第112話 リモコとの対話
「そういえばリモコは、これからどうするんだ?」
「どうするってどういうことよ?」
「旧市街のケガレが浄化されたことで、もうあそこにいる理由がなくなったんじゃないか?」
「ああ、そういうことね。そうね、しばらくこの街を見て回ろうと思ってるわ」
何でもこの【帝都・セイヴァース】に来たのは初めてだという。これだけ大きな街なのだから観光も楽しめると彼女は言う。
「それに……お婆様が仰ってたことがホントなら、コイツを見極める必要もあるし」
「え? 今何だって?」
小声で聞き取れなかったので尋ねるが、彼女は「別に何でもないわよ」と言ってきた。
「そんなことよりもアオス、アンタが『導師』として覚醒したってことは、もう女王様もお目覚めになられてるのよね?」
「オル……イシルロスのことだな?」
「ちょ、様くらいつけなさいよね! そうよ、妖精女王のイシルロス様のことよ」
「ああ。小さい頃からずっと世話になってるかな」
「そんなに前からお目覚めになられてるの!? ……どういうこと? 覚醒の周期でいうと、幾ら何でも早過ぎるわよね? お婆様の予言がこうも外れるなんて」
またもブツブツ言っているが、ここはツッコまない方だ良いのだろうか?
「ねえアオス、イシルロス様にお会いしたいんだけど」
「もしかして今まで会ったことがないのか? どこにいるのかも知らない?」
「会ったことはないわ。どこにいるかは知っているけれど、【ユエの森】はイシルロス様の許可なしじゃアタシたちでも入れないもの」
「なるほど。ちょっと待ってくれ、今聞いてみるから」
「え? 聞いて見るって……!」
俺は心の中でオルルに呼びかける。
〝アオス様? 良かった……お目覚めになられたのですね〟
〝もしかして状況を理解してる?〟
〝アオス様付きの妖精から連絡がありました。何でも巨大なケガレモノと対峙し、その結果ご無理がたたって倒れてしまったと。もう大丈夫なのですか?〟
妖精さんたちがオルルに伝えてくれたようだ。
〝心配させてしまって悪い。もう大丈夫だよ〟
〝それなら良かったです。どうかご無理はなさらないでくださいね。あなたが傷つけば妖精たちが悲しみます。もちろん私も……〟
〝ああ、本当にすまない。それで、一つオルルに頼みたいことがあるんだけど〟
〝はい、何でも仰ってください〟
〝実は、そのケガレモノを祓った時に手伝ってくれた妖精さんがいてな〟
〝聞いております。確か四枚羽を持つリモコという名の妖精だと〟
〝ああ。その子が是非オルルに会いたいって言ってるんだけどさ〟
〝分かりました。妖精ならば構いません。それに妖精女王としても、『導師』であるあなたの力になってくれたことに関してお礼を言いたいですから〟
〝ありがとう。じゃあ今日の夜にでもいいかな?〟
〝はい、では時間になりましたら転移させますね〟
そう言ってオルルとの会話を切った。
「今確認した結果、今日の夜ならいつでも話せるとのことだ」
「…………」
「オルル?」
「! あ、ごめん! ちょっと驚いてね」
「驚く?」
「だって《念話》も許されてるなんて、やっぱり『導師』だったんだなぁって実感しちゃって」
「今更じゃないか? 一緒にケガレモノだって倒したってのに」
「そうだけど、妖精にとって『導師』ってやっぱり特別だし、実際長いこと生きてたって、会えないことが普通だから。アタシだって『導師』の話なんて、眉唾程度に思ってたもん」
確かに『導師』は常にこの世に存在しているわけじゃない。実際俺の前任が活躍していたのは、もう遥か昔のことらしいし。
「それよりも謁見に関してだけど」
「ああ、そうね。うん、問題ないわよ。じゃあ夜まで街をぶらつくことにするわ」
時間が来たら俺が住む寮の前で合流することを約束して、リモコは窓から外へと飛んで行った。
するとそのタイミングで、
「……んぅ……! アオス……さん?」
今まで寝ていた妖精さんが目を覚まし、俺の顔を見て泣きながら抱き着いてきた。その声を聞いてか、他の二人も同じように目覚めて飛びついてくる。
本当に心配かけたようで、俺は三人に何度も何度も謝罪をした。
「でもでもでもぉ、アオスさんがぶじでよかったですよぉ~!」
「このままみぼうじんになってしまうかとハラハラしましたぁ。ほんとうによかったですぅ」
「ったく! こんなことでたおれるなどクンフーがたりんぞ! たいいんしたらまたイチからきたえなおすからな、おばかアオスめ!」
俺にはこんなにも心配してくれる妖精さんたちがいる。それだけで心の奥がポワッと灯りが点り温かくなる。
実家にいる時は、俺が高熱で倒れても誰一人として見舞いに来なかった。メイドが食事と薬を運んでくるだけ。まあその間にも、妖精さんたちが看病してくれたから寂しくはなかったが。
それから妖精さんたちと仲睦まじく話していると、扉がゆっくりと開き、中からオリビアが姿を見せた。
「!? アオス、目が覚めたのか!?」
慌てて駆け寄ってきたオリビアが、俺の額に手を当てて熱を測ってきた。
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