1章第2節 暴力

衝撃的な自己紹介を受けた氷空だったがスマホで行きつけのクレープ専門店が空いてる事を確認してシルバと共に店内でクレープを頬張っていたが氷空の心中は穏やかではなかった(今冷静に考えたけどこれって逆ナンだよね…?なんかとんでもない事をやらかしたのでは?)非日常にほだされていたが席に座り冷静になりこの状況の異常さに気が付き始めた。

「へぇこの世界にもクレープはあるんだな!しかも旨いと来た。いい店を紹介してくれてありがとな」

氷空のそんな心中はお構いなしにシルバは好物らしいクレープを美味しそうに食べていた。そんなシルバを今一度観察してみる。(ただの不思議な人と思ってたけど纏ってる空気が明らかに違う。眼帯してるって事は右目は失明してるのかな…?それともファッション?明らかにこの場にそぐわない…というよりはこの世界の理に反してるって感じがする…のかな?)分析をした結果更に分からなくなり氷空は頭を抱える。そんな氷空を見てシルバは何気なく答える。

「俺の右目はファッションとかじゃなくて本当に目が潰れてるんだ、ついでに左腕も自分自身の腕じゃない。つまりそういう事が起きた世界から来たって事だ」

クレープ屋さんで話すようなレベルではない重い話を聞いてしまったのと口には出してないが失礼な事を聞いてしまったと氷空が罪悪感を感じていると「これはこれで慣れればなかなかいいもんだから気にするな」シルバが軽い口調で答える。自らの子どもっぽさを少し反省しクレープの感想を聞こうとした瞬間であった

「おい、後はテメェの店だけだぜ?おっさんよ?うちの組織に金収めてねぇのは」

「他の店はちゃーんと収めたぜ?200万」

黒スーツで固めた明らかにカタギではない二人組が店の店主を問い詰めていた。

「この土地は祖父の代から継いできたものだ!なんの関わりもないお前たちになんで200万も払わなければいけないんだ!俺は戦うぞ!」

店主は威勢よく二人組に歯向かうがそれは逆効果であった

「優しくしてりゃ調子に乗りやがってこのカスが!!あぁ?よえー癖に逆らうなよ?口だけでしか決められねぇ弱者がよぉ!死ね!」

一人が店主の頭を掴み机に何度も叩きつける。叩きつけるたびに店内に乾いた音が鳴り響き3回目辺りから湿り気を帯びた音に変わる。

「おい、テメェらも同じ目に合いてぇのか?とっと失せろ仕事の時間なんだよ!」

二人組は客を追い出すと店主に暴力を加え更に問い詰めている

「早く逃げないと…!シルバさん早く店の外に出ましょう!巻き込まれちゃいますよ!」

氷空はシルバに逃げるように諭すがシルバは動かないでいた

「なんで逃げる必要があるんだ?雑魚2匹ままごと遊びしてるだけだろ?さ、座って残りのアイスも食おうぜ」

氷空の不安をよそにシルバは席に座りアイスを食べていた。その瞬間、二人組の敵意が店主からシルバに移る

「おい、そこのガイジンさんよぉ?聞こえてんだよ全部…ただ俺らの聞き間違いって可能性もあるから今すぐ土下座して彼女売れば見逃してやるぜ?」

小ばかにしたようにシルバの目の前まで行き机を蹴り飛ばす。しかしその様子を見てシルバは意も返さずため息をつく。まるで子どもが駄々をこねているのを大人が見てるよな感じのため息だった。

「テメェ…!俺が人殺さねぇと高をくくってるのか?彼女の前で脳天カチ割って瀕死のテメェの前で彼女ぐちゃぐちゃにしてy」

”ゴギャ”という鈍く肉が潰れた様な音が店内に鳴り響く、と同時にシルバの前の黒スーツの男がしゃがみこんでいた。

「本当に殺す気があるならばさっさとやる事だな。殺る気もねぇのに威勢だけがいいってのはどこの世界でもいるんだな」

シルバはまるで空のカバンを投げるよう力を込めてるようには見えない表情で黒スーツの男を片腕一本の腕力のみで店の外まで投げ飛ばした。

「んなっ…バカな!?何だお前…超能力者なのか?」

残った片方は先ほど前の威勢は消え失せ怯えた声色で現実を逃避する。

「そうか、テメェなんかヤク使ってるんだな?じゃなきゃ説明付かねぇな…ならこれで仕留めても許しは得るな!」

そういうと鞄から青龍刀を取り出しシルバに迫る。対するシルバは眠そうに欠伸をしてつまらなそうに

「俺は弱い者いじめは好きじゃねぇんだ、加減して一撃で沈めてやるから早く掛かってこい」

シルバの言葉で完全に頭に血が上った黒スーツは最短距離で踏み込み最も切れ味がいい包丁の腹の部分をシルバの脳天へ振り下ろす。氷空の甲高い悲鳴が店内に木霊する

現実世界に直せば3秒であるが氷空にとっては目を瞑っていた時間はその数千倍にも感じた。恐る恐る目を開けるとそこには、右の人差し指1本で青龍刀を受け止めガッカリした表情のシルバが無傷で立っていた。

「この手の武器は何度か見てきたがこんなんじゃ肉も満足に切れないぜ?期待はしてなかったが予想以上に期待はずれだな…」

シルバはポケットに入れていた左手で”デコピン”をして青龍刀を折りその衝撃でもう一人の黒スーツの男も3m程度吹き飛ばされた。

「テメェ…覚えてろよ…ッ!俺らの邪魔をするって事はネクロのボスである『黒炎一司(こくえんかつじ)』さんの邪魔をするって事だぞ…?へへっテメェらまともな死に方は出来ねぇな…!」

そういうと二人組は車を捨てて逃げて行く。彼ら『ネクロ』の報復の的にされた事を受けシルバは楽しそうに笑う

「この世界もほんの少しは退屈せずに済みそうだな…」


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