第75話 納得できる結末を
会場では、先程まで熱気に包まれていた喧噪が嘘のように静まり返っていた。
誰もが呆気に取られたかのようにモニターを凝視し固まっている。
無理もないだろう。勝利条件である優勝カップが、カイラの爆炎によって消失してしまったのだから。
「うわぁ……これってどうなるのかな?」
アトレアもまた驚きに目を見開いている一人だ。
「俺に聞くなよ。てか、マジでどうすんだこれ?」
どうやらバリッサも、これから〝攻略戦〟がどうなっていくのか見当もつかないようだ。
するとその時、モニターの中からようやく第一声が放たれる。
「……き、君のせいだぞっ!」
カイラの声だった。彼はアオスを指差して、怒りに目を吊り上げている。
「君が僕の攻撃を避けなければ、優勝カップに当たることはなかった!」
「それは言いがかりだろうが! そもそもカップを壊したのはお前だ! 責任はお前にあるはずだぞ!」
「だ、黙れ! 僕に非はない! 君が僕を吹き飛ばしてカップから手を離させたのがそもそもの原因だろう!」
「はっ、あれくらいの攻撃で転倒する軟なお前が悪いんだろうが!」
「何だとっ!」
「何だよっ!」
互いに歩み寄って、その胸倉を掴んで怒鳴り合う。
「ア、アオスくんって……あんなふうに怒るんだね」
「あ、ああ……いつもクールな奴だから、ちょっと意外だな。何かまるで兄弟喧嘩みたいだぜ」
バリッサの見解は正しい。何故なら彼らは間違いなく兄弟喧嘩をしているのだから。
ただこれまでこんなふうに、アオスが真正面からカイラと衝突したことはなかった。何故ならいつもカイラが正しいと周りは言うし、アオスは歯向かうことすら諦めていたからだ。
故に現状のように、胸倉を掴んでの言い合いなんて今までしてこなかった。
観客たちも、二人の様子にざわつき始め、収拾がつかなくなってくる。
だがその時だ。
「――――――静粛に」
不意に響き渡ったのは、凛とした声音だった。
皆がその声の主に意識を向ける。
教員専用の席で一人立っていたのは、この学校の校長であるカトレアだった。
また会場内だけでなく、喧嘩をしていたアオスたちにも声は届いているようで、二人も唖然とした様子で固まっている。
「聞こえていますね、アオス・フェアリード、そしてカイラ・ゼノ・アーノフォルド・ジェーダン。校長のカトレアです」
「こ、校長……先生?」
「声が……聞こえる?」
カイラのあとにアオスもまた不思議そうな表情を浮かべている。
「他の参加者たちも聞こえていますね。指示します。今すぐ戦闘を中断してください」
ボス部屋で戦っていたシン助たちにも声は届き、互いに手を止めている。
「これから私の話をしっかりと聞くこと。いいですね?」
しかし突拍子もないことだったためか、参加者の誰一人として返事をしない。
「もう一度聞きます。大人しく話を聞くこと。いいですね?」
「「「「は、はい!」」」」
威厳のある声音に、正気を取り戻したかのように一斉に参加者たちが返事をした。
そしてカトレアによって、優勝カップが失われたことをシン助たちも知ることになった。
当然アオスとカイラ以外、程度の差こそあれ動揺が見られる。そんな状態で、勝敗がどうなるのか不安な様子である。
「これまで数々の〝ダンジョン攻略戦〟が行われてきました。そして稀に今回のようなことも起こり得たことがあります」
その言葉を受け、「へぇ、前にもあったことあるんだぁ」とアトレアや、他の観客たちが思い思いの言葉を口にしている。
「今回の勝利条件として、ダンジョンの最奥に眠る宝を持ち帰った者が所属する組が優勝、ということになっていました。しかし現状、その勝利条件である宝そのものが失われた状態になってしまいました」
「だからそれはコイツが僕の攻撃を避けたせいです!」
「違う! あの状況だと普通に考えて回避以外の方法はなかった! 周りを見ずに攻撃をしたコイツのせいだ!」
またもカイラとアオスの口喧嘩が勃発してしまった。
「落ち着きなさい、二人とも。原因はどうあれ、どちらも故意的に優勝カップを消失させようとしたわけではないことは分かっています」
確かにどちらも相手に勝ちたい以上、カップを壊すなんて馬鹿な真似はしないだろう。
「しかしこれ以上、あなたたちが争っても勝利条件が失われた以上は無意味。普通ならこの時点で、どちらも敗北とし、事を終えてしまうのですが」
「「それは困るっ!」」
アオスとカイラが綺麗にハモる。
「校長先生、僕はコイツと決着をつけたいのです! このままどちらも敗北なんて納得できません! 貴族として……ジェーダン家の者として、このまま引き下がるわけにはいかない!」
カイラの叫び。それは気迫となって、モニター越しでも観客たちに伝わってくる。それほどまでにアオスに執着しているのだ。いや、彼に勝つことにだ。
「……アオス・フェアリード。あなたも同じですか?」
「俺も……俺もこのままじゃ納得できない。これじゃ何のために仲間が俺を送り出してくれたのか……俺は彼らの想いに応えなきゃならないんだ!」
アオスもまた熱い胸の内を吐露するかのような発言をする。
しかもその声は、カイラ同様に他の参加者たち……つまりシン助たちにまで聞こえていた。
「アオス……へへ、言ってくれんじゃねえか」
「仲間……何だかくすぐったいですね、トトリさん?」
「ま、まあ……そうね」
シン助、九々夜、トトリが、それぞれアオスの言葉に感動している。
そしてそんな彼らの姿を見て、カトレアは頬を緩めながら「そうですか」と口にし、すぐに表情を引き締めると、ある提案を口にした。
「確かにこのままでは、あなたたちの戦いを見に来た者たちも消化不良でしょう。そして、アオス、カイラ両名は、互いに相手と決着をつけたいと願っている。……なら、もう一度再現してみてはどうかしら――――――〝クラス代表戦〟を」
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