第44話 恋人
「どうやら、毒が原因で死んでしまったようですね」
「だろうな」
「だよねぇ」
俺たちはターニャたちのいる場所に移動していた。
シフォンにノードの死体を調べてきてもらうと、彼女はそう判断する。
そりゃそうだろうと、俺とケイトは顔を見合わせた。
「もっとゆっくり痛めつけて殺してやろうと思ってたのに……あんな簡単に死ぬとは思ってなかったよ」
まだやるつもりだったのかよ。
怖いわ、お前。
「それよりターニャの能力だ。どうなってるんだ、こいつは」
ケイトがジト目で俺と腕を組んでいるターニャを見る。
「あれだよあれ。愛の力だよぉ」
「……意味が分からん」
するとシフォンが微笑を浮かべ、ターニャのことを語り出した。
「アレン様、その娘も運命の力を持つ者のようです。その力は――〈
「〈
「はい。恐らくは、アレン様のためだけに力を発揮し、アレン様がどこにいるのかを把握する、アレン様限定探索能力。それらが彼女の能力かと思われます」
「〈
「私たちって……ターニャの力だからね?」
しかしターニャもアルカナフォースの力を授かっていたとは……
猫の姿の俺に気がついたのも、やけに足が速かったりしたのもそういうことか。
「んふふっ。アレン。アレンッ」
俺の腕に顔をぐりぐりしてくるターニャ。
「面倒くさい女ってことか」
「はぁ? なにか言いました?」
「いいや。別に」
またケイトとターニャの言い合いが始まった。
俺は嘆息し、猫の姿に戻る。
「ああっ! ちょっとアレン、猫にならないでよぉ」
「じゃあ喧嘩するなよ」
「これは喧嘩じゃなくて、愛を賭した、言わば女同士の戦いなのっ」
「私を巻き込むんじゃない。勝手に愛を賭しているのはお前だけだ」
だけど、今朝と比べると少しだけ二人の間の空気が柔らかくなっているような気がする。
気がするだけだから、気のせいかもしれないけど。
目を覚ましたサンデールに安否を問うと、優しい顔で静かに頷いた。
そしてひょいっとサンデールの肩に乗り、俺はみんなに声をかける。
「なあ、ついて来てくれよ」
◇◇◇◇◇◇◇
村からできた山頂への一本道。
ソルトを蹴り飛ばしてできたその道は、水分も多く、足場はあまりよくない。
木々の間に作られた、その不自然でもあり自然にも見える道を上っていく。
そして山頂付近にある盗賊たちが使用していた屋敷跡。
俺たちはその建物を見上げる。
「こ、これ、盗賊たちが使ってたやつだよね……」
はぁはぁ肩で息をしながらターニャは声を絞り出していた。
「ああ。今日から、ここを俺たちが利用しようと思うんだ」
「ふーん。悪くはないと思うよ……しっかり掃除をすれば、な」
ケイトは屋敷の中を覗き込み、肩を竦めている。
シフォンもサンデールも反論はないらしく、ただ頷くだけだった。
「じゃあまず、お父さんに説明しておかないと」
「ああ……そうだよな」
アディンセルを治めているターニャのお父さん。
この山もターニャのお父さんの領地。
勝手に使うと決めたけれど、勝手に使うわけにもいかないだろう。
「それは私におまかせ下さい。必ずや、許可をいただいてまいります」
「だったら私も行くっ! アレンのために絶対お父さんに納得させてくるから!」
「分かったよ。じゃあ、ターニャとシフォンにそっちは任せる」
決意を秘めた瞳で頷くターニャ。
「じゃあ私は掃除をするとするか。サンデール、お前も手伝ってくれ」
「うん」
「じゃあ俺は……」
誰もできる限り触れないでおこうとしていた屋敷の周囲にある大量のモンスターの死骸。
俺はため息をついて、これらを処分することを決意する。
一番効率が良さそうなのは、〈
「…………」
俺はもう一度、ワクワクした気持ちで屋敷を見上げる。
それらが全部終わったら……ここに住むことができるんだ。
一度失った家族。
それとはまた違う形ではあるけど、また新しい家族、仲間と……みんなとここで暮らせるんだ。
それがすごく嬉しい。
ネリアナとは叶えられなかった、俺のささやかな夢。
一緒に住む家族が欲しかった。
それが今、叶えられようとしている。
今回、こんなことは目的に無かったが、思わぬ収穫に俺は抑えきれない興奮を感じていた。
俺はサンデールの肩から、そっとケイトに取り上げられ、彼女の胸に納まる。
「なんだか感動しているみたいだけど、お前にはなさなけばならないことがある。私のことも、ネリアナたちのこともね。だからここは終着点じゃないよ」
「うん。でも嬉しいんだ。できる限りでいいから、穏やかな時間をここで過ごしていきたい」
それは叶わない夢なのかもしれない。
シフォンの預言によると、この小さい猫の体には大きすぎる運命が待っている。
でも何かが起こるその時までは、ゆっくりとした時間をみんなと共有したい。
運命で繋がった、大事な仲間たちと。
だけど――
そうはいかなかった。
ゆっくりとした時間は、本当につかの間のことだった。
もうすでに大きな面倒事が、静かに俺たちに迫ろうとしていた。
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