第29話 22の力

 村のみんなが広場に集まり、サンデールを囲んで大騒ぎしている。

 相変わらず穏やかな表情で対応しているサンデール。


「ねえ、みんなにあれはアレンの家来だって話したらいいんじゃない?」

「ええ~。別にいいよ。それにネリアナには俺がまだ生きてるって内緒にしておきたいんだよ。あいつが帰って来て俺が生きてるって知ったら、会った時の楽しみが半減する」

「ふーん。よく分かんないけど、アレンがそう言うならいいけどさ」


 そう。

 俺はネリアナに生きているというのを伏せておきたいと考えているのだ。

 だって俺が死んでるって思っていてくれた方が、再会した時に驚いてくれるだろ?


 ターニャに抱かれて俺はサンデールの方に視線を向けていると、向こうからターニャのお父さんがこちらに近づいて来るのが見えた。


「ターニャ! 獣人の彼のことを知っているのか?」


 ターニャと同じ青い髪でヒゲを生やしたダンディーなお方。

 子供の頃から見ているけど、やっぱり上品な雰囲気は変わっていないな。


「一応知ってるって言えば知ってるってことになるの……かな?」


 どう説明していいのか分からないターニャは、俺に視線を落とす。

 するとシフォンが、ターニャの横に立ち彼女のお父さんに説明をし出した。


「彼と私、そしてあの女はとある方のしもべ。その方の命令でサンデールはこの村を守ったのです」

「ある方とは、誰のことなのですか?」

「それは……今は言えません。ですが、いつか分かる時が来るはずです」

「そうですか……では、その人によろしく伝えておいてください」


 話をしているシフォンの横で、ターニャが俺の話をしたいとウズウズしていた。

 

「おい、黙っててくれよ。まだ生きてるってことは内緒だからな」

「そんなことより婚約の約束を!」

「そんなのいらないから!」

「……そっか。別にお父さんに許可貰わなくても、勝手に結婚したらいいんだ」

「いや、そういう意味でもないから……」


 ターニャは俺の頭に頬をぐりぐりと当ててくる。

 ダメだ。俺との仲の話になると会話が通用しない。


「あ、そう言えば、今日は泊まるところはどうするの?」

「ああ……そういや決めてないなぁ。宿でも取るかな」

「それだったら、家に泊まったらいいじゃん! シフォンさんたちだったら、お父さんも喜んで部屋を貸してくれるはずよ! ね、そうしよ?」


 ケイトとシフォンの方に視線を向けると、シフォンは「アレン様の仰せのままに」と一言だけ呟き、ケイトは勝手にしたらと言った風に肩を竦めている。


「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらうか、な」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺たちに用意されたのは、客室の中で一番広い部屋のようだった。

 ベッドは2つあり、ケイトとシフォンが別々のベッドに腰かけている。


 サンデールは別室らしく、もうそちらの部屋に行っていた。

 女子たちはベッドが必要としても、なんで俺の分は無いんだよ。

 床で寝てろってか?

 あ、俺猫だった。

 そりゃ必要ないか。


「しかし、これから仲間がもっと増えていくんだよな?」

「はい。私にはあなたの下に22の力が集まるビジョンが見えています」

「22人、か」

「……22の力が見えますが、22人とは限りません」

「?」

「大いなる力が22個集まる。もしかしたら、2つの能力を持つ者が現れるかも知れませんし、3つの能力を持つ者が現れるかも知れません。ただ22の力があなたの下に集まる。私に見えるのは現在それだけです」

「22の力……まぁ、実際のところ、〈真似踊る愚者フール〉は俺の力になってるもんな」

「ええ」


 ケイトは早々と寝巻に着替え眠りについてしまい、静かに寝息を立てている。


「だけど仲間が集まるってなると、自分たちの住処というか、そういうのがほしいところだな。毎回こうやって泊めてもらえるわけでもないだろうし、毎回宿を取るには金がかかり過ぎる」

「アレン様に必要な物はきっと手に入ります」

「はぁ……」


 シフォンは冗談でもなく、微笑みながらそう本気で言った。

 俺にはまだ分からないけど、彼女がそう言うのならそうなるような気がしてくる。

 あ、もしかして悪徳占い師に騙され始めてるとか?


「アレン~」


 ガチャッと扉が開き、ターニャが部屋に入ってきた。


「ターニャ。どうした?」

「ん? 一緒に寝ようと思ってさ」

「……は?」

「いや、だから一緒に寝ようと思って。ベッドは3人分用意したし、アレンは私のベッドで一緒に寝るの」

「……なんでそうなるの?」

「え? だって夫婦になるんだし、おかしい話でもないでしょ?」

「おかしいよね? 夫婦になるなんて決まってないし、おかしいよね?」

「あはは。アレンは可笑しいこと言うなぁ」

「ターニャはおかしいことを言い過ぎなんだよ!」


 だがターニャは有無を言わさず、俺を抱いて部屋を出ようとする。


「じゃあ、おやすみなさーい」

「おやすみ」


 二コリと笑顔だけを向けるシフォン。

 そんな最高のスマイルを向けてないで俺を助けなさい。

 君は俺の家来なんでしょ?


 その後は抵抗するのも面倒になり、天蓋付きの大きなベッドで俺たちは一夜を過ごすことになった。

 あ、と言っても、猫と人間だから何も起きなかったんですけどね。

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