第102話 アレン軍VSレステア軍

 レステアの軍勢が、アディンセルの山へと足を踏み入れる。

 山に上がって行く数も相当なものだが、山の麓に待機している兵士もおびただしいほどの数がいた。

 軍の後方では、ネリアナとツクモがいる。

 ニヤリと片頬を上げるネリアナと、静かに山を睨み付けるツクモ。


 この数ならば、どんな奴らが相手だろうと負けるわけがない。

 それに……ツクモもいるし、私の能力もある。

 そう、これは勝ち戦なのだ。

 このネリアナ・レステアに約束された、絶対勝利の戦いなのだ。


 だが――


「こ、こいつら……強いぞ!」

「ま、まるで歯が立たない……」


 足場の悪い山の中で兵士たちを迎え撃つケイトたち。

 仲間が集まったことにより、さらなるシナジーが発生し、また強さに磨きがかかっていた。


「相手は簡単に倒せるが、やはり手加減しながら戦うのは少々面倒だな」


 大鎌を振り下ろしながら、ケイトはぼやく。

 

「全くだ。皆殺しでいいなら、10倍は早く相手を倒せるのだがな。しかし……」


 エドガーは大剣で敵の頸椎を次々に叩きながら、自分の力に驚いていた。


「アレンのドリンクというのは、凄まじい効力だな」

「ああ。だけど、ダークエルフの能力も面白いものじゃないか」


 チラリとウェンディに視線を向けるケイト。

 彼女の遥か頭上には、〈慈悲なき枯れた太陽サン〉が黒く輝く。


「敵の力を低下させる能力か……ドリンクを飲んでいたセシルがお前に負けたわけがよく分かったよ」

「くそっ……いいか、いつか絶対に俺がお前に勝つ!」


 セシルは憤慨しながら、敵を蹴散らしていく。

 その剣に白い炎は纏わせていない。

 殺さないよう手加減するため、力は解放せずに戦っている。


「ふっ。楽しみにしているぞ、勇者」


 バタバタ倒れていく兵士たち。


「山の中では勝ち目がない……いったん後退するぞ!」

「何だ何だぁ。逃げて行くぞぉ」

「私たちを山からおびき出そうとでも言うのか?」


 下山した兵士たちは、ネリアナにケイトたちの事を報告する。

 するとネリアナは冷たい表情でひとことだけ告げた。


「山に火を点けなさい」

「はっ!」


 兵士たちはネリアナの操り人形。

 たとえどんな命令であろうとも、絶対服従なのである。 

 彼らの自我があればそんなことやるわけもなかったのだが、彼女の能力の前ではそんなものも意味は無かった。


 山に火を点ける兵士たち。

 ケイトたちは火が燃え上がっていく光景を目の当たりにし、ギョッとする。


「ここまでやるのか、ネリアナってのは……」

「ど、どうしましょう、ケイトさん!」


 ナエが大慌てでケイトの腕をブンブン振るう。


「お前の能力で火を消せ。私は――」


 ケイトはナエの手を離し、山を駆け下りていく。


「直接叩きに行く」

「考えなしだな」

「考えている間に敵を減らす方が早い」


 エドガーたちもケイトに続き、山を下りて行く。

 数万との正面対決。

 だが、誰一人として絶望の色は浮かべていない。

 運命の力を持つ者たちは、全員希望を灯した瞳で敵の下へと向かって行く。


 ナエは一瞬パニックになるが、ハッと何かを思いつき、能力を発動する。


「消防車なら……!」


 四角の形をして車輪らしきものがついた鉄の塊を顕現させるナエ。

 横から伸びている筒状の物を掴み、火に向ける。

 すると物凄い勢いで、筒から水が噴射されていく。


 その水を浴びながらケイトたちが山から飛び出すと――


 美しく小さな虹が生まれ、その虹と共に敵の前に姿を現せる。


「平地ならお前たちに――がっ!」


 草原で待ち構えていた兵士たちを軽々と倒して行くケイトたち。

 だが、眼前にいる数の暴力に固唾を飲み込む。


「骨が折れそうだな……だが、正義が負けることはない!」

「よーし、ぶっ飛ばすぞ!」


 セシルとヘレン、ホルトは連携を取りながら敵に攻撃を仕掛ける。

 セシルが真っ先に敵と衝突し、ホルトがフォローすし、ヘレンは舞いながら追撃を仕掛けていく。

 

「や、やはり強いぞ!」

「引くな! ネリアナ様は攻めろと仰っている!」

「そんな言葉に従っているのかよ、あんたたちは!」


 セシルは一撃で兵士たちを倒し続けながらそう叫ぶ。

 ホルトとヘレンはセシルに襲い来る敵をなぎ倒して行く。


「こいつら、連携が取れている……他の奴から倒せ!」

「やらせるとでも思ってるの?」


 みんなから離れた場所からイースが弓を射る。

 彼女の意思に従う矢は不規則に軌道を変え、兵士たちの肩、膝、あるいは太ももなどに突き刺さっていく。

 その隙にキリンとウェンディがレイピアで相手を気絶させていき、数万の軍勢を相手に、押し続けていた。


 勢いだけで言えば、ケイトたちはレステアの兵士たちに勝っている。

 このまま行けば、彼女たちの勝利もあり得るであろう。

 ケイトたちも全員、そう信じてやまなかった。


 しかし――


「キリン。今すぐに選びなさい。そちらに付くのか、私たちと戦うか」

「カ、カシス!?」


 突如現れた第三勢力に、状況は変化しようとしていた。

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