第80話 オージ

 俺たちは村を出て、ウェンディたちと合流した。

 パッと俺をイースから取り上げるターニャ。


「で、どうだったの?」

「うーん……話し合いは通用しない、かな」

「ふーん。じゃあどうするの?」

「……潰すか」


 ケイトの言葉にギョッとするイースとウェンディ。

 エドガーも少し頬をひくつかせている。

 冗談通じない人もいるから気をつけようね。


「冗談はさておき……どうするつもりだ?」


 ケイトはしれっとそう言う。


「エルフと話が通じないなら……ドワーフと話し合いに行くか?」

「ドワーフか……どうなんだろうな」


 エドガーは腕を組んで話を続ける。


「エルフほど他の種族を敵対視はしていないが、今回の話は折り合いがつかないと思う。俺も一度話をしに行ったが、取り付く島もなかった」

「まぁ、ダメ元でいいから、一度行ってみよう。このままじゃ、全面戦争は避けられないんだろ?」

「ああ……」

「だったら、エドガーが案内してあげてよね。私とウェンディは、向こうの領地には入れないから」

「そうだな。では、ドワーフの住む場所へと行くとするか」


 俺は〈空間転移テレポート〉でエルフ領の船着き場へと移動し、ドワーフの住む南の山へと向かうことにした。

 島の中央の山の頂上には大きな城が見え、そこにメルバリーが居を構えているとのこと。

 それを迂回するように、海沿いを歩いて行き、ドワーフの領地へと向かう。

 エルフ領とドワーフ領のちょうど中間地点には、柵があり、海に入って避けるかしないと入れないようになっていた。

 

 しかしそこは俺の能力があるので、問題はさくっと解決だ。柵だけに。

 そんな風に思案していると、ケイトが俺を白い目で見ていた。


「……お前の考えていることはだいたい分かっている。あまり周囲の温度を下げるようなことは考えないでくれ」

「ははは……これから熱く話し合いをしなければいけないから、ちょうどいいだろ?」


 俺はみんなに触れてもらい、〈空間転移テレポート〉で柵の向こう側へと飛んだ。


「便利なものだな……前回は海に入って、大変だったんだがな」

「ふっふーん! アレンは本当にすっごいんだからっ!」


 俺を抱いたままターニャは誇らしげに胸を張る。

 ついでに俺もターニャと同じように胸を張っておいた。

 あ、褒めてくれてもいいんだよ、エドガー。


 いつの間にかピクニック気分になり、俺とターニャは歌を歌いながら山を歩いていた。

 岩場の多い、緑の少ない山。

 ところどころでドワーフの姿を確認できる。

 背は低いが、屈強な瞳。

 力が強いのだろうか、自分の体よりも大きな武器を持っている者が多い。

 

 彼らは俺たちをジロッと見ては来るが、エルフではない、というだけで特に何かを言ってくる様子もなかった。


「着いたぞ。ここだ」


 そこは洞窟のようだった。

 山の隙間に大きな空洞があり、中はどこまで続いているのかも分からない。

 ひんやりとした空気が中から漏れてはくるが、怪しさなどは感じなかった。

 ヒューと風の音が聞こえてくる中、俺たちは洞窟へと足を踏み入れる。


 周囲には大勢のドワーフたちがいるが、特に何かを言ってくるでもなく、先ほどと同じく、ただこちらに視線を向けてくるだけであった。


「友好的ではないが、敵対するつもりもないようだ」

「だな。そんな彼らをどうやって説得するかだな」


 洞窟の中には、一個の大きな町が出来上がっていた。

 装備を売っている店や食料品を取り扱っている店、それに生活圏とでもいうのだろうか、ドワーフたちの家が多数ある。

 その家を通り抜けて行くと、一番最奥には、周りよりも大きな穴があった。

 そこをくぐっていくと、数人のドワーフたちが会話をしている様子だった。


「誰だぁ、てめえらぁ」


 間延びした言葉を喋るドワーフがこちらを睨み付けてくる。


 他のドワーフと同じく、背の低い男性。

 髪は赤く、後ろで一つに束慣れている。

 背中には斧を背負っており、腰には短剣を帯びていた。

 

「だからぁ、誰だお前らはぁ」

「俺は以前、お前に会った事があるが覚えてないか、オージ」

「……ああぁ、確かぁ、エドガーって言ったかぁ」

「ああ」

「それでぇ、今日は何の用だぁ?」


 エドガーはターニャに抱かれている俺に顔を向ける。


「彼がドワーフの代表、オージだ」

「オージ……エルフとの争いをやめるつもりはないのか?」

「…………」

「……オージ?」

「猫がぁ、喋ったぁ」


 ですよねぇ。

 そんな反応しますよね。

 

 オージは嘆息し、仕切り直すように真剣な顔で口を開く。


「やめるつもりはないぃ。俺らとエルフはぁ、仲良くなんてできねえからなぁ。結局のところぉ、潰し合うしかできないんだよぉ」

「だけど……犠牲も大勢でるんだぞ」

「それは承知の上ぇ。そのことに関してはぁ、同胞は皆納得してるんだぁ」

「皆って……」


 エルフと戦うのはドワーフの総意だって言うのか……

 反対する者がいなければ、説得もしようがない。

 うーん、どうすればいいんだろうか……


「もう全部滅ぼすか?」

「コラッ。物騒なことは言わない」


 ケイトの冗談に俺は呆れるが、彼らの考えにも呆れ返っていた。

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