第81話 魔王メルバリー①

「で、どうするの、アレン」


 エルフ領に戻り、ウェンディの家で俺たちはこれからのことを話し合おうとしていた。


「うーん……エルフにしてもドワーフにしても、何を言っても無駄なような気がするんだよなぁ」

「実際、何を言っても無駄だった……話し合いで解決するようなら、お前たちに頼るようなことはしなかった」

「まぁ、そうだよな」


 エドガーは俯き加減で、淡々とそう言う。

 イースもお手上げといった様子で、深い溜息をつく。


 ケイトはあくびをしながら話をする。


「話が通じないなら……後は戦争しかないんじゃないか?」

「だから困ってるんでしょ!? それを避けたいから、私たちは必死なのよ」

「だけど、現実問題として、もう話は通じそうにもないじゃないか。あんたはエルフの代表の妹なんだろ? そんなあんたの話を聞かないんだったら、もう打つ手はないじゃない」

「……だから……だからエドガーはあんたたちを頼っているのよ」


 俺はふと、エドガーがなぜこんなに彼女たちに肩入れしているのかが気になりだした。

 別によその種族の話なんだから、極論で言えばどうでもいいと言えばいい話だと思うんだけど。

 エルフの村にも入れてもらえないのならなおさらだ。


「エドガー。何でお前は、エルフたちの戦いを止めようとしているんだ?」

「……正直なところ、俺はエルフとドワーフが戦おうが何をしようが構わないと考えている」


 あ、結構ドライな性格してるんだ。

 俺は落ち着いた声で話を続ける。


「だったらさ、何でそんなに肩入れしてるんだよ」

「全部……ウェンディのためだ。俺は彼女のためならば、世界を敵に回してもいいと思っている。以前仲間に裏切られ、傷だらけでこの地を彷徨っている時に、彼女に助けられた……俺たちの出逢いは運命だったのだろう。それ以来、俺は彼女のために生きると決めたんだ。彼女がこの争いに悲しんでいるから、俺はこの争いを止めたい。それだけだ」


 ドライなくせに、なんて情熱的な。

 ターニャは「おおっ」と感嘆の声を漏らしている。

 そして俺に視線を向けて「アレンもあれぐらい情熱的に」なんて目で見てくる。

 いや、俺はそんなタイプじゃないし、そんな目で見てくるなよ。


 俺はケイトに抱かれながら、ウェンディに視線を移す。


「私も、運命だと思ってる……そしてアレンたちと出逢ったのも――」

「運命、か」


 運命……

 結局のところ、全部運命なのだ。

 俺たちの出逢いも、彼らの出逢いも。

 そして出逢いというものには、全て意味がある。


 だったら俺たちの出逢いには……どのような意味があるのだろう。

 ……うん。

 やっぱり頭で考えても答えは出ない。

 結果が出た後に、そうだったのだと分かるだけで、運命の流れというものを読むことなどは到底不可能なのだ。

 シフォンでも流れの『先』が視える程度で、流れ自体を読むことは無理なのだ。


 だから……俺ができることと言えば、自分の思う通りに動くことぐらいだ。


「……そもそもの争いの原因は……中央に位置する城、なんだよな?」

「ええ。メルバリーの住むあの城を手にしようと、エルフとドワーフは……」


 イースは悔しそうに歯をギリッと噛みしめ、足元を睨み付ける。


「……俺、一度メルバリーに会ってこようかと思ってるんだけど」

「……なぜ?」


 ケイトは首をかしげて俺を見下ろす。


「さぁ……なんとなくだけど……そうした方がいいような気がするから、かな?」

「……危険じゃないか?」

「危険なら、パッと戻って来るよ」

「そうだな。お前ならそれが可能だもんな」


 ケイトは俺の常識外れの能力のことを思い、嘆息する。

 俺は胸を張り、偉ぶってから彼女の胸から飛び降りた。


「このままじゃ埒が明かないし、とにかく行ってくるよ」

「ちょ……大丈夫なの? 猫だと言っても、相手は魔族よ? 少々可愛いくても殺されてしまうんじゃ……」

「アレンなら大丈夫だよ。ね?」

「ああ。当然さ」

「?」


 ターニャの強気な言葉に、イースは怪訝そうに顔を歪める。

 ま、この姿からじゃ想像できないよな。 

 俺、こう見えて結構強いですから。

 だから、大丈夫なのさ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 大陸の中央に位置する一番高い山を、俺は颯爽と駆け上っていた。

 なぜか胸が躍り、軽い足取りで俺は走る。

 なんでこんなに胸が躍るのだろう?

 ……多分、あれだな。

 噂の魔王とやらと邂逅できるからだろう。

 普通なら逃げ惑わなければならないような相手だが、俺は逃げる手段も戦う手段もこの手にある。

 だから心に余裕があり、伝説級の魔族と会えるということに楽しみを見出しているのかも知れない。

 不謹慎かもしれないが……今の自分の心境はそうなのだと思う。


 山を駆け上ると、そこには大きな大きな城がドンッと存在していた。

 見張りはいない……というか、ここに来るまでに、モンスターとも遭遇しなかった。

 どういうことだ?


 俺は大きな石造りの城を見上げながら、そう思案する。

 そしてトテトテと四本足を動かしながら、城へと入って行く。

 あ、これはこれで探検みたいで楽しいかも。


 ダメだ……不謹慎すぎる。

 だけど楽しいって思う気持ちは仕方ないよね?

 と、一人無理くり納得したりしながら、俺は奥へと進んで行くことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る