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どこの高校もそうだかはわからないけれど、単位制高校の三月はどうやら暇らしい。教師は講義の時間になると口を揃えて「今年度やることは終わったので、自習で」と言う。やること終わっているのに、自習も何も無いよね……と思いながら四十五分を二セット、実質九十分間スマホを弄って一単位の講義は終わり。それを三回繰り返して、一日が終わり。単位制高校の三月はスマホゲーが捗るね。
ただ確か明日だったか、生物だけは未消化だから課題が残ってる。でもそんなもん。
その日最後の講義を終えて、幸と合流してなんとなく歩き出した。今日はまっすぐ帰ろうか、それともコンビニのイートインで茶でもしばくか、なんて話しながら昇降口に差し掛かる。
そこには先日転校することが話題になった、七森加奈さんがいた。七森さんと私の下駄箱は隣に位置している。七森さんは私と幸に気付くと、微笑みながら会釈した。大人しいけれど、愛想のいい子なんだよなぁ、七森さん。転校すると聞いたせいか、もう少し話しておけばよかった、なんて気持ちになってしまうのは場の空気に流され過ぎだろうか。
そしてそんな気持ちに流されて、私は七森さんに言葉をかけることにした。
「七森さん、おつかれー」
「森崎さん、伊吹さん、お疲れ様」
幸は私が七森さんに声をかけたところを不思議そうに見ていたが、すぐになんとなく会話に混ざって来た。
「七森さんはこの後何するのー?」
と、幸。七森さんは上履きを仕舞いながら何気なく「んんー」と一つおいた。
「まっすぐ帰って、アニメでも見るかなー?」
私はその返答に少し驚いた。
「まじ。七森さんって普段何見るの?」
それから歩きながら五分ほど三人でアニメの話題に花を咲かせて、駐輪場に行くという七森さんと別れた。
七森さんと別れてからも少しの間、幸は少し嬉しそうな顔をしていた。私も同じ顔をしていたと思う。二人でも楽しいけど、たまに違う人も混ざると違う楽しさがある。幸がスキップで私の前に出てから言った。
「七森さん、めっちゃいい子だね! もっと喋っておけばよかった」
「私も思ったー。趣味合いそうだったしね!」
「じゃあさ、美幸。今年最後の雪遊びすっぞ!」
「やっちゃう~?」
脈略は無いけど、気分がマッチすればなんでもやる。それが私たちであり、女の子だ。意味わかんない。意味わかんないけど、それがとっても楽しい。
テンション上がったら雪遊びするし、かまくらも作るし、川に飛び込むし、キャンプファイヤーだってする。中学生の頃幸と出会ってから、危ないこと以外は何でもやってきた。
雪が積もった公園に行き、とりあえず雪玉を作って幸に投げた。綺麗に避けたけど、幸は悔しそう。
「このやろ~初手は私が投げたかったのに~」
「へへへー、悔しかったら私に当ててみろ!」
雪玉が二、三個飛んできた。避けきれずに雪玉が二つ、スカートと太ももに直撃。うわ、悔しい。
「ちょ待ってよさっちん! コレめっちゃ太もも冷たい! ギャー!」
「ははははは! 吠えろ吠えろ、太もも狙ってこ!」
「鬼かよ!」
「フラグかと思ってー」
幸は結構運動神経がいい。私が投げるのはバッチリ避けて、尚且つ的確に私の太ももに雪玉を当ててきた。いやいや、霜焼けしそうなほど冷たいんだが。
「このー、投げてダメならこうだ!」
「ひゃっ!」
私は幸の手を引いて一緒に雪の上に横になった。
「ちょっと美幸、これは雪合戦のルールに反する! うわーつめた!」
「冷たいよねー」
「でも、なんか気持ちいいかもー」
雪合戦を少しやった私たちの体はそこそこ火照っていたのか、確かに雪の上に横になると気持ちが良かった。幸は続けた。
「なんか、空って久々に見たかも」
「疲れたサラリーマンみたいなことを言うね、さっちんは」
「美幸は空、見てるの?」
「そうでもない」
「一緒かよ、疲れたサラリーマン仲間じゃん」
「いや自分女子高生なんで」
「うぜー」
そんな会話をしていると次第に笑えてきて、私たちは雪の上に転がりながら笑った。道行く人が不思議そうに見ていたけど、気にしなかった。
「私、さっちんのこと、好きだなー」
私の口からはそんな言葉が自然に漏れ出てきた。少し自分でもびっくりしたけど、そういう意味には取られない確信があったから、気にしないふりをしながら、幸の横顔を流し見た。幸はへへっと笑う。
「今更何言ってんの、知ってるし」
「…………」
『それは、どういう意味で?』って聞けなくて。
聞いたら多分、三年間積み上げてきたものが消えちゃうから、聞けなくて。
でも三年間積み上げてきた気持ちは、岩みたいに動かないものになって来ちゃってて、どうしたらいいかわからないよ。私、変なのかな。
「はー、さっちんエスパーかよぉ」
笑いながら、思う。
多分、変なんだろうなぁ。
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