第65話 再会
俺は町の広場へと〈
直接死の島に〈
覚悟はできているだろうが、急すぎるだろ。
ちゃんと説明してから戦場に突入しよう。
ケイトから受け取った懐中時計を確認する。
時刻は午後の11時。
日付が変わるまで後1時間か。
しかしケイトのやつ、高級な物持ってるんだな。
俺は懐中時計をしまいながらそんなことを考える。
「二人とも、準備はいいか?」
「私はいつだっていいよ」
「……死の島に向かう前に話がある」
「話?」
セシルは真剣な顔で俺を見据える。
そんな怖い顔して何?
もしかして文句でもあるとか?
「俺は……ずっと勇者になりたいと思っていた」
「セシル……」
ヘレンは複雑な面持ちでセシルを見る。
「勇者になって、世界を平和に導いて……それが俺の人生だと思っていた。だけど、現実は違った。勇者に選ばれたのは、あんただった」
「なんでなんだろうね?」
なんで俺が勇者に選ばれたのか。
それは俺が聞きたいぐらいだ。
「だけど……あんたが勇者に選ばれた時、なぜかその現実を素直に受け入れることができたんだ……それはきっと……助けられたってのもあるんだろうけど、いつの間にかあんたに惚れてしまってたんだと思う。猫のくせに仲間に囲まれて、その上計り知れないぐらいの強さを持っている。納得せざるを得なかったんだ」
「はぁ……惚れられてたんですか」
俺、男には興味ありませんから。
なんてここで言ったら、『その上空気が読めない』なんてこれから言われ続けるであろうと思い、口から出そうになっていた言葉を飲み込んでおく。
「だから……俺をあんたの部下にしてくれないか?」
「部下ぁ?」
「ああ。勇者の部下として、俺はあんたの下で俺の正義を貫いていきたい。それなら勇者になれなくて悔しく思う俺の心も納得すると思うんだ。そして、そうすることが俺の運命のような気がする」
「だったら、私も部下にしてもらおうかな」
「セシル、ヘレン」
特に部下なんて欲しいとは思っていないけど。
だけど男の覚悟を無下にするのも違うような気がする。
そしてセシルの言う通り、そうすることが、俺の、俺たちの運命だと感じた。
だから俺は、セシルの申し入れを受け入れることにした。
「じゃあ……俺について来てくれるか?」
「……はい。アレン様」
清々しい顔で、力強く頷くセシル。
ヘレンも楽しそうに『よろしくお願いしま~す』なんて軽く言う。
「よし。話も終わったし、そろそろ行くか」
「はい。いつでも構いませんよ」
俺は頷き、〈
だがその時だ。
「ア……アレン!?」
「え?」
教会の入り口付近で男の声が聞こえてきた。
声の方を視認すると、そこにいたのは――
「ヌールド……ネリアナ!」
まるで幽霊でも見るように、青い顔をしているネリアナとヌールド。
俺は二人の姿を見た瞬間、怒りに全身を支配される。
黒い感情が止めどなく湧き上がっていく。
「な……なんでアレンが生きているのよ!?」
「……〈死神〉に助けてもらったのさ」
「し、死神? あの女のことかしら?」
ネリアナは俺との会話を始めてすぐに冷静さを取り戻す。
もう少し繊細な女性だと思っていたけど、とんでもなく図太い神経をしているようだ。
ずっと、騙されてたんだな。
「俺は……お前らだけは許さない」
「ゆ、許さないだと……アレン如きが舐めるなよ。俺が美しく、地獄に送り返してやる!」
ヌールドはニヤリと笑い、腰にさしてあった剣を右手で引き抜く。
以前、背中に背負っていた大剣はもう無い。
左腕が全く動かないのであろう、片腕だけで振るえるように、普通の剣を用意したんだと察する。
「その首を、もう一度切り離してやる!」
剣を下段に構え、ヌールドは駆け出した。
あの頃の俺だと思っているのだろう。
余裕で醜悪な態度を隠さずに襲い来るヌールド。
〈
俺は右手に風の剣を握る。
薄緑色の、マナで形成された剣。
「せめて美しく――散れ!」
ヌールドは剣を振り上げる。
俺は怒りのままに、それを迎え撃つ。
風の剣はヌールドの剣を二つに切り裂き――
奴の右手首を切り落とした。
「ぎっ――」
近所迷惑極まりない悲鳴をあげるヌールド。
膝をつき、現実のものとは思えないような表情で、斬られた右手を見ている。
「ど、どうなってるの……なんでそんなに強いのよ、アレン……」
「全部お前のおかげだよ、ネリアナ。お前が地獄に突き落としてくれたおかげで、俺は強くなれた」
叫ぶヌールドの顔面に蹴りを放つ。
ボキボキと鼻の骨が砕ける音が足に伝わってくる。
吹き飛んだヌールドは教会の扉にぶつかり、全ての歯が抜け落ちていく。
「ひゃっ……ひゃぁあああ……」
ヌールドは驚愕の表情を浮かべ、放尿している。
ネリアナはあまりの俺の強さに引いている様子だ。
ジリジリと後ずさりし、顔を引きつらせていた。
「そ、そんなに強くなるなんて……アレン、私のために強くなったのね。私、嬉しいわ。今のアレンとなら――」
「バカを言うな。お前程度の女と付き合うなんてごめんだね」
「わ……私程度だぁ?」
目をピクピクさせ、額に青筋を立てるネリアナ。
俺は今にもネリアナに殴り掛かりたい衝動に駆られた。
俺が殺されることになった全ての元凶。
地獄に突き落としてやりたい憎い相手。
美しさに隠された醜さに吐き気がする。
だが――
「アレン様! この女と何があったのかは知りませんが、今はそんなことをしている場合では!」
「…………」
そうだった。
もうあまり残された時間は無い。
早くしないと、ターニャの命が……
俺はターニャによく似ていて、しかし全く似つかないネリアナを睨み付ける。
こんな女のことよりターニャのことだ。
「お前が元婚約者だったなんて……俺の人生最大の汚点だよ」
「な……なんだと、このダセーガキが! ふざけんじゃねえぞ! 私を誰だと思ってんだ! 私は……私はネリアナだぞ!」
「…………」
口から唾を出しながら怒り狂うネリアナ。
その後も何か叫んでいたが、俺は無視して〈
「アレン……アレンッッッ!!!」
俺は復讐を遂行するよりも、大事なものを守るために、死の島へと向かった。
だが今回のことで理解したことが一つある。
それは、きっと復讐の機会はまた訪れるであろうということだ。
報復を受けることが――彼女らの運命なのだ。
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