第64話 聖機剣②
ブレイブロードに手を伸ばす自信に満ち溢れているナエ。
「これで……勇者が誕生するということか」
セシルは切なそうにそう言葉を漏らす。
ヘレンとホルトが、慰めるように彼の肩に手を置く。
300年ぶりの勇者復活。
俺たちは歴史の瞬間を目撃しようとしているのかも知れない。
そしてとうとう、ナエが聖機剣に触れる――
「きゃっ!?」
バチィッと聖機剣に拒絶されるように手を弾かれるナエ。
「「「「「え?」」」」」
俺たちはキョトンとして素っ頓狂な声をあげた。
あれ? ナエが聖機剣に選ばれたんじゃ…
あれ? どうなってんの?
ナエも状況が理解できないらしく、酷く戸惑っている。
それに聖機剣に拒絶されたことにより、ビクビクと怯えているようだ。
「あの……あ、あ……あああっ! やっぱり私には無理だったんでしょうかぁ!?」
頭を抱えて錯乱するナエ。
今度は頭を地面にぶつけようとしていた。
「ちょっと待てちょっと待て。そんなことするなって」
「でもでもでもでも! 勇者に選ばれなかった私なんて頭を打って死んでしまったほうがぁ!」
「死ななくていいから! そんなことで死ななきゃならないんなら、世界中のほとんどの人間が死ななきゃならなくなるから!」
俺はナエの両肩に両前足を添え、彼女を落ち着かせる。
なんとか彼女は、ほんの少しだけ冷静さを取り戻したようで深呼吸しながら聖機剣を眺めていた。
「しかしナエを拒否するとか、どうなってるんだよ、これ?」
俺はふわふわ浮きながら聖機剣へと近づき、右前足で軽く触れてみた。
すると聖機剣の光は収まり、力無く地面に落ちる。
「……え?」
カランカランという音が教会内に虚しく響く。
俺の思考が止まる。
俺だけでない。その場にいた全員の思考が止まっていた。
全員、唖然としたまま落ちた聖機剣に視線を向けている。
「……どういうこと?」
するとケイトがはぁと嘆息し、口を開く。
「どうやら聖機剣に選ばれた勇者はお前みたいだな、アレン」
「……え?」
「聖魂石が反応を示していたのもお前にだったということだろう」
「……ええ?」
「まさかナエじゃなくて、お前が勇者だったとはな……」
「……えええっ!?」
俺の思考回路が動き出す。
勇者はナエじゃなくて俺だった?
じゃあナエは、聖剣を復活させることが役目だったってことか?
魔王を……ワクシリルを倒す光を手に入れるのは俺だったのか……
そこで俺はハッとする。
いや、もう今はどっちが勇者だとかそんなことはどうでもいい。
これで俺は――
ワクシリルを倒すことができるんだ。
俺は〈
「え? えええっ!? 急にいい男に変身したぁ!?」
ナエもセシルたちも驚愕の表情をしていた。
まさか猫が人間の姿になるなんて、そんな風に驚いている。
特にナエが。
なぜかナエは顔を赤くして、俺を見上げていた。
俺は聖機剣を手に取る。
これがあれば、ワクシリルを……
〈
「よし。死の島へ向かおう。これで俺は、あいつを倒すことができる」
「魔王の肉体に勇者の力なんてふざけた奴だよ、お前は」
「ま、これも運命ってやつかな」
俺とケイトはくくくっと笑い合う。
「…………」
セシルは複雑そうな表情で俺を見ていた。
「お、俺は――」
何かを言おうとするセシル。
だがその時、彼の後ろにある扉が開き出した。
「みーつけたっ!」
「……誰?」
大聖堂に入ってきたのは、背の低い子供のようだった。
だが青い肌をしている。
黒い髪は長く、服装は人間と変わらないものを着ているが……どうやら魔族のようだ。
「ねえねえ、お兄ちゃん、魔王の後継者なんでしょ?」
「……お前、誰だ?」
「僕はコーニール。ねえ、一緒に遊ばない?」
「悪いけど、お前と遊んでいる暇は無いんだ」
ニコリと笑うコーニール。
だがその笑顔とは裏腹に、凄まじい殺気を放つ。
セシルたちは武器を抜き取り、コーニールに構える。
「そんなこと言わないでさぁ。ソルトとは遊んであげたんでしょ」
「ソルト……そうか、あいつの仲間か。みんな、集まってくれ」
俺の指示に、ケイトたちは周囲に集まる。
「別に逃げてもいいんだけどさ、そうしたらアンポートに住んでいる人たち殺して回っちゃうよ?」
「お前……」
ならさっさとこいつを倒してから行くか。
そう考える俺だったが、ケイトが一歩前に出て冷静に言う。
「アレン。お前は急げ。この子供は私が相手してやる」
「ケイト……」
「で、では私も残ります!」
ナエが手を挙げ、そう言った。
「ワクシリルとか怖そうなの相手にするぐらいなら、この子と遊んでいる方が……」
こいつ、コーニールのこと勘違いしてるな。
遊ぶったって、本当に遊ぶって意味じゃないぞ。
殺し合いのことですよ。
だけど、ソルトの時のことを考えるとケイト一人ではキツイ戦いになると思う。
俺は一人でなんとでもなるし、コーニールのことはみんなに任せて行こうか。
そう考えていると、ホルトが一歩前に出て口を開く。
「俺もここに残ろう。セシル、ヘレン。お前たちも一緒に行って、ワクシリルにリベンジしてこい」
「ホルト……分かった」
武器を収めるセシルとヘレン。
「だったら、みんなこれを飲んでおけ」
俺は〈
「なんだこれ?」
怪訝そうな顔をするが、セシルたちはそれを飲み干していく。
「! これは……力が溢れてくる!」
セシルたちは、自身の力が増幅されるのを感じ、驚いたように自分の体を見下ろしている。
「さあ行け、アレン。時間がない」
そう言ってケイトは、俺に懐中時計を投げつけてきた。
「……ケイト、無茶はするなよ」
「ふん。無茶をしたところで私は死なないよ」
「ちょっとちょっと、勝手に行っちゃダメだよぉ」
コーニールは腰に手を当て、プンプンしている。
「お前が私たちに勝てたら、こいつが相手してくれるとさ」
「ふーん。分かった。じゃあさっさとやろう。その代わりこのお姉ちゃんたちに勝ったら遊んでよね」
「分かったよ。じゃあ、気をつけろよ、みんな」
俺はケイトたちの心配をしつつも、セシルとヘレンを連れて〈
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