第103話 激闘セントレイン①
サンデールたちと共に町に侵入し、中央にある城に向かって駆けて行く。
それは石造りの大きな城で、飾りっけのない少し武骨な印象を受ける建物だ。
周囲には誰もいない。
人の気配は全て、城の方からする。
「ねえねえアレン。私たちの家も、これぐらい大きな城にしよっか」
「何? 俺たちの家って?」
「やっだなー。結婚してから一緒に住む家だよぉ」
「ああ……どっちにしてもこんなに大きな建物はいらないでしょ」
俺はターニャの発想と提案に嘆息しながら城の入り口まで接近する。
眼前には巨大な扉。
ほんの少しだけ扉を開き、中を覗き込む。
「初めましてだな、アースターの魔王!」
「あ、はい。初めまして」
俺が扉を開くのを分かってたかのように、ライオンのような頭部をした男が待ち構えていた。
体は大きく、巨体のサンデールよりも身長が高い。
ゴゴゴッと扉は全て開ききり、奴は俺を不敵な笑みを浮かべながら見下ろしている。
「俺はセントレインの魔王、ヤンダリル様だ! よろしくな!」
「アースターの魔王、アレンだ」
獣人にしか見えないのだが……これが魔王か。
城の中は左右に道が円状に伸びており、いくつかの部屋の扉が見える。
正面には大きな扉があり、俺はそこが玉座なのかと思案した。
「入れ」
ヤンダリルはその扉を顎で指しながら、俺たちにそう指示する。
相手は人質を取っているのだ。
ここで抵抗するわけにはいかないだろう。
俺たちはヤンダリルに続き、その大きな扉をくぐり抜ける。
「ア、アレン……ここって……」
「ああ……闘技場、だな」
そこは玉座などではなく――広々とした空間が広がっており、太陽の光が照らす戦うための場所にしか見えない所だった。
闘技場としか判断ができない場所。
これが舞踏会場だとは誰も判断しないだろう。
俺の感覚がおかしくなければであるが。
いや、おかしくないよね。
そこには二階席――観客席があり正面部分に、白銀の頭髪とその髪と同じ色をした翼を持った男がいた。
男は翼で全身を包み込み、こちらを静かに見据えている。
あれが、ウィンディンの魔王か。
分かってはいるけど、友好的ではないよな
さらにその隣には巨大な鳥かごのような物があり、その中に獣人の女性が一人座り込んでいる。
赤い髪に赤い瞳。
トラの顔を持ち、必要最低限の布しか身に纏っていない。
無駄な肉がない鍛え上げられ引き締まった肉体。
悔しそうに俯いていたその女性は、こちらの姿に気づき、目を大きく見開く。
「サンデール……」
「……うん」
「あれが、クリスリンか?」
「うん」
サンデールは戦闘時の野性味溢れる表情になり、大きく一歩踏み出す。
「ターニャとあんたは下がっててくれ」
「分かったー。二人とも頑張ってねー」
ターニャは相変わらずのんきで、手を振っている。
「おいおい。何勝手に動いてんだ? こっちには人質が――」
ヤンダリルがギロリとこちらを睨みながら何かを言おうとした瞬間――俺は〈
「なっ!?」
「え……どうなってんだよ?」
クリスリンもヤンダリルも、何が起きたのか理解できずに、動揺ばかりしていた。
これが俺の能力ですよ。ふふふ。
俺は前足を組んで、プカプカ宙を浮きながら、ヤンダリルを見下ろす。
「これで人質は取り返した。後はお前らを倒して終わりだ」
「この……ユーブラム!!」
ヤンダリルの言葉に、白銀の男がコクリと頷く。
ユーブラムと呼ばれたそいつは、翼を広げ、闘技場の中央に降り立つ。
ヤンダリルも後方に飛び退き、奴の隣に位置した。
「ふ……人質なんてものは、お前をここにおびき寄せるまでの餌よ。ここからは俺ら二人でお前をやらせてもらう」
「お前って……サンデールの姿が目に入らないのかよ?」
ヤンダリルはサンデールを見て、大きな笑い声を上げる。
「そんな獣人一人いたところで、どうなるってんだよ!?」
「そりゃ……お前を負かすんだろうさ」
「……こんな獣人が、魔王である俺を倒すだと?」
「ああ」
俺の後ろにいたクリスリンが急に声を荒げる。
「てめえ、弱いサンデールにあいつの相手が務まるとでも思ってるのか!?」
「当然さ」
「当然だと……こいつは私にも敵わなかったんだ! なのに魔王と戦うなんて無茶だ――」
「サンデールは、何かを守るための闘いなら強い」
「な……なんだって?」
「サンデール……お前がクリスリンを守ってやれ」
「……うん!」
俺は人間の姿に変身し、ブレイブロードを手に取る。
「〈
金髪に変化し、〈
サンデールは腹の底から湧き出る力に、拳を力強く握り締め、ヤンダリルに向かって歩み始めた。
「舐めるなよ……たかが獣人一人、魔王相手に敵うとでも思っているのか!!」
金色の頭髪が黒く変わり、全身に禍々しい赤い紋章が入り、体が一回り大きくなる。
「そいつは頼んだぞ、サンデール」
「うんっ!!」
自分の大事な物を守るため、サンデールは瞳と心に炎を宿し、ヤンダリルと対峙していた。
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