第十章 人事異動?
「よろしくお願いいたします」
その言葉で、クリスのパラリーガルの生活が始まった。
法律関係の事務所ということで、採用の際の人物の裏付け捜査はしっかり行われていた。
面接も二度行われたし、一般教養や性格・意識テスト、集中力テスト等も行われた。
クリスの身辺調査もしかり。
そのあたりはビューのすることで抜かりなく、対策をしっかり行っていた。
弁護士事務所から経歴や人物照会のため、各箇所に問い合わせが行われたが、その確認のため行われた通信は、すべて連邦特別司法省のビューの部下たちで傍受し、クリスの関係者として対応していた。
それが功を奏し、クリスが弁護士事務所で見事「法律事務員=見習い(パラリーガル)」として勤務することできたのだ。
「この書類はどうしましょう?」
これはクリスの余所行きの所作の問いかけだ。
書類を持って「にっこり」。
ビューに言わせれば怪しい「にっこり」の笑顔であるかもしれない。だが、対応した者はまだ日が浅く、それには気づかない。
クリスに向き合った上司にあたる弁護士はこう言った。
「それは君に任せるよ」
採用初日、弁護士事務所の関係者たちに挨拶し、クリスは丁寧に対応した。
――自分はここでは一番下の身分の者。
という感じだ。それを全面に出した。
職務上の身分の上下とか関係なく、年配の事務スタッフや労務管理の職員もいるわけで、一概には言えなかったが、自分が一番新入りなのは確かだった。
「よろしくお願いいたします。アリスン・フォードラスです」
この挨拶がしばらく続いた。
「フォードラス君、君、連邦法が強みだったね。この案件、最悪の場合、惑星や星系を通り越して連邦案件になる可能性があるから、その場合は力を貸してくれよ」
この言葉には苦笑しながら「はい」とこたえるしかなかった。
クリスはここでは「アリスン・フォードラス」と名乗っている。
本名を名乗るわけにはいかず、かといって本名からあまりかけ離れていると呼び名にすぐ反応できないため、このような名前を名乗ることになった。
グレイシア・クリスフォードとアリスン・フォードラス。
似ているようで似ていない、微妙な距離感の名前に、引きつり笑いするしかなかった。
採用から一週間ほどたった時、上司である弁護士がこう言った。
「ところで、君の卒業論文を見せてもらったよ。『連邦法と各星系域の住民の意識傾向について』。面白い視点を持っているようだね。連邦という視点から見た場合の特色については、君の論文も参考にさせてもらうことにするよ」
これを言ったのは、ナノエックスフリーダム社の顧問弁護士で主任弁護人のクラーク・ベリーマンだった。
この論文に関しては、クリスは苦笑するしかない。
卒業論文に関してもチェックが入るかもしれないと、自分の持っている情報(オープンにして良いモノだけ)を参考に、三日三晩、完徹で仕上げた。
要するに『連邦法と各星系域の住民の意識傾向について』という論文は「ダミー」の論文なのだ。
銀河連邦航宙士中央養成学校(アカデミー)卒業時の「グレイシア・クリスフォード」が作成した論文、そして博士号を取った際の論文を出せるわけがない。急遽書き上げた。
はじめ部下が作成したものを採用してはどうかとの案もあったが、いざ、その論文が話題に出て、細かいことに突っ込みが入った時に対処できねば困る、今後自分が文章を作成するに際し文章表現に齟齬が出てはならないと、クリスが自分で書き上げた。
情報収集に関しては、さすがに部下に任せたが、その情報の分析と解釈、考えられる今後の予測、対応については、ビューを巻き込みながらクリスが一人で書き上げた。
三日三晩で仕上げたという点に関しては、博士論文ではなく、学士論文であるという前提で対処したため、このスピードで対応できたのである。
それを考えても、恐るべし、グレイシア・クリスフォード。
この論文の作者は、「アリスン・フォードラス」になっている。
下手に悪目立ちしてもいけないことから、ほどほどにというか、ダウングレードして論文を書いているのは否めない。また、ビューやほかの捜査官たちも自分の専門分野を見つけてはチェックに入っていたので、相応の論文が出来たと思っている。
「ところで入社した早々申し訳ないが、君、ナノエックスフリーダム社で働く気はないかね?」
上司の弁護士からこんな言葉をかけられた。
……はい?
クリスには一瞬、内容がわからなかった。
「あの、どういうことでしょう?」
この疑問は当然だ。
自分はここにきてまだ日が浅い。たった一週間ほどだ。それなのに、転属というか、その、転職? その勧め??
言葉を返せないでいるクリスに、ベリーマンは慌ててこう言った。
「君に何の不満もないんだ。君のような素晴らしい人材がこの会社に来るとはと、正直驚いていたんだ。だが、ナノエックスフリーダム社の方で、若くて法律を知り機転の利く秘書兼助言者になりえる人物が欲しいと、社長直々に相談があってね。たった一週間だが、君の働きぶりや、対応を見せてもらった。覚えも早いし応用もきくし、非常にありがたいと思っていたよ。でもナノエックスフリーダム社からの相談は無視できなくてね。君なら条件に合っていると思った。もしよかったら、面接だけでも受けてみないかい?」
これは完全に予想外だった。
「あの……」
クリスにしては珍しい、言葉に詰まった場面だった。
自分がこの場所から移る? 想定外のことだった。
頭の中で「アリスン・フォードラス」の経歴を確認してみる。
レディンバーグ星系第五惑星のオランド大学法学部出身、専攻は連邦法。弁護士資格については……。まだ実力がついていないのでトライしていません。法律事務員として経歴を積んで自信をつけてから試験を受けます。確かこうだったはずだ。
そこで、一応自分は遠回しに「パラリーガル」なのだと言ってみた。
「そう言っていただけるのは恐縮ですが、私はまだ、弁護士資格は持っていません」
それについては……。
「今後、資格を取るつもりなのだろう? ならば、その点については問題視しないのではないかな? 上司と部下、特に会社の上部にいる人間とその秘書となると『相性』の問題もあるからね。気楽に考えて。面接して無理そうなら、そう言ってくれればいいから」
「……はぁ」
クリスにはその言葉しか出てこなかった。
まいった。
非常にまいった。
自分は弁護士事務所で情報を集めるつもりだったのに。
まさか「ナノエックスフリーダム社」に異動を提案されるとは。
この流れでは、一応面接を受けないと事務所にいられないことになりそうだ。
「なんだかなぁ……」
そう愚痴りながら、資料室へしまう法令集を持って、ベリーマンの部屋を出て行った。
クリスがビューに連絡を取った際、まず一番初めに聞いた言葉は……。
「何をやっているのですか、貴女は!」
だった。
これに関しては、クリスには非がない。
全くない。
普通に働いていて、思ってもみなかった「転職」という言葉が、向こうから勝手に転がってやってきたのである。
「転職」なんて、そんな言葉は望んでもいなかったし、そもそも自分の立場はパラリーガル。弁護士事務所に居たい、というか、居なければならない。今回の件では特に。
そのはずだったのに……。
災難は、向こうから勝手にやってきた。
この心境だった。
「はぁ……」
双方向画面通信の向こう側から、ビューの小さなため息が聞こえた。
この行動も、クリスの前だからできる。
いつものビューであれば、そんな点に気づいて差し控えているはずであったが、今この時、その分別は吹き飛んでいた。
「で、どのように対応されるおつもりですか?」
「そうだなぁ、困った……」
「困ったではありません!」
そうは言われても、クリスとしてはそう表現をするしかないのである。
今後、どう捜査を進めてゆくか。そして、どう行動するか。
それを、バックアップを担当してくれているビューに相談しようとしていた。
本来なら、こんな通信も不本意なのである。
たった一週間で主席司令補に直接連絡を取る羽目になろうとは……。
目にかかった前髪を掻き上げながら、目の前にある画面のビューを見つめた。
今度はクリスが「ふーっ」とため息を吐いた。
「人間性が合わなかった、社風に合わなかったという方向に持ち込んで、異動がダメになるようにしむけるかなぁ」
クリスが頭を掻きながら言う。
「それでは異動の話が立ち消えになっても弁護士事務所に居づらくなるでしょう。話を持ち込んだ貴女の上司にあたる弁護士の立場もあるでしょうし。異動を故意に反故にするような行動は、今回の場合賛同いたしかねます」
確かに、ビューの言うことも一理あった。
だが、「弁護士事務所」という情報の供給源も手から放したくないのが現実だった。
クリスは考えこんでしまった。どう動くべきか。それを決定するにも……。
「取りあえず会ってみるさ。『ナノエックスフリーダム社』の採用担当者とやらに。誰の秘書となるか今の時点ではわからないが、ベリーマン弁護士の言う通り、上司と部下の『相性』というものも、確かにあるからな」
クリスは片目をウインクし、半分陽気に言った。
「相性、ですか……」
それが自分たちの関係にも対して言っていることにビューは気づき、再びため息を吐いた。確かに相性が悪ければ、仕事は続かない。自分たちのような、信頼で成り立っているような仕事の場合はなおさらだ。
「その『採用担当者』に会ってから今後の対応を決めよう。万一、向こうに警戒されるようになったら困るな。君との通信回線はその都度変えよう。使う回線については、会話の終了時に伝える。もっとも、連邦政府の暗号回線を使っているから傍受されるとは考えにくいが……。次回はC2-D4回線を使ってくれ」
「了解しました」
こうして今回の二人の会話は終了した。
クリスは翌日、ナノエックスフリーダム社の採用担当者と会うだけ会ってみるとベリーマン弁護士に伝えた。
「いやぁ、そうしてくれると助かるよ」
ベリーマン弁護士はほくほく顔だ。これで義理が立つとでも思っているのだろう。
巻きこまれた方としてはたまったものではないが。
「先方に伝えてみるよ。ちょっと待ってて」
――待ってて?
疑問を浮かべたクリスを前にして、ベリーマン弁護士はクリスの前で連絡を取り始めた。
「社長ですか? ベリーマンです。今お時間よろしいでしょうか? お探しになられていた秘書の件ですが、一人適任者を見つけましてね。もう決まりましたか?」
げっ、社長?
直に連絡を取るとは……。
頼む、採用者は決まっていると言ってくれ!
クリスは通信を聞きながら、内心そう思っていた。
だが……。
「まだ、決定していない? ならばお会いになりますか?」
――ああ、甘かったか。
淡い期待ははかなく散った。
「え? 今日? ですか?」
そりゃまた随分強引なことで。
自分のことを棚に上げ、クリスはそう思った。
「本人が今居ますから、確認してみます」
そういうとクリスの方を向いて、
「フォードラス君、今日、先方に行けるかい? そのための時間は取ってあげるから」
それを聞いて、クリスは頷いた。
「大丈夫とのことです。では、十五時にそちらへ向かうよう伝えておきます。では……」
そう言って通信を切った。
「聞いての通りだよ。十五時に、ナノエックスフリーダム社の本社に行ってくれるかな? ああ、タクシーを使ってくれて構わないから。経費で持つように指示をしておくよ」
「……わかりました」
なかなか思うように事態は動かないらしい。
どうやら、面接には社長も絡むようだ。
とにかく社長はどんな人物なのか。
老舗大手製薬会社のメディブレックス社と正面切ってけんかすると決断した社長だ。
では、直に会って、とことん人物について見極めてやろうじゃないか。
「それでは、失礼します」
退室のためくるりと後ろを向いた途端、人の悪い笑みを一瞬浮かべたクリスだった。
ナノエックスフリーダム社には、指定された時間の十五分前に着いた。
少し早かったらしい。
交通渋滞が思ったよりも少なかったためだ。
とりあえず、会社の門前にいる警備員に来訪の意を伝えた。
すると少し時間を措いてから、きりりとスーツを着こなした男性が近寄ってきた。
きびきびした動きから、出来る男という印象を持った。
「アリスン・フォードラス君かな?」
自分の偽名が呼ばれた。
「はい」
クリスはそう返答した。
「私は秘書統括のケビン・リーグル。もし君が採用になったら君の上司にあたるものだ。面接は社長室で行うとのことなので、ついてきてほしい」
そう言われ、クリスはケビンと一緒に移動シャトルに乗り込んだ。
「君の経歴は、ベリーマン弁護士から聞いているが、改めて教えてくれないか?」
シャトルで対面に向き合って座っているときにそう質問された。
――試されているな
感覚的に、クリスはそう感じた。
クリスは作り上げられた「アリスン・フォードラス」の経歴を答え始めた。
偽りの中に真実を混ぜると、より現実味が増す。
それを計算しての詐称経歴だった。
「なるほど。ベリーマン弁護士からもらった君の履歴書と相違ないようだ」
嘘は言っていないと確認したようだ。
ここは、クリスの勝ち? のようだ。
「ここの社長は、学生の頃この会社を起業した。若いから考え方に柔軟なところもあるが、厳しさもある。すでに面接で二十人以上脱落している。心得て面接に向かった方が良い」
こんな言葉を貰った。
このような言葉をかけてくれるということは、秘書統括のケビン・リーグルの目に留まったということなのだろうか?
「心得ておきます」
そう、クリスは返答した。
移動シャトルが止まり、二人はシャトルから降りた。
下りた先には、三階建てのあまり大きくない建物がある。
「ここが管理棟だ」
そう言って中に入ったリーグルの後に続く。
「ここは事務職の集まる棟だよ。社長室は上だ」
階段を上る。
そして、最上階(といっても三階だが)にたどり着き、二階までの造りとは違った雰囲気に軽く驚く。
「小さな会社とは言っても社長室だ。それなりに整えないと、甘く見られることもあるからね」
なるほど。
ある程度の見栄というもの必要らしい。
クリスはそう悟った。
「さて、準備はいいかい? フォードラス君」
その言葉に
「どうぞ」
と気負いなく答えた。
その姿にリーグルは、一瞬おや? というような表情をしたが、すぐに戻し、社長室の扉をたたいた。
「社長、よろしいでしょうか? 秘書候補が面接に来ております」
「入れ」
その言葉で、扉が開いた。
扉の中に入ると、窓辺にいた男が振り向いた。
ただ一人この部屋に居るということは、この男が社長なのだろう。
社長という立場からすると、確かに若い。
だが、クリスよりは年上なのは確かだった。
「君が、アリスン・フォードラス君か」
そう言って近寄ってきて握手を求めてきた。
「はい、アリスン・フォードラスです。よろしくお願いします」
しっかりと握手を返すと、人物の顔を見てにっこり笑った。
ここで、握手を求めた立場の社長は、おや? という顔を返す。
それには気づかないふりをして、手を離した。
「掛けてくれ」
そう言って応接椅子に歩み寄りながら、社長は向かいの椅子を勧めた。
だが、そのまま起立したままで「社長」が席に着くのを待ち、その後スッと座った。
――行動すべてが見られている
直感がそう言っていた。
「私が社長のジョージ・ファーガソンだ。ベリーマン弁護士が、君を褒めていた。たった一週間の勤務であるが、君を手放すのは惜しいと。さて、君は私のどんな役に立ってくれる?」
さて、戦いの火ぶたが切って落とされたな。
クリスはそう感じた。
「社長がどのような人物を求めているかでしょう。私がその人物に見合うかどうかはわかりませんが」
また、にっこり。
その態度にも、またおや? という顔をした。
「どうかなさいましたか?」
クリスが問いかけた。
「いや、君は動じていないな?」
クリスは疑問に思った。
動じる必要などあるのだろうか? いや、この場合、普通の人なら動じる場面なのだろうか?
クリスには分からなかった。
「動じた方が良かったでしょうか?」
「いや、その方が話しやすい」
傍に控えていた、秘書統括のリーグルは表情には出さないが驚いていた。
ここまで自然体で面接を受けた秘書候補は初めてだ。
「君は大学で『連邦法』を学んでいたな。なぜ『連邦法』を?」
いきなり来たか。そう思った。
まさか、銀河連邦航宙士中央養成学校(アカデミー)に在籍していたから、自然とそうなりましたとは言えない。
ビューが作った履歴に沿うように、アリスン・フォードラスになり切って、言った。
「惑星には地方があり、またその中に地域がある。惑星の上にはそれをまとめる星系があり、その上には各星系を統一する銀河連邦がある。色々な種族、民族が居る中で、それを統括する連邦、それがどうあるべきか法的にまとめたものが連邦法です。ですから、純粋に興味があったのです。法とはどうあるべきかについて」
「で、結論は出たのかな?」
「どうでしょうか。まだ模索中と言っても過言ではないように思います」
フム……と社長であるファーガソンは聞いていた。
「その模索は続くのかな?」
それに対してはこう答えた。
「考えられる時間があれば、考え続けるでしょう」
ファーガソンは面白そうな顔をした。
自分に対し、媚を売らないし、動じず自然体でものを話す秘書候補者。
二十人見てきて、彼女が二十一人目。
興味が湧いた。
「さて、今わがナノエックスフリーダム社がどういう状況にあるのか、知っているのかな?」
探るような感じで、ファーガソンは尋ねてきた。
これに対しては慎重に答えた。法律事務所で得た知識以上のことを話さないように気を付けなければならない。
「特許について係争中ということは伺っていますが、詳しくは知る立場にいませんでした。こちらの秘書をやってみないかと問われたのが昨日でしたし、申し訳ありませんが、こちらの会社について勉強不足という点は否めません。いろいろ勉強したいと思いますが、いかがでしょう?」
どうだろうか? そちらはどう思う?
クリスなりの問いかけだ。
「勉強、大いに結構。君は現在パラリーガルだったね。司法試験を受験しようと思わないのか?」
会社としては、弁護士資格を持つ職員が居れば、大いに役立つ。企業弁護士に毎回照会をかけなくても、ある程度は社内で解決できるようになるからだ。
むしろ、今まで在籍した弁護士資格所有の社員が居なかったという方が驚きだ。
秘書統括のリーグルに言わせれば、独特の雰囲気を持つファーガソンについて行けるような、秘書を兼ねた弁護士など、都合の良い人物が居なかっただけだと言葉を返されるだけだと思うが。
「司法試験はまだ準備不足だと思っておりますので、受験は控えております。それに司法試験を受けるとすれば『連邦法曹会』と思っておりましたが、こちらのお望みは『サンザシアン星系第五惑星レイヴァン』の『グッズモンド』を含む『レファード州法曹会』の弁護士資格でしょうか?」
「そうだ」
社長の回答は簡潔だった。
「会社としては、君の考えとは逆に、地域があって地方があり、地方があって州があり、州があって惑星があるという考え方だ。そこで必要になるのは、地域の法律であり、『レファード州法曹会』の弁護士資格を持つということだ」
なるほど……ということは、自分はお呼びじゃない?
そう思ったところにさらに質問が飛んだ。
「私は会社経営者で、経営や経済は学んでいるが法律の専門家ではない。法律の勉強をした君に問いたい。『レファード州法曹会』で必要になる法律の知識は、君の持つ知識で補うことはできないか?」
社長のファーガソンとしては、怖気づかず、前向きな姿勢であれば、これは喜ばしい。知識があり、好感を持てる人物ならなおさらだ。
だが……。クリスは焦った。
ちょっと待て!
自分はお払い箱行きではないのか?
会社にとって必要な人物じゃないだろう?
面接不合格と思っていたところにこの質問だ。
慌てて自分の持っている知識をまとめた。これがある意味、致命的なエラーとなってしまった。
「……サンザシアン星系は連邦成立後に地球系移民を元にしてできた星系です。その星系法、惑星法、州法は、連邦法に準じて定めているはずですから……大きな差異はないと思いますが……」
つい、自分の持っている知識をぽろっと言った。
主席司令補であるビューが心配していた点がここで出てしまったのだ。
「ならば、その知識、この会社で生かしてみないか? 会社としては歓迎する。資格取得についても会社としてバックアップもしよう」
……おい。待て。
この流れは……。非常にマズい。
面接で、好意を持ってさようなら、のハズが……。
この条件は、資格取得を目指しているものからすれば、破格の待遇だ。
あぁぁ、自分はバカだ!
「君を秘書として、採用しよう」
決定の言葉が出てしまった。
クリスとしては泣きたい気分である。
「あの、質問をよろしいでしょうか?」
「何だね?」
「どなたの秘書になるのでしょうか?」
そういえば、まだ言ってなかったな……。
そんな小さな言葉が耳に着いた後、クリスが否定したい言葉が聞こえてきた。
「私の、社長の秘書として就いてもらう」
嘘だぁ。
やめてくれぇ。
自分の不用意な言葉のせいで、秘書決定。
それも、連邦特別司法官の司令が、十二人しかいない司令の一人が、一企業の社長秘書になるという珍事件の発生だった……。
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