第68話 コーニール②
「ほらほら! まだまだ行くよっ!」
ビュンとコーニールは真逆の壁へと飛び、向こう側を足場にする。
「〈
「くっ!」
ケイトはホルトの体を抱き、鎌を離れて行く壁に突き刺した。
ブラーンと壁に垂れ下がり、コーニールの方に視線を向ける。
「あはははは! 面白い面白い! そんなことやって何の意味があるのさ?」
「このガキが……」
ケイトはそこから器用に長椅子の側面に飛び移り、ホルトを下ろすと隣の長椅子に移動する。
「…………」
コーニールを見下ろすケイト。
「く……なんて厄介な能力だ。こんな奴、勝てるのか?」
「さあ? だがあいつを倒さないと、お前は死んでしまうことになるだろうよ」
「……それはお前もだろ?」
ホルトの言葉に、鼻で笑うケイト。
「いや。私は死なないさ」
「?」
コーニールはそんな二人の様子を見て、あくびを一つする。
「ねえねえ、もう終わりなの?」
「いや……ここからが勝負だ。おい、ナエ!」
「は、はい!?」
長椅子に掴みかかりながら、ケイトに応えるナエ。
「お前、何か能力は無いのか? このままじゃ私たちは全滅するぞ」
「ぜ、全滅って……私も死んじゃうってことですか?」
「当然だろ。あいつは笑いながらでも人を殺せるタイプだ。このままどこかに落下して死ぬか、じわじわとなぶり殺しにされるか……どちらにしても何もしなかったら死ぬだけだ」
「……私、どうしたらいいですか?」
青い顔でナエは尋ねる。
「お前ができることをしろ。死にたくないのならな」
「わ、私ができること……」
ナエは長椅子の横側に立ち上がり、自分の手を見つめる。
そして――
「マ、〈
ナエの右手に、筒状の物が創造される。
それは真っ黒でL字に近い形になっており、指をかける部分がついていた。
「? なんだそれは?」
「け、拳銃です。風のマナで創った拳銃です」
「……よく分からんが、それで戦えるんだな?」
「た、戦うなんてできるか分かりませんが……死にたくはないので」
真っ青な顔をして、ナエはその拳銃と呼ばれる物の先端部分をコーニールに向ける。
ガンッガンッと大きな音を立てて、放出される風の弾丸。
想像以上の速度にコーニールはそれを回避するも、驚いて躓いてしまう。
「はっ。躓いても、コケる方向は今のお前の足元のようだな」
「……何? バカにしてるの?」
「バカにしてないさ。馬鹿を馬鹿と思っているだけだ」
ムッとするコーニールは、何も言わないまま天使像に着地する。
「もうお姉ちゃんにはムカついた! 絶対に許さないからね!」
「許してもらうつもりはないよ。お仕置きするのは、こっちなんだからな」
「あはは! もしかしてまだ僕に勝つつもり?」
そう言って、コーニールは足場を変換させる。
「きゃ……きゃー!」
落ちていくナエ。
だがホルトが咄嗟に剣を振るい〈
「まさか……こんな使い方をすることになるとはな」
「そ、そのまま押さえておいてください!」
ホルトに抱き抱えられながら、拳銃を撃つナエ。
「もう! 面倒だな、それ!」
今度は元の床に着地し、足場が通常に戻る。
三人はあまり床から離れていなかったので、床に落ちるも怪我をせずにすむ。
「……おい、ナエ、ホルト。私を援護しろ」
「援護って……何をすれば……?」
「できる限り、あいつの邪魔をしろ」
「え……何をするつもりなんですか?」
「
そう言ってケイトは――背中から大きな本を取り出した。
「それって……古代魔導書ですか!?」
「ああ。もしかしたら役に立つことがあるかも知れないと思ってな……一冊くすねておいた」
ケイトはそれを開き、書かれている呪文を唱えだす。
「な、何をやっているんだ! 古代魔術は……命を引き換えにしか発動できないんだぞ!」
ケイトはニヤリと口角を上げるだけで、呪文を唱え続ける。
「まさか……俺たちのために命を投げ出すつもりなのか……」
「ケ、ケイトさん……」
白く輝いていくケイトの体。
コーニールはケイトの様子に気づき、天井へと飛翔する。
「何するつもりか知らないけど――無駄だよ!」
「きゃっ――」
天に落下しそうになるナエ。
しかしホルトが先手を打ち、彼女を抱えて風の足場を作り落下を阻止する。
「っ! ケイトさん!」
だがケイトだけは背中から天井へと激しく打ち付けられ、血反吐を吐く。
しかしコーニールに視線を向けたまま、怖いぐらい落ち着いた様子で呪文を続けている。
「お、お姉ちゃんはバカなの? 隙だらけだよ!」
ダッと走り、ケイトの顔面に蹴りを入れようとするコーニール。
「さ、させません!」
ダンダンッと二発弾丸を放つ。ナエ。
コーニールはおっとっとと、走る足を止め、ナエを睨み付ける。
「もう……ムカつくなぁ!」
そう言ってコーニールは、天井から側面へ。
側面から側面へ。
または床へと移動しながら、重力の方向を変換させていく。
「う……うぷっ……」
3人の体が空中で固定される。
上下左右に体が引っ張られ、吐き気を催すナエ。
「はははっ! これが僕の切り札さ! お姉ちゃんの切り札よりも強いだろっ!?」
ケイトはそれでもなお、呪文を唱えるのを止めることはない。
「こ、このままでは……」
ホルトは全ての方向から引っ張られる力に意識を失おうとしていた。
「もう終わりでしょ? もう降参でしょ!?」
何もできないホルトたちを見て、コーニールは大笑いした。
だがケイトの力を失わない瞳を見て、静かに憤怒する。
「最後まで諦めようとしないその精神……ムカつくよ」
コーニールは天井から、空間の中央に滞在するケイトに向かって飛翔する。
「う……ケイトさん……」
ナエは力を振り絞って、コーニールに拳銃を放つ。
風の弾丸はコーニールの頬をかすり、つーと一筋の青い血が流れ出る。
「この――しつこいな!」
部屋中をさらなる勢いで駆け巡るコーニール。
激しさを増す力に、ナエはブラックアウトする。
「あはは! さすがにもう終わりだね!」
「ああ。終わりだ」
「え?」
ケイトは勝利の確信を得た瞳で、コーニールを見据えている。
「遊びの時間は終わり、そろそろお仕置きの時間さ、坊や」
キュイーンとケイトの右手に紅い光が集まり輝く。
それは手の平に納まる程度の紅い球体となる。
「……な、何するつもりなの、お姉ちゃん?」
「言ったろ? お仕置きだとな」
「ちょ……」
「〈エクスプロージョン〉」
「待って――」
完全にコーニールの動きを見切っていたケイトは、彼に向かって大いなる魔力を解き放つ。
天井付近でそれは大爆発を起こし、コーニールを飲み込んだ。
ケイトたちの体はその衝撃で床へと叩きつけられた。
「……ごふっ」
口、両目、両耳、両鼻から血を噴き出すケイト。
天を仰ぎながら激しい痙攣を起こす。
「…………」
「……あれ? ケイトさん……ケイトさん!」
意識を取り戻したナエが、ケイトの体を揺り動かす。
「ケイトさん……こんなことって……」
涙を流し、ケイトの胸に顔を埋めるナエ。
しかし、彼女の心臓の音を聞き、顔をガバッと離す。
「やはりこんなことでは死ねないか……」
「い……生きているんです、か?」
「ああ……死ぬほどの痛みは感じているけどね」
激しい痛みを覚えながら、ケイトは天井に空いた巨大な穴から見える、美しい月を眺めていた。
また死ぬことができなかったことへの失望と、まだアレンと共に生きていける喜びを胸に。
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