第40話 アレンとソルト①

 〈空間転移テレポート〉でアディンセルに戻ってくると、そこではサンデールが倒れていて、ケイトが右腕を失っていた。

 何? 何が起こったんだ?


 ターニャは涙を流しながら俺の名前を叫んでいるし、本当に何があったんだよ。


 ケイトの目の前で拳を振り上げる男がいて、突然現れた俺に視線だけを向けていた。


「なんだてめえは……」

「お前こそなんだ?」


 男は舌打ちをして、こちらに体を向ける。


「聞いてんのはこっちなんだよ! いちいちイライラさせんじゃねえ!」

「いちいちイライラするなよ。もっと普通に話できないの?」

「ああっ!!?」


 男は頭をガシガシかき、苛立ちを隠そうともせずに俺を睨む。

 

「で、誰、こいつ?」

「ソルト……という名前らしいな。後の詳しいことは分からない」

「ふーん」


 痛みに耐えながら答えてくれるケイト。

 俺は〈空間転移テレポート〉でケイトの肩に移り、〈妖精の癒しフェアリーヒール〉で傷を癒した。


 ケイトの失った右腕が生えてくる。

 なんか見てたら気持ち悪くなってくるな。


「なっ!?」


 ソルトは急に背後に現れた俺から遠のき、グルグル喉を鳴らして警戒している。


「ありがとう」

「ん」


 そしてもう一度〈空間転移テレポート〉し、サンデールを回復する。

 怪我は治ったが、意識は回復しない。

 だが、さっきまで苦しそうな呼吸をしていたのが正常に戻ったので、俺は安堵のため息をつく。


 ソルトはまた移動した俺を、ギョッとした目で見ていた。


「な、何やったんだ、てめえ」

「別に……で、お前は何しにここに来たんだ?」

「質問してるのはこっちだろうが! このっ――」


 こちらに怒りをぶつけようとするソルトであったが、彼は急にハッとし、すんすんと鼻を鳴らす。


「この匂い……てめえ……俺の同胞を、殺したのか?」

「同胞? 何それ?」

「バ、バーゲストだよ……俺の仲間だっ!」

「ああっ……」


 さっき山で倒したバーゲストたちのことか。

 そこでソルトの首に、バーゲストと同じ鎖が垂れ下がっているのが目に入る。


「いや、急に襲ってきたもんだからさ……」

「て、てめえ……ぶっ殺す!」


 こりゃまともな会話は不可能だな。

 俺は嘆息しながら、すーっと息を吸う。


「へんしーん!」


 周囲に村の人たちはいない。

 こいつが怖くて出て来れないのだろう。

 

 だから俺は、自分の姿をさらけ出すことにした。


 本来の、人間の姿を。


 ドロンと変身する俺を見て、ターニャが「ああっ!」と声をあげる。

 声をあげたかと思ったら、何メートルもあった距離を、ピョーンと一っ飛びで詰めてきた。

 俺にがっしりと抱きつくターニャ。


「アレンアレンアレンアレン!」

「ちょ……苦しいから離れて」

「なんで!? なんで人間の姿に戻れるなら戻ってくれなかったの?」

「ああ、それはまた後で説明するからさ、とにかく離れて」


 ギュウッと俺の顔を全力で抱きしめるターニャ。

 ちょっと本当に苦しいんだけど。


 なんとかターニャを引き離し、お姫様だっこの体勢になる。

 するとターニャはこの体勢が痛く気に入ったのか、俺をウットリとした目で見あげ大人しくしていた。


 ちょっとしまらないけど、このままでいいや。


「俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。お前だってこの二人を傷つけただろ?」

「ああっ!? そんなの関係ねえ! お前は俺の仲間を殺しやがったんだ。それ以外のことはどうでもいいんだよ!」


 なんて横暴な。

 人の言葉を喋れるんだから、話し合いしようぜ、話し合いを。

 

「そもそも、お前たちがここに来た理由はなんなんだよ。こんな村に来たってなんにもないだろ?」

「お前がそれを知る必要ねえんだよ!」

「知る必要はないって言っても、もう俺たちの戦いは始まってしまってるんだ。何が起きてるのかぐらいは知っておきたいんだよ。こっちは意味も分からずやり合ってるんだしさ」

「はぁ!? だからお前が知る必要ねえだろ! イライラさせんじゃねえ!」

「いや、こっちはイライラさせてるつもりはないけど? そっちが勝手にイライラしてるだけだろ」

「てめぇっ……!」


 ソルトはイーッと発狂しそうなぐらい歯を食いしばり地団駄を踏みだした。

 こいつ何にそんな腹立ってるんだよ。


「アレン様」

「はい?」


 シフォンの声に俺は彼女の方を振り向く。


「その者も、運命の力を持つ者……いずれアレン様の力になる存在でございます」

「こいつが!? 嘘……」


 俺はソルトの方に視線を戻す。

 依然として地団駄を踏みながらこちらを睨んでいる。

 こんな狂暴な奴が……俺の仲間になるかぁ?

 いまいち信じられないな。


「シフォンの思い違いとかじゃなくて?」

「ええ。間違いありません。同じ力を彼から感じます」

「…………」


 俺はソルトをジッと凝視した。

 こいつが仲間になるとか、想像できないんだけど。


 俺は短くため息を一つつき、強引にターニャを下ろす。


「え、ちょ……」

「ターニャ。危なくなるから下がってて」

「そうだそうだ。さっさと離れろ」


 少し不機嫌なケイトの声に、ムッとするターニャ。

 俺の顔を数秒見つめた後、ターニャはケイトの方へと走って行った。


「よし、やるか。では、かかって来なさい」

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