第105話 激闘セントレイン③
「魔王相手に……配下のみだと……バカにするなよ!」
「怒」
「私は配下じゃねえ!」
翼を広げるユーブラムに向かって駆け出すクリスリン。
その速度は獣人ならではの、野性味あふれる凄まじいものであった。
一瞬で敵との距離を詰め、雷のような迅さの蹴りを放つ。
「オラッ!」
再度、壁にめり込むユーブラム。
クリスリンは拳の連打を浴びせる。
骨と骨がぶつかり合う、鈍い音が響く。
相手を殴るその表情は、怒りと喜びに満ちていた。
怖っ。
あの子、ケイトに通ずるものがあるな……怒らせたらダメなタイプだ。
「……この間とは動きが全然違う……どういうことだ!?」
クリスリンの爆発的なパワーアップに驚くヤンダリル。
それはドリンクと聖機剣のおかげでしょう。
そして……クリスリンも運命の力を宿しているのだと、俺は考える。
シフォンが言っていた、仲間が集まれば集まるだけ、みんなの能力が上がっていく〈シナジー〉。
急激な戦闘力の上昇はそれら全てを含めてのことだろう。
本来なら魔王に及ばないはずだが……こうして好条件を幾つも満たしたことによって、魔王と戦えるだけの力を発揮している。
と言っても、クリスリン自体の強さが無ければ魔王相手に戦えるわけがない。
多分だけど、ケイトだったらこいつらには敵わないと思う。
二人は、純粋にケイトより強いのだ。
少し動揺したこともあるのか、ヤンダリルはサンデールの爪に捉えられる。
「この――」
「うん!!」
右の爪で胸の皮膚を引っ掛け、すかさず相手の腹部に左拳を喰らわせる。
ヨロヨロと後退するヤンダリル。
「なめるな……なめるなぁ!」
ヤンダリルの両拳から黒水が生じる。
「暗黒水虎陣!」
ヤンダリルが地面を両腕で殴りつけると、大地から剣のように鋭い水刃がいくつも発生する。
サンデールは後方に飛んで避けようとするが、数発直撃してしまう。
「サンデール!」
「隙」
サンデールの方へ振り向いたクリスリンは、ユーブラムが放つ風に切り裂かれ、吹き飛ばされる。
「くそっ!」
ユーブラムはのそっと起き上がり、はぁはぁ息を切らせていた。
自身の体を見下ろし、その表情は驚きに満ちている。
「変」
「ははっ! どうだい。それが私の能力、〈
「ちなみに、どんな能力なんだよ?」
額から流れる血を腕で拭いながらクリスリンはニヤリと笑い、話す。
「攻撃した相手の状態を異常化させ、体力を消耗しやすくしたり、能力を低下させたりするんだよ。これが結構強烈でね、ちょっと力を使っただけであの有り様さ」
「なるほど」
相手の消耗を上昇させて、弱ったところをなぶり殺しにする能力か……
やっぱ怖っ。
クリスリンはユーブラムから視線を外し、ヤンダリルに向かって駆け出す。
一撃入れることができれば――相手の能力を下げることができる。
そうすれば、戦いを有利に展開できると言うわけだ。
サンデールはクリスリンの能力を知っているのか、血まみれの体でヤンダリルに突進し、その動きを封じ込める。
「く……邪魔だ! 獣人!」
「お前だって半獣人だろうが! セントレインで魔王しておいて、そんな言い方あるかよ!」
「がはっ!」
突き刺すようなクリスリンの飛び蹴りを顔面に喰らうヤンダリル。
サンデールはそのヤンダリルの体を持ち上げ――頭から地面に勢いよく落とす。
石造りの床が割れ、大地にヤンダリルの頭が突き刺さる。
「殺」
ユーブラムはその様子を見るや否や、全速力を持って飛翔する。
するとクリスリンはサンデールの腕にひょいっと飛び乗った。
サンデールは体をねじりにねじり――クリスリンを投擲するかのように腕を振るう。
タイミングを合わせてサンデールの腕から、大砲の弾のように飛び出すクリスリン。
爆発的な速度でユーブラムに突撃をする。
「ぶっ飛べ!!」
カウンター気味に入るクリスリンの右フック。
ユーブラムは顔面を歪ませながら、また観客席の方へと押し戻される。
そのまま相手を追撃するように、クリスリンは距離を詰めて行く。
ヤンダリルが地面から起き上がり、血まみれの顔で怒り叫ぶ。
「うおおおおおおっ!! 俺は……俺たちは魔王だぞ! 魔王の部下程度の奴らに負けるわけにはいかない!!」
「って言っても、負けてるよね。どう見ても」
ターニャは三角座りをしながら二人の戦いを観戦し、そう呟いた。
「それだけあの二人が強いってことさ」
「でもでも、アレンの方が強いじゃん。この間私のためにイカと戦った時、もっと凄かったよ」
ポワーッとしながらターニャはン=ドウェンとの戦いを思い出しているようであった。
いや、別にターニャの為に戦ったわけじゃないんだけど……
ってか、あれはほとんどターニャが倒したようなものだろ。
一撃で瀕死状態にしたのはターニャなんだからな。
と、彼女に言いたいところではあるが、聞く耳を持つわけもないので俺は黙って二人の戦いに視線を戻した。
ターニャは妄想にトリップしていて、もう戦いには興味の欠片もないようだ。
もっと現実に目を向けようね。
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