第67話 コーニール①

「あーあ。時間の無駄なんだと思うけどなぁ」

「確かに時間の無駄だな。お前とじゃれ合っても何もメリットが無い」


 1メートルほどある鎌の柄を握り、器用にグルグル回すケイト。

 ピタリと止めて、コーニールを睨み付ける。


「あはは。僕が言っているのは、絶対に僕が勝つんだから、やるだけ無駄だってことさ」

「ならお前が止めておいた方がいいんじゃないか? お前は私たちに勝てない」

「ふーん……結構面白いこと言ってくれるね。じゃあ退屈だけはさせないでよ」

「あの……勝負するのはいいんですけど、何をして遊ぶんですか? じゃんけん? それともしりとりとかですか?」

「……ナエ」

「はい」

「お前は外に出ていろ」

「はい?」


 ナエは状況を何も理解しておらず、笑顔だった。


 ケイトは嘆息し、コーニールの出方を窺っている。

 ホルトは冷静に少しずつコーニールとの距離を詰めていく。


「じゃあ、行っくよー!」


 ドーンと駆け出したコーニールは、ホルトとの距離を縮める。


「まず弱い方から叩かせてもらうよっ」

「舐めないでもらいたいものだな。これでも俺は――っ!?」


 右の剣を横薙ぎに振るうホルト。

 コーニールは上へ跳躍し、それを回避する。


「あはは。やっぱり大したことないかな?」

「そんな余裕ぶっててもいいのか?」

「え?」


 ケイトはコーニールの動きに合わせて、ジャンプしていた。

 コーニールに襲いかかる鎌。


「なっ?」


 だがコーニールは、刃の部分の横側に着地・・する。

 平らな殺傷能力の無い部分に、平然と張り付いたように立っていた。


「ははっ。ビックリした?」


 コーニールは鎌に張り付いたまま、左足でケイトの顔を蹴ろうと足を出す。

 ケイトは右腕でそれをガードする。

 

 ゴッと凄まじい衝撃が響くが、ケイトは顔色一つ変えていない。


「ああ、ビックリしたよ」

「でしょ?」

「あまりにも大したことなさすぎて、な」

「……ふーん」


 鎌を蹴り、クルクルと回転しながら入り口付近に着地するコーニール。


 ナエは突然起こった戦いに、長椅子の裏側に隠れながらその様子を見ていた。


「え? これ、遊びじゃないですよね……」

「相手が言ったことをそのままに受けてるんじゃないよ。あいつが言っている遊びってのは、『殺し合おう』ってことさ」

「え……だってあの子、子供ですよ」


 ケイトはナエと話すことに疲れたのか、彼女を無視して駆け出す。

 ホルトも同時に走り出し、二人でコーニールに攻撃を仕掛ける。


「〈切り裂く冷風ウインドソード〉」


 ホルトは左手の剣から、風迅を放つ。

 

「よっと」


 風の刃を軽々と避けてしまうコーニール。

 ケイトはまた、コーニールに合わせて跳躍する。

 

 だが今度は、ホルトもコーニールへの追撃を用意していた。

 右側の剣が緑色に光る。


「はは……はははっ!」

「どうした? もう打つ手を失い、気でも狂ったのか?」

「違うよ。まだ僕に勝てると思っているお姉ちゃんたちが可笑しくてね」

「?」


 コーニールは笑いながら空中で体勢を変え、大聖堂の入り口の扉に立つ・・


「さぁ、どこまで僕について来れるかな……〈指し示す吊るされた男ハングドマン〉!」

「なっ……!?」


 急にコーニールが立っている壁側に引っ張られ、ケイトとホルトの体が壁に落ちる


 蝋燭や花など、大聖堂にある物がコーニール側に落ちていく。


「ちょ……えええっ!?」


 ナエは打ち付けられた長椅子にしがみ付いて、なんとか落下に耐えていた。


「あははははっ! 今度は本当にビックリしたで――しょっ!」

「くっ!」


 倒れているところを、コーニールに蹴り上げられるケイト。横側の壁にぶつかり、再度コーニールが立っている面に体は落ちる。


 ケイトは思案する。

 

 重力の方向が変わったのか?

 どうなっている。これがこいつの能力か?

 

 だが、変わってしまったとしても、慣れてしまえばどうと言うことはない。

 このまま壁を走って、あいつを切り伏せればそれで終わりだ。


 ケイトは鎌を構えて走り出す。

 

「〈切り裂く冷風ウインドソード〉!」

「ははは」


 さっと立ち上がったホルトは風の刃を放った。

 それをまた飛び上がり避けるコーニール。


「これで――終わりだ!」


 ドンッと飛翔し、コーニールに鎌を振り下ろすケイト。


「甘い甘い」


 が、コーニールはその鎌を蹴り、今度は正面右側の壁に着地する。


「!?」


 ガクンと、重力の方向がまた代わり、コーニールの方へとまた落下していくケイトとホルト。


「がはっ!」


 ホルトは激しく背中を打ち付け、血を吐き出した。


「あはははは! こっちのお兄ちゃんは脆いみたいだね。お姉ちゃんみたいに体が耐えられないみたいだよ」

「お前のムカつく笑い声には、私も耐えられないよ――」

「あれ?」


 ケイトはドブンッと自分の影に沈む。

 コーニールの影へと密かに近づいていく。


 しかしコーニールは真逆の壁に移動し、重力の方向を転換する。


「く、くそっ!」


 落ちていくホルト。

 ケイトも影から姿を現し、コーニールの方へと落ちながら考える。


 相性が悪い。

 私の影移動は、他の影に移ること。

 相手に好き勝手足場を変換させられたら、移る暇がない。


 「がっ!」


 頭を打ったホルトは、脳震盪を起こし起き上がれないでいた。


「きゃーきゃー! 助けてくださーい!」


 椅子にしがみ付いて大騒ぎするナエに、少し苛立ちはじめるケイト。


 どうやってこいつに勝つ……?

 頭をフル回転させながら、ケイトはゆっくりと立ち上がる。

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