第106話 アレン軍VSレステア軍・魔王軍幹部①

 ケイトたちの背後から突如として現れるカシス、ソルト、コーニール。

 レステア軍との挟み撃ちにあい、特にキリンは困惑していた。

 挟み撃ちにあったことではなく、カシスたちが現れたことにだ。


 その上、自分たちに付くか、このままアレンたちに付いているのかの選択に迫られていた。


「どうするのです、キリン?」

「てめえ、テレサ様を裏切ったのか!?」

「う、裏切るつもりなんて……」

「〈魅了チャーム〉ですか……しかし肝心のアースターの魔王はいないようですが?」


 戦う手を止め、カシスたちに向き合うキリン。

 どうすべきか……

 もちろん、テレサを裏切る気持ちなど毛頭ない。 

 しかし……アレンから離れるというのも考えられない。

 どちらを選べばいいのか。

 どらちも選びたいし、どちらも捨てたくはない。


 キリンは葛藤する中、あいまいな答えを導き出す。


「テレサ様を裏切るつもりはない……」

「では、一緒にこの者たちを殺すとしましょう」

「でも、みんなの敵になるつもりもない」

「…………」

「だから私は、あなたたちと戦わない」

「なら、こいつらは私たちに任せておけ」


 ケイトが大鎌をカシスに振り下ろす。

 しかしカシスはスッと体を捻るだけでそれを避けてしまう。


「……やるようだな、こいつ」

「カシスは、私たちの中で一番強い……気をつけて」


 そう言ってキリンはレステア軍の方へと駆け出していく。

 カシスと対峙しているケイトを発見したエドガーとウェンディがケイトの下へと駆け付ける。


「こいつらは、殺してしまってもいいのか?」

「ああ。操られているわけでも脅されているわけでもない。純粋に私たちを殺しに来ているだけらしいからな」

「なら、遠慮なくやらせてもらう」


 エドガーは大地に殺傷能力の無い大剣を突き刺し、背中の大剣を両手に持つ。

 カシスは微笑を浮かべながら、冷たい瞳でエドガーを見る。


「お前の相手は俺がしてやろう」

「少々面倒ですね……だが、遅かれ早かれやることにはなる、か」


 二人が視線をぶつけた瞬間――二人の体が消え、ケイトたちと離れた場所でぶつかり合う。

 ケイトはその二人の様子を横目で見ながら、ソルトをギロリと睨み付ける。


「あんたには借りがあったな……ここで返しておくよ」

「てめえごときが俺に敵うと思ってんのか!? イライラさせんじゃねえ!」

「ちょっとお姉ちゃん。僕のこと忘れてない?」

「……お前みたいなアフロ頭は初めてみるぞ」

「こ、これはお姉ちゃんがやったんじゃないか!」


 ケイトの言葉に憤慨するコーニール。

 ウェンディが嘆息しながら、コーニールに言う。


「子供がそんな派手な頭して。似合ってないとは言わないけど、もう少し普通の頭にしたほうがいいじゃない?」

「だからこれはこのお姉ちゃんにやられたの!」

「そうなの? 酷いことするお姉ちゃんだね。私がいい子いい子してあげようか?」

 

 ウェンディの言葉に眉をピクリと動かすコーニール。


「かっちーん。僕、ちょっとムカついちゃった」

「短気なところも、やっぱり子供だね」


 コーニールは何か言うでもなく、ウェンディの顔に向かって飛び蹴りを放つ。

 それをレイピアで受け止めるウェンディ。

 二人の戦いが始まる。

 それと同時に、ケイトとソルトが衝突する。


 ケイトの鎌を避け、彼女の首に噛みつこうとするソルト。


「相変わらず犬みたいな奴だな、お前」

「ぐふっ」


 ケイトの蹴りがソルトの腹を捉える。

 ソルトは腹を抑えながら後方に下がった。


「てめえ……ぶっ殺す!」


 レステア軍と戦っているセシルたち。

 オージが七つの星を従え、次々に敵を気絶させていく。


「おらぁ! お前らみたいな奴、どれだけこようが負けねえぞぉ!」


 オージが振るう斧に従う星は、一撃で数人の男の頭部を狙う。

 相手を気絶させるだけの戦いにおいて、一番敵を倒していたのはオージだった。

 他のみんなは能力を使いづらいようだが、オージに従う星は加減がきくようで、一振りごとに大勢の男たちを薙ぎ払っていく。


「つ、強いぞあのドワーフ……」

「ドワーフだけじゃない! こいつら全員強い!」


 数では圧倒的に向こうが上回っているというのに、気持ちではすでに後退を始めていた。

 圧倒的な実力差。得体の知れない自信。そして数をものともしない度胸。

 その全てに恐れをなし、ジリジリと後ずさっていく。


「やはり正義は我にあり! 行くぞ、みんな!」

「手加減しなくていいなら、もっと楽勝なのにね」


 セシルとヘレンが更に勢いを増していく。

 皆の勢いはとどまることを知らず、気が付けば数千のレステア軍の者たちを倒していた。


「このままの勢いだったら、いけそうだね」

「だが油断するなよ、お前ら」


 ホルトがヘレンたちにそう言う。

 すると、突然レステア軍の者たちが急に中央部分を開けるように左右に分かれて行く。

 真ん中に道が出来上がり、一人の男が力強い瞳でこちらにやって来た。


「てめえら、ネリアナの邪魔するってんなら容赦はしないぜ」


 それは、三つピアスを付けた美男子のツクモだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る