第61話 2日目の終わり
俺は海を飛び越え、死の島へと向かっていた。
すると今にも雷球がセシルたちに襲いかかろうとしていうのが目に入る。
〈
そして〈
「むっ……」
「ワクシリル……」
俺はヘレンの顔の高さぐらいに浮きながらワクシリルを睨み付ける。
「よく来たな、アレン。待ちくたびれたぞ」
「俺も会いたかったよ。ついでにお前をぶっ飛ばせるなら言うこと無かったけどな」
「ふふふ……貴様の能力では我を消滅させることはできない」
「……かもな。だけど前と同じさ。お前だって俺を倒せやしない」
「それは、どうかな」
ワクシリルがくいっと俺に顎を指すような仕草をする。
「ガァアアア……」
すると一斉に、ゾンビが俺に向かって駆け出した。
「ちょ……流石にこんな状態でこいつらには勝てないわよ!」
「だが、やるしかない」
俺の背後で、ヘレンとホルトが敵に向かって武器を構える。
「もう! やるっきゃないのね!」
「ああ。行くぞ、ヘレ――」
「ちょっと伏せてくれ」
「「え?」」
俺の言葉に、二人はその場に膝をつく。
「〈
俺の右前足から噴射される光線のような水撃。
「どりゃああああ!」
そのまま俺は回転し、周囲のゾンビを薙ぎ払う。
「「……えっ?」」
ポカンとしているヘレンとホルト。
ゾンビを殲滅した俺の一撃に驚きを隠せないようだ。
割とすごいでしょ?
「ほう……やはりゾンビ程度ではどうすることもできないか……だが」
ボコボコと地面からゾンビの手が生えてくる。
それも何十何百という数が一度にだ。
「ははは。ここで我と勝負するのは、得策ではないと思うがな?」
「得策じゃなかったとしても、やるしかないんだろ?」
くつくつと笑うワクシリル。
こいつの魂胆が読めてきたぞ。
この場なら、ゾンビが無限に増殖するここなら、俺に勝てると踏んでいるのか。
普通の場所なら勝てなくとも、自分の有利な状況なら勝てると。
「……お前に一つだけ宣言しておく」
「……なんだ?」
「明日だ。明日必ず、お前をこの場で完膚なきまでに叩きのめしてやる」
「明日ぁ? そう易々と逃がすとでも思っているのか?」
「……絶対にお前を倒す手段を手に入れ、この世から消し去ってやる。だからそれまで首を洗ってまっていろ」
「ははは。だから逃がすつもりなど、ない!」
ゾンビが勢いよく俺たちに飛びかかってくる。
「お、終わりかっ!」
「うっ……」
ヘレンもホルトも絶望に身を強張らせている。
しかし俺は、セシルを含んだ4人で〈
「くっ! やられた――だが覚えていろ! このまま逃げるつもりならアンポートを滅ぼしてやる!」
最後にワクシリルが悔しそうに叫んでいた。
ちょっとだけどスッキリしたな。
ざまあみろ。
◇◇◇◇◇◇◇
宿に〈
ヘレンとホルトはキョロキョロと周りを見渡している。
「おかえり、アレン」
「ただいま」
ターニャが嬉しそうな声でそう言った。
「あ、そっか……〈
ヘレンはミリアルド大聖堂から帰って来る時に一緒だったので、何が起こったのかを理解する。
俺はトコトコと歩き、傷だらけのセシルの前に立つ。
「〈
癒しの波動が、右前足から放出される。
セシルの傷が、みるみるうちに治っていく。
「す、すごい……」
その様子を見ていたヘレンが驚いた声をあげた。
「で。なんで三人だけで死の島に行ったんだよ?」
「うっ……」
気まずそうに眼を逸らすヘレン。
だがホルトはペコリと真剣な表情で頭を下げた。
「すまない……俺たちはセシルを男にしてやりたかったんだ。ずっと勇者に憧れていた奴だから……俺たちも、セシルならワクシリルを倒せると思っていた」
「まぁ、生きてたから良かったものの……もう少しで死んでしまうところだったんだぞ。これに懲りたら、危険な場所には自分たちだけでいかないこと」
「あ、ああ……」
「お前たちも……誰だって一人じゃないんだからさ。きっと助けてくれる人がいるんだ」
「……ごめんなさい」
ヘレンも反省したのか、俺に頭を下げてきた。
「だけどさ、これでセシルだけの力じゃワクシリルを倒せないって証明されてしまったわけだよな」
「はい。後、希望があるとするのなら……」
俺たちは一斉にナエの方を見た。
「え? 私ですか? ムリムリムリムリ! 何が何でも無理ですよ!」
全力で否定するナエ。
だが、もう残る可能性はナエしかない。
ナエが勇者として覚醒してくれるのを待つしかない。
だけど残された時間は……
「どうしたの、アレン? あ、もしかして私のこと可愛いって思った?」
「うん……」
「え……」
俺がターニャに視線を向けると、ターニャは何かを言った。
だが俺の頭に彼女の言葉は届いてなかったので、適当に返事をした。
幸せそうにポワーッとふわふわするターニャ。
明日、ワクシリルを倒さないと……ターニャが死んでしまう。
なのに何の手段も無いまま、今日という一日が終わりを告げ――
ターニャは倒れてしまった。
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