第14話 最強パーティー、ドンクーの森で

 ヌールド一行は、ドンクーの森にやって来ていた。

 霧がかった怪しい雰囲気の森。

 モンスターが占領している危険な場所だ。


 ヌールドたちはここに出現するトロールを退治しに来ていた。


「しかし、今さらトロール退治なんてあまりやる気は起きないな」

「仕方ないさ、ノード。人が困っていたら、手を差し伸べなきゃいけないだろ?」

「そうすりゃ、俺様たちの評価が上がるしな」

「はははっ。そういうことさ」


 全く臆することなく、笑いながら歩くヌールドとノード。

 ネリアナは退屈そうにハリーと並んで歩いていた。


「この仕事が終わったら、もっと強い相手と戦いましょう。私たちはもっともっと強くならなければならないし、強くなれるはずよ」

「分かってる。華麗に仕事をこなして颯爽と次のステージに向かおう」


 自分たちの実力から考えれば、トロール程度はどうということはない。

 苦戦するわけもなく、楽すぎて暇な仕事だと考えている。


 事実、ヌールドたちはトロールよりもハイレベルなデュラハンなどを退治しているのだ。

 それと比べればトロールなど雑魚と言っても過言でないだろう。


 お買い物レベルの仕事だと思っているヌールドたちは、緊張感無く笑い話をしながら森の奥へと進んで行く。


「お、トロールがいたぜ」


 この森に1匹だけ迷い込んだ、巨大で緑色の体躯をしたトロールがいた。

 右手には巨大な斧を持っている。

 それを発見したノードは両手に斧を持ち、正面から突撃した。


「あんまり遊ばないで倒してね」

「ガハハッ! 分かってる分かってる!」


 ノードはトロールに飛び掛かり、〈剛力爆砕ギガントクラッシャー〉で敵の持つ斧を粉砕しようとする。


 が――


「むっ!?」


 トロールの持つ斧に、ノードの斧は受け止められてしまう。

 寒気を感じたノードは、トロールから距離を取る。


「な、なんだ……こいつ、普通のトロールじゃねえ!」

「なんだと……」


 ヌールドは異変を瞬時に察知し、両手剣を手に取りノードと並び立つ。


「〈美しき氷剣アイスクレイモア〉。まずは貴様の武器を破壊させてもらう」


 トロールの斧目掛けて氷の剣を振るうヌールド。


 斧は凍り付き、クッキーのように簡単に砕け散る――

 

 そのはずだった。


「なっ!」


 しかし、相手の斧は砕けるどころか、逆に弾き飛ばされた。


 地面を転がるヌールド、相手の異様な強さに顔を青くしている。


「と、突然変異のトロールか……だが、こんな強さのトロールが存在するのか?」

「わ、わかんねーが、倒すしかねえだろ!」

「突然変異かどうか知らないけれど、トロール程度に苦戦しないで――よ!」


 ヌールドたちの背後からネリアナが手を振い、赤い閃光が走る。

 閃光はトロールに衝突し、爆発を起こした。


「さ。もう帰りましょ」


 青い髪をパサッと手で払い、ネリアナは踵を返す。

 だが、ヌールドとノードは固まったまま動かない。


「? 何やってるの? 早く……っ?」


 振り返ったネリアナは驚愕した。

 なんと爆発を直撃したトロールは、ピンピンしていたのだ。

 少々皮膚が焦げているだけで、びくともしていない。


「こ……これ、本当にトロールなの?」

「俺様が聞きてえぐらいだ……どうなってんだ!?」

「グオオオオ!」


 トロールがノードに向かって、地面を揺らして走る。

 頭上から斧が一文字に襲い来る。


 二本の斧で防ぐが、吹き飛ばされるノード。

 そのタイミングで、トロールの背後から脚を何度も斬り付けるハリー。

 しかし、ハリーの短刀は敵の皮膚を傷つけることもできなかった。


「!」


 後ろに向かって斧を振り回すトロール。

 ハリーは腰を抜かす恰好で、それを回避――いや、奇跡的に逃れることができた。


「ど、どうやら俺の知っているトロールではないようだ! だが、そんな貴様を倒して、俺たちは華麗にステップアップさせてもらう!」


 ヌールドが剣を大地に突き刺すと、氷がトロールの足元まで伸びて行く。


「これで貴様は動けない! 後は俺に殺されるだ――け……」


 トロールの足が凍ったと思ったのもつかの間。

 氷を難なく壊しながら歩くトロール。

 そしてヌールドに斧を全力でスイングする。


 両手剣で斧を受け止めるが、剣はその威力に耐え切れず弾き飛ばされてしまう。

 斧は勢い止まることなく、そのままヌールドの肩口をえぐり取る。


「ぎゃああああああ!!」


 左肩から血が噴水のように噴き出している。

 ヌールドは腰を完全に抜かし、その場から動けなくなってしまった。


「お、おかしいじゃないか……俺はこんなトロールに負けるような男じゃない!」


 ガタガタ震え涙を流しながらヌールドは叫ぶ。


「お、俺は華麗に輝かしく勝利を収めるのが常住なんだ……こんなの、美しくない!」


 ネリアナがトロールの目前で爆発を起こし、目をくらませる。


「に、逃げましょう!」


 言うや否や脱兎の如く逃げ出すネリアナ。

 ノードはフラフラしながら、ハリーの体を抱きかかえ駆けて行く。


 ヌールドは腰を抜かしたままトロールから距離を取る。


「ま、待ってくれ……ネリアナ。俺を置いていかないでくれ」


 尋常ではない量の涙を流しながらヌールドはそう呟いた。

 自慢の美形は見るに堪えないほど涙と鼻水で醜くなっている。


 死。


 ヌールドの頭にはその一文字だけが浮かび上がる。

 

 しかしトロールは、ノードを追いかけて走り出した。


 安堵にさらなる涙を流し、恐怖に放尿しつつ匍匐前進ほふくぜんしんで進んで行くヌールド。


 こうして、アレンがいなくなったヌールド一行の冒険は、壊滅的な失敗から始まった。

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