第28話 力
俺は〈
「本当に一人で大丈夫なのか?」
「ええ。問題ありません」
サンデールの代わりにシフォンがそう答える。
「物を入れておく空間を持っているなんて……素敵っ!」
何が素敵なのかは分からないが、とりあえずターニャにもドリンクを飲ませてあげた。
「うん、美味しいっ。アレンが私のために作ってくれた物だと考えると、さらに美味しく思えるね」
「別にターニャのためだけに作ったわけじゃないんだけどね……」
「だけどアレン、猫の姿で器用なことするんだね」
猫の姿の俺が壺に蓋をして〈
猫の体に慣れてきている自分が怖い……
「来たよ、アレン」
ケイトの声に、村の入り口の方に視線を向ける。
足場は砂利道で、山へと続く道があり、周囲には草木がよく生い茂っている。
そこに20名ほどの盗賊が、武器を手にして横暴な雰囲気で下山して来ていた。
まるで獲物を追い詰めたように、余裕の笑みを浮かべている。
村の人々は恐怖に顔を引きつらせ、各々の家へと逃げ帰っていた。
「オラッ! さっさと食い物と金目の物を出しやがれ!」
「なんというやられ役そのもののセリフっ! 確かに俺の出る幕はないかも……」
盗賊の雑魚そのもののセリフを聞いて、ケイトもシフォンもクスクスと笑っていた。
ターニャは少し青い顔をして、二人を不謹慎だと言わんばかりに睨んでいる。
「さぁアレン様。サンデールにご命令を」
「命令って……」
人を使ったことがないから命令とか違和感と恥ずかしさがマキシマム。
俺はこほんと一つせきをし、サンデールを見上げる。
「で、ではサンデールくん。あいつらを倒してきてくれたまえ」
「うん!」
穏やかなクロヒョウが、眠りから覚める。
完全に獣の表情となったサンデールが、盗賊たちに向かって駆け出した。
「な、獣人!? なんでこんなところに獣人が!」
「用心棒でも雇ったのか!?」
「そんなこと今は関係ねえ! さっさと殺るぞ!」
ドッと勢いよく走り出す盗賊たち。
そして村の入り口付近で、サンデールと盗賊たちは激突する。
「うんっ!!!」
サンデールの振るう爪が、先頭にいた盗賊の武器を切り裂き、吹き飛ばす。
「なっ! つええ!!」
「おい、同時に行くぞ!」
二人の男が剣を構え、サンデールの左右から襲いかかる。
が、サンデールはその剣を、両腕で軽々と防ぐ。
「バ、バカな!」
そのまま体を回転させ、両腕のラリアットで二人は遠くに弾かれる。
回転を止め、ダッシュするサンデール。
突進だけで、4人の盗賊が吹き飛び、地面で血を吐いた。
「バ……バケモノか!」
驚愕する盗賊たち。
その後もサンデールの攻撃一辺倒。
難なく敵を薙ぎ払っていく。
「……本当に一人でなんとかなってるな」
「ええ。アレン様の出番はまだもう少し先です」
シフォンは別段ビックリしたわけでも感心しているわけでもなく、涼しい顔でサンデールの戦いを見守っていた。
「サンデールの能力は〈
「純粋なほど強くなる?」
「はい。今はアレン様の命令に従い、村の人々を守る。その気持ちだけで戦っているので、発揮されている力も低くないと思います」
「なるほど……純粋に仲間や人を守る時に力が出るってこと?」
「ええ。彼は自分のためや、嫌な命令を出された場合は力をまともに発揮できません。ですが、こういう場合はよい力が出るのです」
〈
欲にまみれている時は力が出ず、ただ純粋に真心で戦う時には力が発揮される。
一見使えなさそうな能力に感じるけど、誰かを守ってもらう時などは心強さこの上ない。って感じだな。
事実、ヌールドたちと比べても圧倒的に強い。
冒険者の中でも最強格だったヌールドたちと比べてもだ。
これならサンデール一人で問題ないだろう。
そう思っていたが、一人の盗賊が、塀を飛び越えて村に侵入してくる。
「危ない危ない! 逃げないと!」
ターニャが慌てふためいている。
こちらに向かってくる盗賊。
俺は嘆息しながら、〈
「ぎゃふんっ!」
盗賊は地面でワンバウンドしてサンデールと戦っている別の盗賊にぶつかり目を回している。
「な、なんだ? こいつどうしたんだ!?」
混乱している盗賊。
俺は再度〈
「え? え? 何があったの?」
ターニャは何が起こったのか理解できず、キョトンとしていた。
「お前、相当手加減してあれなんだろ?」
「ん? まあね」
「どれだけ強くなっているんだよ」
俺の強さに呆れているケイト。
俺は鼻をこすり、少しばかり偉ぶっておいた。
「に、逃げるぞ! こんなの勝てっこねえ!」
盗賊たちは一人残らず逃げ去っていく。
ある者は涙を流しながら、ある者は武器を投げ捨てながら。
だが、誰一人として死んではいない。
こんな盗賊相手でも、命を奪わないなんて……
なんて優しい奴なんだ、サンデール。
ま、俺が攻撃した奴も死んではいないのだけれど。
「お疲れ、サンデール」
「うん……」
俺が労いの言葉をかける時には、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「……嘘……」
「ターニャ?」
サンデールの戦いを見て、ポカンと口を開けたままのターニャ。
ケイトはそのターニャの顔を見て、ほっぺをぐにぐにと上下左右に引っ張り出した。
「どうしたんだ、ターニャ? アレンのことを諦めたのか?」
「にゃんでほうはるのよっ!」
ターニャはバシッとケイトの手をはたき、目をゴシゴシさせながら盗賊たちの背中を見ている。
「勝っちゃったんだ……本当に勝っちゃったんだ」
そしてハッとし、
「あの人は誰なの? ねえアレン、誰なの!?」
「あれはアレン様の家来……と言ったところかしら。もちろん、私もそうなのだけれど」
「け、家来って……」
ターニャは俺の顔を信じられないと言った感情と、なにか惚れなおした。みたいな顔で凝視している。
「アレン……いったいどうしちゃったの?」
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