第104話 激闘セントレイン②
「うん!!」
サンデールの振り下ろした腕から、巨大な真空の爪が五つ出現する。
それは尋常ではない速度で、ヤンダリルを襲う。
「何だとっ!」
スレスレでそれを回避したヤンダリル。
背後にある壁に凄まじい爪痕が出来上がる。
それを見たヤンダリルの表情が変わった。
「……あながち冗談じゃねえみてえだな」
「冗談なんて最初から言っていないんだけど。サンデールはお前に勝つ」
「……計算が違った……まさか、部下までもこんなに強いとは」
ガシッ! とサンデールでヤンダリルが激しい組み合いをする。
「うんんんんんん!!!!」
「ぬおおおおおおおおっ!!!!」
二人から激しい力場が発生し、一緒にいた獣人がその衝撃に必死に耐えていた。
「サ、サンデール様……こんなにお強いなら、なぜクリスリン様との戦いの時は……」
「自分のためには力を発揮できないんだよ、サンデールは」
「今は……クリスリン様のために……」
「…………」
クリスリンは複雑な表情でサンデールたちの戦いを見届けている。
すると奇襲とも言える速度で、ユーブラムがこちらに向かって飛翔して来ていた。
「死」
ユーブラムは風を巻き起こしながら、俺に突撃を仕掛ける。
奴の蹴りが俺の腹部に突き刺さる――が。
「!?」
「魔王に変化するなら、さっさとしておいた方がいいんじゃないか?」
「バ、バカな……こいつの蹴りで、私の仲間は数十人も一度にやられたんだぞ……」
ユーブラムの蹴りを喰らい、平然としている俺の姿に驚愕するクリスリン。
説明しよう。メルバリーを吸収したことによって、防御能力が大幅に更新されたのである。
よって、魔王にもなっていないコイツ程度の攻撃など、ビクともしないのである。
軽いのである。
「変」
俺から距離を撮ったユーブラムは、魔王の力を解放した。
全身が真っ黒になり、そして赤い紋章が浮かび上がり、巨体化する。
「くっ……」
魔王二人分のプレッシャー。
獣人は青い顔をして震えている。
「風」
黒い翼を羽ばたかせ、暗黒の風を生み出すユーブラム。
「あ、あんなもの喰らったら、私達は……」
俺だけではなく、クリスリンらもろとも全てを巻き込むかのように黒風が襲い来る。
が、
「〈
俺の足元から巨大な岩が突き出す。
それは岩の壁。
壁は全ての風を受け止めると、静かに大地に沈み込んでいく。
「!!」
ユーブラムは目を丸くする。
クリスリンと獣人は口をあんぐりとさせ、放心状態。
あ、俺のこと褒めてくれてもいいよ。
凄いって言ってもらえた方が頑張れる性格なので。
「残念ながら、俺には通用しないみたいだな」
俺は大地を蹴り、全速力でユーブラムへと接近する。
「〈
水の膜に包まれた俺の右腕は、刃物のような切れ味でユーブラムの胸元を切り裂く。
ユーブラムはその速度に反応できずに、フラフラと後方へ下がる。
「速」
「だろ?」
さらに一歩奴の方へと踏み込み、強烈な蹴りを喰らわせてやる。
弾丸のように吹き飛んでいくユーブラム。
体は二階の観客席に激しく突き刺さる。
「つ、強い……なんて強さだ」
獣人は相変わらず驚くばかり。
ターニャは当然とでも言わんばかりにふふーんと鼻を鳴らす。
俺もついでに鼻を鳴らしておく。
「この! 獣人が!」
激しい怒りを露わにするヤンダリル。
しかし、その感情からは考えられないような柔らかい動きでサンデールの腕から逃れる。
そして水の如く流れるような動きでサンデールの周囲を回り出した。
「うん!」
相手を切り裂くように、衝撃波を放つサンデール。
しかし、ヤンダリルはその攻撃をくるりと回転しながら回避する。
巨体からは信じられないような素早い動き。
まるで水を剣で斬るぐらい、サンデールの攻撃が無駄なようにも感じられる。
事実、次々と攻撃を繰り出すサンデールの攻撃を、全て寸前のところで回避するヤンダリル。
「貴様のような力技、俺に通用するはずもない!」
ヤンダリルの拳から黒水の弾丸が放たれる。
威力は高いらしく、それをサンデールは腕で防御をするものの、軽々と吹き飛ばされた。
「魔王アレン! もうこいつに勝ち目はないぞ! これでもまだこいつを俺に宛がうか!?」
「まだ勝負はついちゃいない。最後の瞬間までサンデールに任せる」
「うん!」
ヤンダリルに接近し、爪を振るうサンデール。
しかし奴はそれを軽々と回避していく。
「おい、あんた」
「何?」
クリスリンが俺をギロリと睨み付ける。
「私はね、男に守られてるだけの女じゃねえんだ……だから、私にも戦わせくれ」
ガラガラとユーブラムが瓦礫から起き上がってくる。
俺はクリスリンの瞳をじっと見つめていた。
彼女から、サンデールに匹敵するだけの底力を感じる。
獣人はドワーフ以上に力こそ全て、と考える種族らしいし、彼女には人間には理解できないプライドというものがあるのだろう。
なら、ユーブラムは彼女に任せてもいいかも知れないな……
「分かったよ。じゃあ、これを飲んで」
俺はサッとドリンクを取り出し、パパッとコップに注ぎクリスリンに差し出す。
「な、何だよこれは?」
「お前があいつに勝てるよう、必勝祈願ってところかな」
「?」
クリスリンは怪訝そうな顔をしながらも、それをぐいっと飲み干す。
そしてカッと目を見開き、俺の前に出る。
「サンデール……この二人、私らで倒すぞ!」
「……うん!」
クリスリンの言葉に応えるサンデール。
彼は一旦彼女の横まで後退し、魔王二人を見据える。
「行くぜ!!」
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