をしていた。途中からシルバに抱えられビルとビルの間を飛ぶように移動してきた為か三半規管を揺さぶられ嘔吐感に襲われていたからである。
「しかし…本当に現実とは思えませんでしたね…ウップ」
真っ青な顔で氷空が喋りだした。
「前の世界じゃ大体あんな感じだったから俺には日常が戻ってきた感じがするな。というか無理するなサッサと薬を飲んでシャワーでも浴びてこい」
「では、ちょっと失礼しますね」氷空はそう言うと薬を探しに居住スペースの3階へ移動した。シルバはソファーに座り先ほどの戦いを思い返していた(白露刹那とかいう女…あれは本気ではなかった。良く見積もって6割前後って所か。それでも十分に強い。本気を出すならばこちらも死力を尽くす程にはな。その癖に周りの人間は脆すぎる、この世界のバランスの悪さは一体何なんだ?)通常、生態系と言うのは頂点に合わせて変化するものである。弱いものは食い尽くされ絶滅し捕食者から逃れす術を持った者のみが生き残る。だがこの地球はその理から外れていた。正確には”人のみに限った話”になる。人が頂点に君臨してるように見えるが白露刹那の様な圧倒的な上位者が存在する。戦いの最中に出てきた【鬼】も恐らく同格の存在。そんな上位者が追いやられて人に頂点を譲っているこの状況が歪であった。(んー…まだ情報が足りないしそもそもこういう答えを探すのは性に合わんな)シルバが一人で考えているとシャワーを浴び終わり寝間着に着替えた氷空が顔を出す。
「シャワー空きましたよー。というか寝間着どうしましょうか…?うち女物しかないし」
氷空がシルバの寝間着の代わりを探してる途中で話しかける。
「寝間着はどうでもいいんだが、なぁ今後はどうする?」
「今後…とは?」氷空が寝間着探しをやめ振り返り聞き直す。
「目的は両親の死因とその敵討ちなのだろう?今回の白露が関係あるとも分からない。見たと思うがアイツは危険だ。追うとしたら相応のリスクがある」
確かに白露は危険な存在である。武装した人間を簡単に殺し、人間離れした身体能力に妖術と言う不思議な力まで扱う。普通の人間である氷空にはあまりに荷が重すぎる相手であった。だが氷空の考えは決まっていた。
「私もシャワー中に考えていました。結論から先に言います。私は白露刹那の後を追いたいです!」
氷空は力強くそして迷いなく答え続きを喋る
「シルバさんには両親が亡くなった状況を話していませんでしたね。…”世間的”には自殺として片づけられました」
その言葉に違和感を感じシルバが聞き返す
「”世間的”にって事は、本当は自殺じゃない。そもそも自殺ならば親の仇なんて言わないからな。あぁすまん続けてくれ」
氷空は小さく頷き話を続ける
「両親の遺体の第一発見者は私なんです。当時私は14歳で受験勉強をしていました。いつも通り夕食を食べいつも通りお風呂に入り部屋に戻り勉強をしていたんです。 夜中の1時、寝る前に飲み物を飲もうと思いリビングへ行きました。そしてそこで発見したのです。両親が倒れているのを。 最初は床で寝てる物だと思いました、それ程までに普通の姿で倒れていたんです。しかし触って寝てるんじゃないと理解しました。その後は警察と救急車を呼んだという流れですね」
氷空は一呼吸をおいて続けた
「第一発見者という事で私は子どもにしてはキツめの事情聴取をされたと思います。その後は警察が捜査に当たりました。しかし争った痕跡がなく、金品も取られておらず何より外傷が一切ない。このような状況では自殺以外は考えられないという事で自殺で捜査は打ち切られました。私も正直、そうかもと思って今日まで生きてきました…でも!今日のシルバさんや【妖狐】白露刹那を見て確信に変わりました!両親は人に殺されたんじゃない…!人を超える何かに殺されたんだと!だからまずはあの妖狐を調べたいんです!」
氷空は激情を抑えながらシルバへ自らの意思を伝える。
「なるほどな…だからやけに異常な強さに拘ったりあの戦いを見ても放心する程度で済んで怯えてはいない訳か。だが今の話で謎がある。もし白露みたいな奴が人間を襲ってるとしたらもっと被害が目立つはずだ。これは俺の推測だが奴らは日常的に人は襲ってはいない、恐らく必要な時に襲うものと見てる。仮に暇つぶしだとしてもただの人間を嬲らず殺すってのは違和感がある。…金品以外で何か無くなった物とかはないのか?」
シルバの推理に目を丸くして驚き氷空は答える
「確かに金品では盗まれたものはありませんでした…ただ両親が昔、考古学者の時に集めていた資料のいくつかが無くなってるんです。ただ…私も小さい頃に見ただけなので確証はなくて警察の方にも話しましたが相手にはされませんでした。…もしシルバさんの話を真実と仮定すると人ならざる者が何かの情報を奪う、もしくは取り返すために両親を殺した?」
氷空はこの考えに確信に近い物を感じていた。なぜ両親だけなのか?自分はなぜ見逃されたのか?その全てが両親が集めた考古学の資料の為ならば辻褄が合うからである。
「恐らく氷空だけが見逃されたのはそもそも犯人の目的は両親の殺害ではなく、資料の確保。見られたからついでに殺した…程度なんだろうな。っとすまんな軽く言っちまって」
シルバも氷空と同じ考えに至っていた。そして二人の答えはその時に決まった。
「ならば、いっちょあの化け狐を捕まえて色々吐かせてみるのが一番手っ取り早そうだな。ウダウダ考えても仕方がねぇ!どうだ?雇主さん」
シルバは今の自らの雇主に同意を求める
「えぇ、ようやくここまで来たんです!絶対にあの狐から色々聞いてやりますよ!お願いします、傭兵さん!」
ここに異界の”自称”極悪人シルバと探偵氷空の即席コンビが結成された
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