第60話 セシルと死の島②
「〈
ホルトの二刀の剣が緑色の風に包まれる。
その剣でゾンビを切り倒していく。
「ちっ」
しかし、横から飛び出してきたゾンビに攻撃を中断させられる。
「グォオオオオ」
ゾンビにしては考えられないほどの速度で距離を詰めて来て、両腕を振り回してきた。
ホルトはそれを後方に飛んで回避し、二本の剣から十文字の真空波を飛ばしてゾンビをバラバラにする。
「気をつけろ。こいつらは海を渡って来るゾンビたちとは比べ物にならないぐらい強い」
「みたいね! スロースターターの私には、ちょっとキツイか――も!」
ゾンビの攻撃を槍で受け止め、弾き返すヘレン。
こんな力強いゾンビは初めてで、少しばかり驚いていた。
だが彼女は、笑みを浮かべて踊るように戦い出す。
ヘレンだけの舞踏会。
情熱的に踊り、見る者を虜にする。
だが今それを見るゾンビたちは、尋常ではない勢いで突き倒されていく。
〈
ヘレンのマインドフォースは、舞えば舞うほど強さが増していくというものだ。
戦場でふざけて舞っていわけではない。
これが彼女の戦闘スタイルなのだ。
「ほらほら! ドンドン強くなってくよっ!」
くるくる回るヘレン。
回転と同時に槍を振るい、ゾンビは真っ二つになっていく。
ゾンビの攻撃もリズムよく回避してゆき、踊りの手は止めようとしない。
舞い続ける彼女は、心の底から楽しそうだった。
「くそっ! どれだけ倒してもキリがない! こいつらどれだけの数がいるっていうんだ!」
「まるで無限に沸いて来るようだな」
敵を次々に切り伏せるセシルたち。
だがゾンビは止めどなく大地から這い生まれてくる。
次第に体力を失っていくセシルたちは、膨大な数のゾンビに押されていく。
「大丈夫か、ヘレン!」
「はぁはぁ……大丈夫だけど、踊りが止まっちゃった」
「これだけの数は想定外だった……」
「だけど俺は諦めない! 勇者がいなくても〈
巨大な白い炎を剣に生み出すセシル。
「飛べ! ヘレン、ホルト!」
「「!」」
セシルの言葉に、真上へ飛ぶ二人。
セシルは剣を大地に突き立て、炎を解き放つ。
「〈
セシルを中心に、聖なる炎が燃え広がっていく。
周囲のゾンビたちは跡形もなく燃え尽きる。
「はぁ……はぁ……くそ!」
セシルの炎は大量のゾンビを焼き払った。
しかし、次々と大地から這い出るゾンビたち。
「これ、ちょっとマズいんじゃない?」
「残念ながら、ちょっとどころではないな」
「ははは……メチャクチャマズいってことね」
大地に着地したヘレンとホルトは、ゾンビたちを見渡してつーっと冷や汗を流しはじめた。
3人は互いの背中を合わせ、自分たちを取り囲んでいるゾンビたちの攻撃に備える。
「生きて帰れたら、お腹一杯いちご食べたいなぁ」
「バカ言うな。俺たちは勝って帰るんだ! 生きて帰るのは当然だ」
「だがセシル。この状況、どうするつもりだ」
ジリジリとゾンビたちが距離を詰めて来る。
「……くっ」
セシルは飛び出して、ゾンビに斬りかかろうとした。
が、
セシルたちから距離を置くゾンビたち。
「?」
そして洞窟の方向にいるゾンビたちが、人が一人通れるぐらいの道を開け始めた。
「侵入者……魔王の後継者だと思っていたが……なるほど、勇者に近しい存在、か」
「誰だ!」
黒いフードつきのマントで全身を覆っている男がゆらゆらと揺れながらセシルの方へと下って来る。
フードから覗く赤い瞳に、ブルッと震えるヘレンとホルト。
セシルだけは臆することなく、敵を睨み付ける。
「……お前が、ワクシリルか!」
「ああ」
「俺はセシル! 貴様を倒すために、この島にやって来た」
「貴様の名前なんぞに興味はない。だが……将来我の脅威になるやもしれん。ここで命は奪わせてもらおう」
「ふざけるな! 貴様はここで俺が倒す! 正義は我とあり!」
剣をワクシリルに向かって構えるセシル。
「はああああああ!!」
膨張していく白き炎。
自身の身長よりも倍近い刀身に変化する。
「消えろ! ワクシリル!」
振り下ろされる聖炎。
「くくく。ここでそんなものは――我に通用せん!」
ワクシリルは雷の剣を生み出し、セシルの聖なる一撃を受け止める。
「なっ……!」
「残念だったな、勇者もどきよ」
「くそ……俺は、お前に――」
再度、聖なる炎を燃えあがらせようとするセシルであったが、ワクシリルが放った黒い雷球に飲み込まれてしまう。
「ぐわああああああっ!」
「「セシル!」」
雷から解放され、ぶすぶすと煙を上げて倒れるセシル。
完全に気絶してしまい、ピクリとも動かなくなってしまう。
「ははは。どれ。仲良く3人まとめて、あの世に送ってやろう」
「くっ……こんなところで私たちは終わりなの?」
「……ちいっ!」
右手を掲げるワクシリル。
黒い雷の球体が膨らんでいく。
セシルを気絶させたものよりも、大きく禍々しい。
「さらばだ」
放たれる黒雷。
無情にもそれは、セシルたちへと落ちようとしていた。
「させない――っての!」
しかしその黒雷は、忽然と現れた猫の手により、暗黒へと飲み込まれ消え失せた。
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