第101話 戦いの前のケイトたち
「ま、また戦いが始まるんですね……」
屋敷でチェイスが震えながらそんな言葉を漏らしていた。
この間のエルフとの戦いで、為す術も無くン=ドウェンにやられてしまったケイトたち。
チェイスはその戦いにおいて、恐怖を心に刻まれてしまった。
アレンがいれば死なないはずだと思っていたが、今こうして彼はこの場にいない。
もしまたン=ドウェン級のモンスターが現れたら……
そう考え、また震えが収まらないくなるチェイス。
「お前は逃げてもいいんだぞ。あっちの狙いはアレンと……それに私らしいからな。そうだったよな、ステイ」
「え、ええ……あの人は、アレンと白髪の女を殺すと意気込んでいましたので……ケイトさんで間違いないと思います。ぃひっ」
「ってことだ。だからチェイスだけじゃない。みんな逃げていいんだぞ」
その言葉に鼻で笑うセシル。
「仲間を見捨てるなど、正義の風上にも置けない行動、取るわけないだろ」
「そうそう。仲間なんだから助けて当然だよね」
ヘレンはセシルに同調し、歯を見せて笑う。
ケイトは二人に微笑を向け、そしてチェイスに話す。
「みんなは仲間で、お前だってそれは同じだ……でもまだお前は子供なんだから、怖かったら逃げればいい。誰もお前を責めやしないし、文句は言わないさ」
「で、でも……」
ケイトはポンッとチェイスの肩を叩く。
「仲間は以前より増えた。どれだけの敵がいるのか分からないが、やってやれないことはないだろ」
「ここにいるみんな、強いからね」
そう言うのはウェンディ。
彼女の傍らにはエドガーがいて、さらにその隣にはオージがいる。
元々エルフに馴染み切れないウェンディは、問題が解決したことによりアレンについて来た。
エドガーは当然ウェンディと共に行動し、オージはオージで他のドワーフに全部押し付けてアレンの下にやって来ていたのだ。
ドワーフの代表という立場であの場に踏みとどまるより、アレンと共にいるほうが学ぶことも多いと思い、彼はここにいる。
そしていきなり大きな戦いが始まろうとしていることに、高揚していた。
「誰がぁ来ようともぉ、勝ってみせるさぁ。アレン以外にぃ負けるつもりはねえぇ」
チェイスは俯いたまま、何も言わなかった。
自分は確かに子供だけど……僕だって仲間なんだ。
でも……怖い。戦いが怖い。
「……チェイス。お前はターニャの家にいろ。あそこはネリアナってやつの実家だ。あそこにいれば、ある程度は安全のはずだ。後は私たちに任せておけ」
「…………」
ケイトたちは屋敷の表に出て、偵察に出たホルトの帰りを待った。
ホルトは十分ほどで帰還し、みんなに報告する。
「敵は全勢力をあげてこちらに向かっているようだ」
「数は?」
「分からないが……万単位でいるだろう」
「ま、万単位……」
ナエがホルトの言葉に顔を幽霊のように真っ青にする。
ケイトはそんなナエに冷静に言葉をかけた。
「ナエ。悪いがこの間みたいに武器を創ってないか?」
「ぶ、武器って……殺傷能力の無い物をですか?」
「ああ。皆殺しにしても私は構わないと思っているが……相手は全員、操られているんだ。流石に罪も無い奴を殺すのは、後味が悪くなりそうだしな」
「後味が悪い、だけで済めばいいんだがな」
「どういう意味だ?」
エドガーの呟きに反応するケイト。
彼は微笑を浮かべ、話す。
「手加減して全員を殺さずの戦い……下手すれば、こっちがやられてしまう可能性だって大いにある」
エドガーは至極冷静に物事を分析し、必要とあらば人を殺してもいいとも考えている。
今回は、相手が操られているにしろ、やらなければやられる。彼はそう考えていた。
「確かにそうだが……アレンが悲しむ、だろ?」
「……あんな甘ちゃんの大将など、見たことないない」
「アレン様を侮辱するのか!」
エドガーの言葉に怒りを露わにするセシル。
「侮辱などしない。冷静にそう判断しているだけだ。あいつは甘ちゃんで……だからこうして、俺は生きている」
「私もエドガーも、彼が相手じゃなかったら死んでいたものね」
ウェンディと微笑を浮かべ合うエドガー。
そしてケイトにも微笑を向け、続ける。
「俺たちの大将がそれを望むのならば、俺たちもそれに従おう。彼には一生かかっても返しきれない借りがある。戦いが終わって、アレンが笑っていられるように尽力しよう」
誰も口にはしないが、この場にいる全員が、形は違えど、アレンに惚れこんでいた。
彼のために働き、彼の喜ぶ顔が見たい。
そのためにも殺さずの戦いを決意する。
ナエは全員分の武器を用意し、皆それぞれそれを手に取る。
エドガーとセシルは心を落ち着かせるように、目を瞑ったまま静かにしており、他の皆は武器を確かめたりそわそわしたりなど、落ち着かない様子。
「というか、正面から戦う必要ってあるのかしら?」
キリンはふと思ったことを口に出した。
「どうせどこかで決着を付けないと一生付きまとってくるだろうさ、あれは。それに、売られた喧嘩は買う主義だからな」
「だったら全部終わったら私と戦ってもらおうかしら」
「理由は?」
「説明するまでも無いでしょ?」
「ふん」
ケイトとキリンが恋の火花を散らす。
そして――レステアとアレン軍の正面衝突が今、始まろうとしていた。
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