第27話 ターニャ③

「な、なんで俺たちの居場所が分かったんだよ……?」

「ええっ? アレンのいる所なんて、分かるに決まってるじゃん」

「分かるに決まってるわけないじゃん。普通分からないでしょ」

「?」


 その、何を言っているのって顔やめろ。

 俺の方がおかしく感じてしまうだろ。


 ターニャは木の下から何度も飛んで俺を捕まえようとしてくる。

 だが彼女の跳躍力は低く、とてもじゃないがこちらに届きそうもない。


 俺はとりあえずターニャを落ち着かせるという意味合いも込め話を逸らすつもりで、村の方を見ながら気になっていることを聞くことにした。


「なぁ、なんで村のみんなはあんなに暗いんだ?」

「こいつはその分、無駄に明るいようだけどな」

「むー。何よぉ、もう」


 ケイトをムッとした顔で睨むターニャ。


「なんか最近、この山の上に盗賊が住みついちゃってね、その盗賊たちが村に迷惑をかけてくるのよ」

「盗賊ぅ?」


 俺は〈ガーゴイルの翼デビルウイング〉で浮遊してゆき、盗賊の住処とやらを視認する。


「うわー……アレン、浮けるようになったんだ」

「浮けるどころか、触手まで出せるんだよ」

「えっ?」

「そんなもの出せるアレンなんて嫌だろ? もうあいつのことは諦めた方がいいんじゃないか?」

「そんなぐらいで諦めるわけないじゃん! アレンだったら、タコになってもイカになっても平気だもん!」

「なんで頭足類ばっかり? と言うか、もう猫になってるんだけどね」


 下の方で「猫になっても結婚する~」なんて叫んでいるが、俺は無視して住処を確認した。


 元々古い屋敷があったのだろうか、薄汚れていて天井にも無数の穴があいている建物。

 大きさも十分にあり、俺の住んでいた家とは大違いだ。

 観音開きの玄関は壊れていて、左側は無く、右側はギーギー風に揺れている。


「ん?」


 その時だった。

 そこから不衛生待ったなしと言った男たちがゾロゾロ出て来て、村に向かって行進を開始する。

 あれ? これって村を襲いに行く気まんまんだよな。


 俺は言い合いをしているケイトとターニャの下まで戻り、見たことを話しする。


「盗賊、村に向かってるけど」

「ええっ!? 大変……どうしよう」

「大変なのはお前だ。お前こそどうしたらいいものだろうな」

「それはこっちのセリフよ! ああもう、とにかく村に戻らないと!」


 なぜかターニャは俺を抱きかかえて走り出す。

 ケイトはため息をつきながら後ろをついて来る。


「戻ってどうするんだよ?」

「お父さんたちに話さないと……」

「でも、なんともならないから困ってるんだろ?」

「そりゃあ……そうだけど」

「だったら、俺がなんとかしてやるよ」

「アレン……」


 感極まったような様子で、ターニャは俺をギュッと抱きしめる。

 苦しい。けど柔らかくて幸せだったり。


「さすが私の許嫁! 私の村を守ってくれるんだね!」

「いや、ターニャのことは関係ありませんから。俺の村でもありますから」


 俺たちは山の下の方にいる。

 村に到着するのはこちらの方が早いはず。


 息を切らせて走るターニャ。

 こっちに来るときの勢いはどうしたんだ?


「さっきはもっと速かったし、息も切らせれなかっただろ?」

「ああ……なんでだろ? 帰りの方が辛い。アレンがいるっていうのに。普通さ、アレンと一緒にいたら、幸せになるはずなのにね?」

「ねって言われても、俺が一緒にいたからって体力が増えるわけでもないだろうさ」

「火事場のバカ力みたいなもんじゃないのか?」

「誰がバカよ!」



 いがみ合う二人。

 俺はターニャの胸の中でため息をつく。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そんなやりとりをしながら、俺たちは村に到着した。


「そ、そんなに急いでどうしたんだ、ターニャ!」


 俺たちの家の近所に住んでいたおじさんが、ターニャに駆け寄り彼女を心配している。


「はぁはぁ……盗賊が、下山して来てるの」

「と、盗賊が!? そりゃ大変だ! ターニャのお父さんに伝えてくるよ!」


 そう言っておじさんは走って行き、周囲にいる人たちは不安そうに騒ぎ出した。


「ま、また盗賊が!」「どうすんだよ……どうすりゃいいんだよ!」


 誰も盗賊をなんとかする力を持っていないみたいだ。

 俺がなんとかするしかないか。


「何かが、こちらに攻めてくるのですね」

「シフォン」


 ターニャから下り、盗賊を待ち構えようとした時だった。

 シフォンとサンデールが俺たちの下へとやって来る。


「ああ。みんな盗賊と戦うだけの力がないみたいだから、俺が代わりに戦わないと」

「ふふっ。まだアレン様の出番は早いかと思いますが――」

「また美人が増えた! アレン、この人誰!?」

「ああ……また後で紹介するよ」


 ターニャに紹介するよりも、今は盗賊の方が問題だ。

 でも俺の出番はまだ早いってどういうことだよ?


「ここは――サンデールだけで十分でしょう」

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