第15話 15階層③
人間に戻れたことと、ゴーレムに快勝したことに俺はニコニコ笑顔をケイトに向けていた。
ケイトはチラッと俺の顔を見てそっぽを向いてを繰り返してる。
「どうしたんだよ?」
「べ、別に……中々素敵な笑顔だなんて思ってない」
「?」
何かぼつりと囁いたが、俺は聞き取れなかった。
「お、お前の能力、やはり強力なドリンクを作るだけのものではなかったようだな」
「ああ。どうやらドリンクだけじゃなくて、能力も強化できるようなんだ。美味しくなれ、元気になれって心を込めたら、効力が上がった。そして能力を使う時に強くなれって念じたら強くなったんだ」
「念じれば強くなる、か……面白い能力だな」
顎に手を当て、ケイトは思案顔をする。
「〈
「〈
俺のマインドフォース――〈
「〈
俺はもう一度自分の能力を確認するために、自身の拳を強化してみた。
入ってきた扉に拳を叩き込む。
著大な扉が音を立ててガラガラと崩れ落ちていく。
「……やり過ぎだ」
想像以上の威力に俺は目が点になった。
ケイトはあきれ果てている。
強化されすぎだろ、これ。
ゴーレムの腕力を手に入れていたとしても、どんだけ強くなってんだよ。
「それで、さっきのゴーレムから手に入れた能力はどんなものだ?」
「ああ。たしか、空間を操る能力だっけ?」
吸収したゴーレムの能力。
俺はその能力について思考する。
手に入れた力のことは、なぜか理解することができていた。
なんて便利機能なんだ。
ありがとう、魔王。
今回手に入れた能力は、空間を操る能力。
ケイトが言っていた通りだな。
能力はどうやら二つあるようだ。
一つは〈
これはゴーレムが使っていた能力、空間を裂く力だ。
当たりさえしなかったが……実際に喰らっていたらひとたまりもなかっただろう。
喰らっていた時のことを想像し、ブルッと背筋が冷える。
当たらなくてよかった。
もう一つは〈
俺だけが開ける空間に、物を収納することができるみたいだ。
ちょっと便利過ぎてありがたき幸せ。
「ケイト、リュックをこっちにくれないか?」
「……いやだ」
「なんで!?」
「だって、残った分は飲みたいし」
「……別に取り上げようとしてるんじゃないよ」
「そう」
ケイトはしぶしぶリュックを俺に手渡す。
「〈
俺の言葉に応じるように、目の前に夜空のような黒い空間が現れる。
そこにリュックを入れ、空間を閉じた。
「これで重たい物を持たなくて済むよ」
「……便利だね。私の私物も全部お前に預けようかな」
「俺はケイトの都合いい男かよっ」
「違うわよ。大事な男」
「えっ……」
ドキーンと心臓が高鳴り、ピタリと動きが止まる。
「だって――私の呪いを解く、唯一の希望なんだから」
「呪いって……何?」
「……そのうち分かるさ。さ、今日はもう寝よう」
そう言ってケイトは地面に横になる。
「…………」
半年も迷宮の奥にいたり、みんなが知らないことを知っていたり、呪いがどうのこうの言い出したり……なんとも謎の多い女の子だな。
美しくミステリアス。
儚そうで強そうで。
ま、深くは追及しないでおこう。
彼女の言う通りそのうち分かってくるだろうし、無理に話を聞く必要もないさ。
「……毛布も、収納しておいてほしいものだね」
「ああ。外に出たら真っ先にそうしておくよ」
「……ありがと」
◇◇◇◇◇◇◇
どれぐらいの時間眠っていたのかは把握できていないが、起きたらスッキリしていた。
ちょうどケイトも目覚めたらしく、寝ぼけ眼でこちらを見ている。
「おはよう」
「……猫じゃない」
「猫じゃないよ。人間の姿に戻ったんだから」
「……ちっ」
「なんで舌打ち!? 人間に戻ったらダメだった?」
「人間としてのお前の笑顔もいいが……猫の愛らしさも捨てがたい」
「……たまになら猫になってあげるよ」
悪口ではなく、好意的なことを言われると嫌な気分はしない。
これもケイトの策略なのかも知れないが、ここは素直に受け取っておこう。
俺たちは起きると、さっそくドリンクを口にした。
これ以外、飲み食いできる物がないからだ。
「……だけど、腹減ったなぁ」
「こんな場所だから仕方ないさ。ドリンクの効力のおかげか餓死することもないようだし我慢しろ」
ケイトは抑揚ない声でそう言い、静かにドリンクを飲み干した。
「ここからは私も手伝ってやるよ」
「え? そうなの? でも戦わないって言ってたよね?」
「半分冗談さ」
半分かよ。
「次にゴーレムみたいなのが出て来た時、まともに動けなかったら大問題だしな。次もお前一人で勝てる保障はないし」
「あなた、ただの運動不足ですか? まぁいつも歩いているだけだしね」
「大丈夫。私は太らない体質だから」
「そんな心配してませんから」
一瞬ケイトがちらりと俺を見る。
俺は笑顔を返しておいた。
ケイトは顔を赤くして奥にある扉に向かって歩き出す。
「あっちから先に進めそうだな。行こう」
「何照れてるのさ?」
「う、うるさい。さっさと行くぞ」
夕焼けみたいに顔を赤くしたケイトの横を俺は彼女の顔を覗きながら歩く。
なんでこんな真っ赤になってるんだよ。
本当、不思議な女だなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます