第69話 勇者①
〈
背後には小舟がある。
セシルたちが前回、上陸する時に使ったものだろう。
「アレン様がいるからかな。前回よりも無敵感があるよ」
「ああ。俺もそう感じる」
武器を手に取るセシルとヘレン。
しかしゾンビは動かない。
まるで従順な兵士のように、誰かの命令にしたがっているようだ。
「来たか……アレンよ」
「来たぞ、ワクシリル」
洞窟からワクシリルが出現し、宙に浮きいてこちらを見下ろしてくる。
「……なんだ。猫は止めたのか?」
「ああ。お前を倒すまでは一時中断だ」
「なら……もう猫に戻ることはないだろう」
「いいや。絶対に戻るね」
「くくく……人間の姿に戻ったぐらいで、調子に乗りおって」
別に人間の姿になったから調子に乗ってるわけじゃないんだけどね。
ただ現実問題として、絶対に勝つと考えてるだけだ。
ま、俺が勇者の力を手に入れたことを知らないからそう考えるのも仕方ないかもね。
俺は不敵に笑い、ワクシリルを見据える。
その様子を見て、ワクシリルはくつくつと笑う。
「どれだけハッタリをかましたところで、我には勝てんぞ」
「ハッタリじゃないんだけどな。お前に勝てる術を手に入れた」
「ほう……では、見せてもらおうか」
「あ、さっそく見たい?」
「ああ。見せてもらいたいものだ……そんなものが本当に存在していたらの話だが、な」
俺はニヤリと笑い、〈
「?」
「よーく見とけよ。これが――」
そして俺は聖機剣ブレイブロードを手に取る。
「お前を倒す術――光の力だ!」
「…………」
俺は両手で聖機剣を掲げる。
「〈
聖機剣に埋め込まれている聖魂石が眩い光を放つ。
光は際限なく輝きを増してゆき、まるでそこに太陽が現れたようだ。
「ア……アレン様の髪が!」
セシルが眩しさに腕で顔を覆いながら叫んでいる。
俺の髪が、根元から毛先に向けて、金色へと変色していく。
目も金色になり、光の力が全身にみなぎる。
体全体が聖機剣と同じように、眩い輝きを放っているようだった。
変化を遂げると聖機剣の光は収まり、ワクシリルは無言のままで俺を見据えていた。
「…………」
「これが――お前を倒す術だ」
「……ひ」
「ひ?」
「卑怯だぞ! 貴様! ゆゆゆ、勇者の力を持ち出すなど、ニーデリクの後継者がやることか!」
「…………」
ワクシリルは、大変取り乱した様子でそう叫んでいた。
三悪将なんて呼ばれてたのに、何て情けない態度。
「べっつに俺、魔族でもなんでもないし。勇者の力使っても問題ないだろ? というか、魔族だったとしても使えるなら使うよ」
「くっ……くくく……だがな、勝敗は別だ!」
焦りながらも笑みを浮かべるワクシリル。
そして大袈裟に両手を広げ、絶大なる自信を持って語り出す。
「この魔法陣を見よ!」
「魔法陣?」
俺はこの島全体に描かれているであろう、足元の魔法陣に視線を落とす。
「これは死霊系モンスターの能力を上昇させる魔法陣! ここ以外では我は貴様に勝てないだろう……しかし! ここでは我の能力は飛躍的に上昇し、貴様を屠るほどの力を得ることができるのだ!」
「ああ。なるほど」
「な、なるほど?」
俺の言葉にワクシリルは間抜けな声で聞き返してきた。
「だからこの島に来た瞬間、俺の力が増したのか」
「力が……増した?」
「ああ。俺はゾンビやデュラハンの能力を吸収しているからな。死霊系の属性を持っているんだ」
「…………」
「…………」
「……ず」
「ず?」
「ずるいぞ!! せせせ、聖剣の力だけでは飽き足らず……死霊系の恩恵まで授かるとは! 我は貴様に……どうやって勝てばよいのだぁ!?」
そんなの知るかよ。
ワクシリルはゆらゆら揺れながら、心なしか後退して行っているようにも見える。
なんだこいつ。
三悪将なんて呼ばれてたんじゃないのかよ。
そこら辺の雑魚にしか見えないぞ。
「アレン様。こんな奴、さっさと倒して町の平穏を取り戻しましょう」
「ああ……だけど、あいつを倒すのはお前だ、セシル」
「はっ?」
これは元々考えていたことだが……
現在の環境ならセシルでもワクシリルを倒すことができる。
俺はそう踏んでいた。
ワクシリルがまだ本当の力を見せていないとしても、今の様子を見て確信めいた物を得た。
セシルはこいつに勝てると。
「〈
ブレイブロードの柄の部分が俺の身長ほどに伸びる。
刃の片側からカーテンのように靡く光が放出され、まさに旗のような形状になった。
さらに旗は何重もの黄金色の輝きを放ち、セシルたちの体に変化を及ぼす。
「こ……これは……」
「凄い……凄すぎるわ!」
〈
これは仲間たちの能力を引き上げる勇者の力。
本来人間とは弱い生き物。
だが、人と人が協力し合う時、信じられない力を生み出すことがある。
それを可能にするのは、リーダーというものの存在。
そしてそのリーダーとしての能力を分かりやすく顕在化させたものが、この〈
みんなを一つにし、みんなの能力を限界以上に引き出す。
勇者に与えられた、希望の光。
仲間たちを率いる奇跡の光。
さらに〈
ようするに『エナジードリンク』とこの〈
ワクシリル相手でも勝てるってことだ。
セシルは吹き荒れる力に震えながら、剣を引き抜きワクシリルを見据えている。
俺は堂々とした態度で旗を手に取り、指令を出す。
「蹴散らせ。セシル」
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