第2幕 キャラメイク

「ようこそ、アーク・ファンタジア・オンラインの世界へ」


 何も無い殺風景な部屋に、一人のアンドロイドが出迎えてくれた。


「えーっと。あの、貴女は?」

「わたくしはナビゲーションシステム・ナウルと申します」


 彼女は無表情のまま私にそう答えた。


 キャラメイクとかは彼女に言えばいいのかしら?


「じゃあ、早速キャラを作りたいんだけれど……?」


「はい。かしこまりました……うん? もしや貴方は霧崎アリア様ではないでしょうか?」


「……え、そうだけれど、なんで……って、ログイン情報に私の名前を登録したから知ってて当然よね」


「――いえ、そうではありません。貴方がログインされたら、霧崎様からアリア様にコレをお渡しするようにと」


「お父様が私に……?」


「はい。アリア様専用アバターと専用武器になります」


 ナウルがそう言うと、突然大きなリボンが巻かれた箱が一つ、私の前に出現した。


「霧崎様から一件、メッセージも届いておりますが……再生されますか?」


「……今日も帰りが遅いとかな? じゃあメッセージの再生をお願いします」


「でも、霧崎様からのメッセージを再生します」


 ナウルがメッセージを再生すると、いつもの渋いお父さんの声が聞こえてくる。


『ハッピーバースデー! マイドーター! 驚いていると思うが聞いてくれ! ずっとやってくれなかった会社のゲームへの初ログイン……そしてお前の誕生日が被るとは何という奇跡! それを記念して、お前にこの未実装アバターを送ろう……これでお前のオンラインライフを楽しんでくれ!』


 メッセージの再生が終わると同時に、リボンが解け箱が空いた。


「ちゃんと覚えててくれたんだ。私の誕生日を」


 仕事は忙しくなってから二年間。

 誕生日プレゼントは無かったから、このサプライズはやっぱり嬉しい。


「でも、誕生日プレゼントがアバターって言うのが、お父さんらしいな」


 私は目の前にあるアバターに目を向けた。


 猫を連想させるアバターだけれど、手足は人間と変わらない。

 ベリーショートの髪型に目も大きくて人間っぽくて、可愛らしさがある。

 身長は120くらいかな。


 それと、背中には身長以上に長い剣が妙に目立っている。


 多分、コレが獣人と云う種族アバターだと思う。

 サエコから耳にタコができるくらい、散々聞かされたことがある。

 俊敏さが特徴だとかなんとかいろいろ聞いてはいたけれど。


「ステータスポイントの振り分け・職業の選択は、すでに完了しております」


「そうなの? それは助かるわね」


 ポイントは振り分けや、どの職業がいいのかなんて、私には分からないのよね。


 お父さんの配慮には感謝だな。


「では最後に名前を決めて頂ければ、直ぐにでもゲームを開始する事が可能です」


 目に出たキーボードに私は名前を打ち込む。


「……名前ねぇ」


 猫型獣人アバターを見たときに、私は彼女の名前を思いついていた。


「――黒猫……っと」


 キーボードを叩いて、名前の登録を完了させる。


「良いお名前だと思われます。では、黒猫様。アーク・ファンタジア・オンラインの世界をお楽しみください」


「ええ。ありがとう、ナウル」


 私はナウルにそう言うと、いつも間にか目の前にあった扉を勢いよく開け放った。


 私は遂にゲームの世界へと足を踏み入れたのだ。

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