冷蔵庫のなんで?

 ひんやりとした空気がわたしの腕に鳥肌をたたせる。


 そこまで広いわけでもないのに探し物に随分と時間がかかる。


 ようやくその冷たい扉を閉めたとき、わたしの後ろに君がいるのに気が付いた。


 君が見つめるのはわたしだろうか、それともこの大きな箱だろうか。


 そうして君は言った。


 「ねぇねぇなんで?」


 「今日はなにが聞きたいの?」


 「どうしてれいぞうこはつめたいの?」


 「冷たい?それは冷蔵庫が冷やすためにあるからだよ」


 「じゃあなんでひやすの?」


 わたしは一旦取り出したカップをキッチンにおき、シンクに寄りかかる。


 すると君も真似をして、わたしの横の壁に寄りかかる。わたしは君が落ち着くのを見てから、視線をどこかへ漂わせて話を始める。


 「冷蔵庫はね、ゾンビから逃げるためのシェルターなんだよ」


 「ゾンビ?シェルター?」


 初耳の横文字に君の表情は怪しい色を見せる。わたしは君が見たことがあるだろうもので例えを浮かべる。


 「食べ物を悪くさせてしまうヒトのことだよ。そう、ちょうどバイキンマンのようにね」


 「バイキンマンがいるの?」


 「バイキンマンの親戚みたいなものかな。そのゾンビくんは食べ物にくっついて食べられなくさせてしまうんだ」


 わたしは君の方へ身を乗り出して恐ろしい、という表情を浮かべてみせる。


 その顔に身を引きながらも君はまだまだ聞きたいことが溢れ出すみたいだ。


 君はなおも疑問を投げかける。


 「じゃあ、なんでつめたくするの?しめるだけじゃダメなの?」


 「あぁ、閉めるだけじゃダメなんだよ。ゾンビくんはとっても小さいからね、どんな隙間からでも食べ物を見つけにやってくるんだ」


 「じゃあ、ここにもたくさんいるの?」


 「そうだよ。目に見えないだけでたくさんいるよ」


 君はまたキョロキョロと周りを見渡して不安そうな顔を見せる。


 わたしはかがんで君の頭に手をのせる。君を恐怖からすぐにでも守ってあげれるように。


 「大丈夫だよ。ゾンビくんは君を食べ物と勘違いしたりしないから」

 

 それを聞いて君はようやく安心したようで、それまで抑えていた不安や恐怖を疑問に乗せて吹き飛ばそうとしているみたいにわたしを質問攻めした。

 

 「じゃあ、ゾンビくんはどんなものにくっつくの?」


 「一度火を通したものかな。君が昨日食べた炒め物なんかもそうだよ」


 「どうしてそれにくっつくの?」


 「火を通した食べ物は昔、自分が生きていた時のことを思い出すのさ。そうなると体はまた動こうとする。そこをゾンビくんたちは狙っているんだ」


 「くっついてどうするの?」


 「食べ物を乗っ取るの、そうしてじわじわと熱を取り戻そうとするんだよ」


 「おねつがもどるとどうなるの?」

 

 「ゾンビくんは食べ物にもう一度いのちを与える。でも、それはあっちゃいけないものなんだ。もしそれを食べたりしたらぼくも君も気持ち悪くなっちゃうよ。だから、ゾンビくんに乗っ取られないように一度火を通した食べ物は冷やさないといけないんだ」


 「ゾンビくんはほんとににんげんにはつかないの?」


 君の不安は最後までそこにくっついて離れないようだ。


 「大丈夫。くっついて悪さしたりしないよ」


 わたしはもう一度頭に手をのせて安心させる。


 「君は生きている。それがなによりの証拠じゃないか」


 君をリビングに向かわせて、わたしははじめに出しておいたカップをまた冷蔵庫に戻しておいた。

 

 おやつのアイスクリームはもうしばらく我慢してもらうしかなさそうだ。

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