1章第3節 悲壮
「どうして…?どうしてこうなったの?」
氷空はうずくまり頭を抱えていた。絶望している氷空と打って変わってシルバは水を得た魚のように生き生きとしてる。
「成り行きで巻き込んじまってすまないな、だが心配するな。テメェで撒いた種はテメェで処理するさ。じゃあな、クレープ旨かったぜ。店主も後で金持ってくるからそれで収めてくれ」
シルバは黒いコートを翻しその場を離れようとした
「ちょッ…!ちょっと待って!待ってください!私を置いてかないで下さいよ!?」
氷空は急いで彼のコートの裾を掴み動きを止める。
「どうして…?どうしてこうなったの?」
氷空はうずくまり頭を抱えていた。絶望している氷空と打って変わってシルバは水を得た魚のように生き生きとしてる。
「成り行きで巻き込んじまってすまないな、だが心配するな。テメェで撒いた種はテメェで処理するさ。じゃあな、クレープ旨かったぜ。店主も後で金持ってくるからそれで収めてくれ」
シルバは黒いコートを翻しその場を離れようとした
「ちょッ…!ちょっと待って!待ってください!私を置いてかないで下さいよ!?」
氷空は急いで彼のコートの裾を掴み動きを止める。
「あの二人組の言葉覚えてます?”テメェら”なんです!一人称ではなくて一人称複数なんです!私も的に入ってるんですよ!?カッコいい事言ったつもりかもですがそこの責任を放棄しないでください!」
氷空の魂の叫びをシルバは笑いながら聞いていた。(笑い事じゃないんだが!)と喉まで出かかった所でシルバが口を開く
「安心しろ、氷空への被害はないように片を付けるさ。むしろこのまま外に出てる方が危ないな。今回はそこの警察とやらの世話になって素直に家に帰りな」
しかし氷空はコートの裾を離さなかった。吊り橋効果の一時的な物とシルバは考えたが氷空の考えは違っていた。
「確かに警察の人に家に届けてもらって家で大人しくしてるのが一番だと思います。…それは私も理解してるという前提で話を聞いてください。シルバさん、貴方の強さをもう一度私の前で見せてください!」
氷空の口から発せられたのは今回の件を責めるものでもなく、一時的な愛情に身を委ねるものでもない。私の前で力を示せと言う試練の様な言葉であった。
「…恐怖体験すぎて脳みそがマヒったのか?」
シルバは皮肉りながらも意図を探る。彼から見て神崎氷空という少女はごく普通の世界で暮らす歳相応の少女だ。確かに所々はしっかりしているし見た目に反して大人びてるとは思っていた。だが今の質問で彼女の印象は変わった。
「とりあえず、ここにいても話をするにも不便だな、人がいない場所 俺が倒れてた海岸で詳しく話を聞こうか」
氷空は快諾し二人は海岸へ向かった
二人はシルバが倒れていた海岸近くの船着き場に座っていた
「さて、まどろっこしいのは苦手だから単刀直入に聞く。氷空、お前は何を企んでる?奴らへの復讐か?それとも大きな事をしようとしているのか?」
シルバの紅い瞳に凝視され気圧されながらも深呼吸をして答える
「私にはある夢があるんです。その夢の為にずっと頑張ってきました…高校へ行くのをやめて両親の経営していた探偵事務所を引き継ぎました。もちろん子どもの私に出来る事なんてほとんどありません。パパ活…って言ってもわかりませんよね 自分を売りに出してお金を必死に集めてきました。この3年で自信もつきました…ついたと思い込んでいました」
氷空の目に涙が浮かぶそれでも彼女は構わず喋り続ける
「今回の事件で痛感しました。私一人ではその夢を叶えられない…!努力やお金じゃどうしようもないんです!でも貴方なら、その圧倒的な強さのシルバさんの力があれば叶えられる。だからもう一度だけあの強さを見せてください!我儘なのはわかってます身勝手なのは百も承知です!それでも私の夢…両親の死因…仇を探して討つためには…」
我慢していた感情が溢れ出し涙がポロポロと頬を伝う。彼女の想いをシルバは受け止め答えを出す
「なるほどな、詰まる所両親の仇を見つけてぶっ殺して欲しい…だがどんな連中がいるかわからない。だからまずはマフィアの一つでもぶっ潰してさっきの戦いがまぐれじゃないって所を証明してほしい…で合ってるな?」
シルバは軽く笑い答える
「確かに俺を選ぶとは良い目をしてるな。だが一つ気に食わねぇな」
シルバが少し不機嫌になると氷空は慌てて訂正をする。
「ごめんなさい試そうとしていたのは本当に危険な事なのでそれに巻き込んでしまうからそれで…」
シルバはそれを上からかき消すように言葉を重ねる
「俺の実力はあの程度と思われてるのが気に食わねぇんだ!あんな塵以下のゴミ掃除で評価されるのはな…だから今回の戦いでよく見ておけよ?」
シルバは立ち上がり言葉を続ける
「いいぜ?このシルバ・デストリープは神崎氷空に雇われてやる」
氷空は心底嬉しそうな笑顔を浮かべるがそれをシャットダウンするように
「ただし、俺は利用されたりタダ働きされるのは死んでもごめんだ。お前には相応の報酬を要してもらう」
「復讐さえ済めば何でもしますし何でも払います。お金でも身体でも命でも!だからお願いします!」
氷空のこの言葉に嘘はない。両親の死因、そして仇を討てるならば全てを投げ打つ覚悟は決まっていた。だがシルバは少し怒気を孕んだ声で彼女を制す
「出会って1日未満の奴の命を投げ出されても困るし、ガキのお前の身体に価値はねぇ。この世界の金の価値はわからんが見た感じは羽振りは良くないな。つまり傭兵の相場の10分の1程度しか払えないと思うのが関の山だろう。だから俺が今一番欲しい物”衣食住”これが俺を雇う必要経費だ」
シルバは調子良さげに少し演技っぽく続ける
「この世界に来て分かった事は平和すぎて住みにくい事だ。その辺の奴殺して衣食住確保しようと思ったがどいつもコイツも戦う事すら知らなそうな連中ばかりだ…そんな奴を一方的に殺るのは後味が悪い。だから今一番欲しい物って事だ。…今まで頑張ったな」
その瞬間、氷空の3年分の想いが海へと流れて行った
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