第42話 ノード①
「ノード? ……なんでこんな所に」
「そ、そりゃあこっちのセリフだ! ななな、なんでお前が生きてんだよ!」
真っ青な顔をして、ノードは叫ぶ。
「おかしいだろ!」
「おかしい? 俺もあんたのそういう顔を見れて可笑しく感じてるよ」
迷宮でされたことを思い出し、急速に頭に血が上る。
そうなんだよな、俺、こいつらに殺されてるんだよなぁ。
「なんだアレン。こいつは例の
「ああ」
俺の返事を聞き、ニタリと笑いノードを見るケイト。
「お、女! こっちに来るんじゃねえ! こいつが死んでもいいのか!?」
斧をぐっとターニャの首に宛がうノード。
ターニャは状況が理解できていないらしく、大いに戸惑っていた。
「ちょ……どういうこと? これどういうこと!?」
「あー……また後で話すよ」
ケイトは舌打ちをし、一歩もその場を動かないでいた。
ターニャを死なすわけにはいかない。
考えは同じだ。
〈
最悪、死んでしまうかもしれない。
ここは慎重にいくしかないよな。
力づくで解決できない分、ソルトより面倒だ。
「で、なんでお前がここにいるんだよ?」
「う、うるせー! 何しようが、俺様の勝手だろ!」
「勝手にしてくれりゃいいけど、こっちはその子を人質に取られてるんだ。もう勝手なんて言葉だけで済ませれるような問題じゃない。それに、お前にはずいぶん世話になったしな」
「ううっ……」
先ほどの戦いを見ていたのだろう。
ノードが俺を見る目は、生きていたという恐怖もあるが、圧倒的な強さを持っていることへの恐怖もあるようだ。
絶対に勝てない。
そう考えているであろうノードは、ジリジリと後ずさりする。
「い、いいか……俺様を追いかけてくるんじゃねえ! この女は適当なところで解放してやる! だから……見逃してくれ」
ノードは泣きそうな顔で懇願してきた。
人を殺しておいて勝手なやつだな、こいつ。
「あのな。俺にやったことを覚えてないのか? あんな酷いことしておいて、見逃してくれなんて通用すると思ってる?」
「そ、それでも勘弁してくれ……反省してるからよぉ」
「あー、無理無理」
今度は本当に涙を流し、ガチガチ震えだす。
ノードってもっと大きくて強そうだったのに、なんで今はこんなに情けなく見えるのだろう。
まぁ、実際に情けない表情をしているが……それを差し引いても大したこと無いように見える。
こんな小物臭漂う男だったっけ。
「俺様はお前の姿を見た時、とんずらしようと考えてたんだ……なのになんでこの女は俺様に飛び込んで来んだよ!」
「知らないよ、そんなの」
「ま、これも運命だろうな」
ケイトは悪い笑みを浮かべたままぼつりとそう呟く。
運命、か。
俺がネリアナたちに殺されたのも、ケイトたちと出会ったのも、こうして復讐の機会が訪れたのも、全部運命……
「お前を追い出してから全部おかしくなっちまって……なんでこんなに人生うまくいかねんだよぉ……俺様は、あの頃最強で無敵だったってのに……」
「最初からさ、みんなのために力を使ってれば良かったんだ。サンデールみたいに。そうすればみんなに慕われ、憧れられる存在になれたというのに。なのにその時だけの感情で暴走するからこうなったんだ。自分だけのために振るう力なんて、意味ないと思うけど、俺は」
「ぐっ……」
「自分のためではなく、人のため。奪うためではなく、守るため。壊すためではなく、生かすため。それが本当の力の使い方だ」
「俺様は……どこで間違ったってんだよぉ……」
気持ち悪いぐらいに涙と鼻水を流すノード。
少し可哀想にも思えるが、全ては因果応報。
種を蒔いたのは、ノード自身だ。
「ね、ねえアレン……この人、誰? アレン、何かしでかしたの?」
「あ、いや……そいつ、ネリアナの仲間なんだよ」
「……お姉ちゃんの?」
「お、お姉ちゃんって……あ、ネリアナそっくりだ」
ノードはパニック状態だったようで、この瞬間までターニャとネリアナが似ていることに気が付いていなかったようだ。
ターニャは顔を後ろに向け、ノードの顔を視認する。
「……お姉ちゃんの仲間ってことは……アレンに酷いことした連中の一人ってこと?」
「そういうこと」
「…………」
ターニャからブチッと言う音が聞こえてきた。
「あ・ん・た・が!」
斧を素手でグシャッと握りつぶすターニャ。
「ターニャ……?」
「ひっ……ひええええええ!!」
突然怪力を発揮したターニャを、俺とケイトはキョトンと見ていた。
斧を潰されたノードは、逃げ腰で数歩後退する。
「アレンに酷いことした奴かぁ!」
ズンズンとノードに近づいて行くターニャ。
「アレンをイジメる奴は――」
下方から繰り出されるターニャの拳。
「許さないから!」
ノードの顎に、アッパーカットが炸裂した。
宙に舞ったノードの体が、きりもみしながら大地へと落下してくる。
グシャッと顔面から落ちたノードは、見るに堪えない酷い顔をしていた。
顎は砕け、鼻が折れ、歯が数本抜け落ちている。
「んふっ……なんなんだよお前らは! バケモンばっかじゃねえか!」
なぜターニャがそんなバケモン呼ばわりされるような力を発揮したのかは分からない。
が……
「本当のバケモンってのは、平気で善良な人間を陥れるような人間のことを言うのさ」
「ひ、ひぃ!?」
ギラリと瞳を光らせるケイトはそう言い放った。
これから鬼のショータイム。
ノード……残念だが、諦めてくれ。
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