第76話 予想的中
カトレアの提案に対し、耳にした者たち全員が一様に押し黙った。
だが徐々に観客席が湧き立ち始め、
「おおっ、それは面白そうだ!」
「いいぞっ、やれやれぇ!」
「さすがは校長! 燃える展開を用意してくれる!」
などと、楽しそうな声音があちらこちらから飛び交っている。
ただそんな中、アトレアとバリッサだけは、信じられないという面持ちで、ある人物を見つめていた。
その相手とは――アイヴである。
「おいおい、マジかよ……!」
「う、うん……まさかアイヴが言ってた通りになっちゃうなんて……!」
驚愕している二人をよそに、アイヴは楽し気に笑みを浮かべている。
そう、バリッサたちは以前、この〝ダンジョン攻略戦〟で、A組、B組、どちらかが勝つか予想し合ったのだ。
カトレアはアオス率いるA組、バリッサはカトレアの身勝手な法によって無理矢理B組に、そしてアイヴは――。
『なら私は――――――再試合。アオスくんとカイラくんがもう一度再戦することに賭けるわよぉ』
そう言っていたのだ。
当然そんなバカなことは有り得ないと二人は言い、アイヴの負けを確信していのである。
何せ一度はアオスとカイラの勝負に決着がついているから。それを再試合なんて絶対にないと信じていたのだ。
しかし今、その有り得ないはずの展開が訪れている。
「ね、ねえアイヴ、何で分かったの? ……は!? もしかしてアイヴには隠されていた能力があって、それは未来を見通せる力とか!?」
「バッカ、んなわけねえだろうが! おいアイヴてめえ、どういうこった! 何でてめえの言った通りになる!」
二人は当然のようにアイヴに謎解きの解明を要求する……が、
「フフフ、残念だけれど私には未来を見通せるような力はないわよ。そんなことができるのは、かの『
「だったらどういう理屈だよ!」
「簡単よ。ただ私はもう一度見てみたいって思っただけ」
「「……は?」」
「前回はカイラくんが油断していたせいで呆気なく終わってしまった模擬試合。でも今度はそうはいかないわ。互いに掛け値なしの全力同士のぶつかり合う。私はただそれが見たくて希望を口にしただけよ。当たる確率なんて1%もないって思ってたけど。でも、フフフ……言ってみるものねぇ、これで賭けは私の勝ち。今度美味しいものでも驕ってもらうわよぉ」
「ま、まだだ! まだアオスたちは承諾してねえ!」
「そ、そうよ! 二人が拒否すれば、きっとこの勝負は無効試合になるし、賭けだって成立しなくなるんだから!」
確かに三人とも引き分けや無効試合という予想はしていないので、賭け自体が無効となってしまう。
しかし……。
「さあ、二人とも、返事を聞かせてはもらえないかしら?」
カトレアから、アオスたちへと質問が放たれる。
すると、まず口を開いたのはカイラだった。
「……望むところです! 僕には願っても無いこと! そのご提案、是非ともお受けしたいと思います!」
彼にとっては汚名を被った一戦だったため、返上のためにも僥倖な提案であろう。
そしてその決意に、またも歓声が響く。
だがアオスは、どこか浮かない表情をしている。
「あなたはどうかしら、アオス・フェアリード?」
「……俺は…………シン助たちを無視して勝手に決められません」
アオスは自分一人で決めるわけにはいかないと豪語する。
「に、逃げるつもりか、アオス!」
「……名前で呼んでるぞ、ジェーダン?」
「!? ……君は決着をつけたいと思わないのかい、フェアリードくん?」
「無論白黒は決めたい。だがこれは集団戦だ。俺一人で戦ってきたわけじゃない」
「君はリーダーだろうが!」
「それでも勝手に決めて良い理由にはならん。俺は独裁者になりたいわけじゃないからな」
「っ……僕が独裁者だと言いたいのか?」
「さあな。自覚がないなら問題だが」
「何だと……?」
今にも掴みかからんばかりの空気だ。
「あっちゃあ、ほんとーに仲悪いねあの二人」
「みてえだな。アオスも変にムキになってやがるし」
「まるでほんとーの兄弟みたい。って思うと、どことなく顔立ちも似てる感じが……」
アトレアの言葉に、バリッサも「そういえばそうだなぁ」と、まじまじと二人の顔を見ている。
「二人とも、そこまでにしなさい。これ以上、不必要な戦闘は許可しませんよ」
「「……はい」」
カトレアの注意に素直に従うアオスたち。
「ではアオス・フェアリード、その仲間の言葉を聞いてはいかがでしょうか?」
「え?」
アオスが呆けたように声を上げると、アオスの……いや、彼だけでなく、ダンジョン内にいる者たち全員の足元に魔法陣が浮かび上がる。
するとモニターから彼らの姿が消え、会場の中央にある魔法陣の上に突然現れた。
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