読書のなんで?
『・・・・・そのとき男が立ち上がり、彼女の方へと歩を進める。その歩みには怒りと憎しみが垣間見え・・・・
「ねぇねぇなんで?」
わたしはページにしおりを挟むと君の方へと顔を向ける。
君はお気に入りのグラスを前にしたまま、こちらを見つめている。
「今日はなにが聞きたいの?」
私が聞いても君の視線はなぜかわたしの方を向かない。その視線を追うとどうやらわたしの手元の文庫本を見ているようだ。
わたしが本を掲げて、これがどうしたのかと聞いてみると
「どうして本をよむの?」
と言った。
「それはね、・・・・・
わたしははじめてそのこたえに詰まってしまった。
本を読むのはなぜだろう。
わたしはページをぱらぱらとめくりながらそのこたえを想像する。
君はわたしがこたえに窮するのが珍しいのか、こたえをせがむことなくただ一言。
「わからないの・・・?」
と小さく呟いた。
わたしは正直にこたえることにした。
「うん、わからないな。考えたこともなかったよ」
「かんがえたこともないことをずっとしてたの?」
「うん。ただ楽しいっていう気持ちがあればそれでいいと思っていたよ」
「本をよむのはたのしいの?」
君は心底不思議そうな顔をして聞く。
わたしはそんな君の顔に若い頃の自分の影を見る。わたしも読書を始めたのは遅かったが君ほどの年齢でそんな疑問を抱くのは早熟の証だろうか。
「本を読むのは面白いよ。それに読むだけじゃない、物語を想像するのも楽しいんだ」
「そうぞうするって・・・?どうやるの?」
「・・・どう・・やるんだろうね」
わたしはここまで君のために想像したお話を思い出してみる。
そんな想像を経て、君はどんな世界を想像したのだろうか。
「君は、いつもどんなことを感じたり考えているの?」
それに君は
「なんでだろう」
って思う、と言った。
わたしはその答えに「なんでだろう」と思い、君がどんなことにそう思うのか聞いてみた。
君は真夏の太陽を、クラシック音楽を、毛並みのいい犬を、大人や子どもを、目に映るあらゆるものを「なんでだろう」という視点で見ていたようだった。
わたしは君の口にする世界を耳にするたびに、その謎に包まれる不思議な感覚を味わった。
世界が謎にあふれているのではなかった。世界を謎であふれさせるのは君のこころだった。
その時、わたしはひとつ君の疑問へのこたえを思いついた。
わたしが本を読むのは、君になんでだろうと気づかせてもらうためだったのかもしれない。
だが、わたしは敢えてそのことを伝えずに、君と一緒に本を読むことにした。
物語という非現実な世界を見て、君がどんな謎を見出すのか。
そして、どんな想像を見せてくれるのか。
それがわたしの、今一番の「なぞ」だから。
「ねぇねぇなんで?」 ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬) @Stupid_my_Life
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