1章第1節 邂逅

「今日の仕事はこれでおしまいっと…疲れたー!もう腰と肩がバキバキだよ」窓を締め切りカーテンも掛かった暗い部屋の主である小柄な少女が体を伸ばし縮み切った体の線を伸ばしていた。

「んー…もう今日のやる分の依頼は済んだし身体を解すついでに散歩でもしよかな」少女は独り言をぼやくと外に出る時に適当に羽織る用のパーカーを着て外へと外出した。 本当に何もない彼女にとってのごくありふれた日常、しかし今日この選択が彼女「神崎氷空(かんざき そら)」の運命を大きく変えるのであった。


時刻は16時半 3月も終盤に差し掛かり日が高くなった空の下、神崎氷空は鈍った身体を解すようにゆっくりとしかし足取りは軽く海岸沿いを歩いていた。氷空の趣味の一つは散歩である。最初は運動不足解消のためにしていたのだが喧騒から離れて物事を見ると違った発見がある事に気が付き好奇心を満たすためにほぼ毎日散歩をしている。

「んー今日の依頼はキツかったなぁ…ほんと猫ならまだしもインコって探せるわけないよね…ま、張り紙作って適当な日数経ったら似たような鳥買えばいいか」自然と口から独り言が出てきてしまう程に彼女はリラックスしていた。そう、海岸に倒れてる銀髪の男を見るまでは…。

最初に彼女が思ったことは「アレはマネキンで人間ではない」であった。死体の第一発見者とは犯人と思われて警察から厳しい追及を受ける。150cm未満の小柄な少女では成人男性を殺害する事は困難である事は警察は知っているが、それでも数時間の拘束は免れない。それを彼女は知っていたのでマネキンと無理やり思い込む事にしたのだが…マネキンと思っていた物は苦しそうな呻き声を上げ少し動いたのである。

「ああっ!もう!マネキンは呻かないし動かないよね!?ちょっと大丈夫ですか?私の言葉分かります?いや、そもそも銀髪だから海外の人だよね…?救急車呼ばなきゃ…!」少しパニックになりながらも119番へ連絡しようとスマホを探していたら倒れていた男がいつの間にか立ち上がってた。

「なぁ、ここはどこだ?地獄って割にはやけにつまらなさそうな場所だが…」

開口一番の言葉を聞いた氷空は(関わっちゃいけないタイプの人種だった)と強く心の中で後悔していたが右目に眼帯を付けた銀髪の男はそんな氷空の心情をお構いなしに質問をぶつける「言葉が通じねぇって事はやっぱ地獄なのか?だとしたらガッカリだな…亡者やら鬼やらと遊べると思ったのにこんなガキが相手とはな」

氷空は一番気にしてる事を言われて先ほどまで”ヤバイ奴”だった男にまくし立てる「さっきから貴方の言葉は全部届いてるんですよ!届いたその上で聞き流してたんです!いきなり地獄とか鬼とか亡者とかヤバいクスリ決めてると思うのが普通じゃないですか!?それに私はガキじゃないです!こう見えても17歳です!!一人で探偵事務所を運営できるくらいには自立してるんですよ!」

ハァハァと息を切らしてる氷空に一瞬目を丸くしてその後男は「ふっ…ハハハハハハハッ!面白いなお前、俺の風貌を見て危険と分かってるのに突っかかるとはな。悪かったよ、オレは見ての通り右目が見えねぇから人の歳をよく間違えるんだ。済まなかったな」

爆笑しながらも意外な程礼儀正しい謝罪を受け「あ、いえっこちらこそ初対面なのに言い過ぎました…ごめんなさい!」氷空も急いで謝り返した。

「しかし本当にどこにも異常はないんですか?怪我は…!」氷空が思い出したように男に問うも「あぁ、本当にどこにも異常はないな、ただ強いて言うならば…腹が減ったな」男は腹を擦りながら答えた。

「では、先ほどの非礼のお詫びもかねて私がご馳走しますよ!それに貴方の話に少し興味が出てきました。その辺の話も聞きたいですしね」氷空は笑顔を作りながら提案するとスマホで近場の店を調べる。その途中で重要な事を聞き忘れていたことに気が付いた。

「所で貴方のお名前って何ていうんですか?私は氷空、神崎氷空です」氷空の自己紹介に銀初の男は答える

「あぁ、俺の名前はシルバ・デストリープ… 前の世界を滅ぼした極悪人さ」

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