第63話 確かな成長
「前方、スケルトン二体!」
ダンジョンに転移し、少し進んだ直後、目前にモンスターが現れたのだ。
シン助がすぐにモンスターの種類と数を知らせてくる。これも以前はしてくれなかったことだが、度重なる実習のお蔭で、ちゃんと仲間に知らせてくれるようになった。
「周囲に他の敵影無し! シン助とトトリは二手に分かれて相手を分断!」
「「了解!」」
俺の指示も、大分素直に聞いてくれるようになった。特にトトリは、聞いてくれるものの、いつも面倒そうな様子を見せていたが、今日はそんな素振りを微塵も見せない。
「九々夜は二人の支援だ」
「はい! 出て来て――《魔狸紅》!」
仲間の身体能力を上げてくれる支援モンスターを召喚する九々夜。
俺は彼らの戦いを見つつ、周囲に気を配る。罠が無いか、どこかから増援がやってこないかなどのフォローだ。
そうすることで、シン助たちは目の前の敵だけに集中することができる。
「「はあぁぁぁぁっ!」」
シン助とトトリがほぼ同時にスケルトンに攻撃を放ち、スケルトンの身体はバラバラになって床に散らばる。
しかし討伐したからといって、すぐに二人は浮かれたり気は抜かない。しばらくは動かなくなったスケルトンに意識を向けながら戦闘態勢を維持する。
そして――。
「――よし、もういいだろう。三人とも、見事な動きだった。お疲れ様」
俺の発言で、三人が構えを解く。
「お兄ちゃんもトトリさんも凄い! 無傷で倒しましたね!」
「ハッハッハ! 当然だ! スケルトンなんて俺にかかれば朝飯前よ!」
「でも、前は二体に集中攻撃されて危なったでしょ?」
「う……いやまああの時はちょっと油断してただけで」
九々夜の言う通り、最初の頃は敵すべてをシン助だけで対処していた時もあった。そのせいで敵に囲まれたり、集中攻撃で捌き切れないといった状況があった。
元々スケルトン程度にやられるシン助ではないが、相手の攻撃も掠ったりして無傷ではなかったのだ。大したダメージじゃないといっても、それも積もっていけば致命傷になりかねない。無傷で事を終えられるのなら、その方が良いのは自明の理である。
「トトリ、大丈夫か?」
「え? う、うん……大丈夫だから」
俺が声をかけると、少し慌てたように返事をしてくる。ちょっと顔を赤らめているのが気になった。
「できるだけお前には無理をさせないつもりだ。何といっても半日ほど捕まっていたんだしな」
「だ、大丈夫よ! 最初は気絶させられてたけど、そのお蔭で睡眠は取れてたし。別に……体力も消耗してないから」
「そうか。だが精神的なダメージは負っているだろう。それはお前が思っているよりも重い場合がある。少しでも体調に変化が生じたら教えてくれ。その都度、対応するからな」
「…………ありがと。でもね、本当に大丈夫よ。……このくらいで、恩を返せるなんて思ってもないし」
「む? ちょっと聞き取れなかった。最後何を言ったんだ?」
「べ、別に何でもないわよ! そんなことよりさっさと進も! B組に先越されちゃうわよ!」
「あ、ああ、そうだな」
何かやる気に満ちている様子で、物凄く違和感がある。何故なら今までやる気とは正反対を貫いてきた彼女だから。
彼女の中で、この〝攻略戦〟で頑張る理由ができたということだろうか?
「なあアオス、B組の連中と鉢合わせした時はどうすんだ? アイツらも、このフロアのどっかにいるんだろ?」
「恐らくな。遭遇して穏便に済ます相手でもないだろうし、十中八九戦闘になるだろう」
「おお! そいつは楽しみだ! それにB組連中を倒しゃ、お宝はゆっくり探せるしな!」
「もうお兄ちゃん、先走ったりしたらダメだよ?」
「わーってるよ! ぜってーに負けたくねえしな。特にあのB組の代表にはよぉ」
代表というとカイラで間違いないはずだが、そこまでシン助が意識するような相手だっただろうか。俺が会場に到着する前に、何かあったのかもしれない。
「とりあえず先を進むぞ。気を引き締めろ」
毎度お馴染み導力を使って正しい道を決定し進んでいく。
モンスターと遭遇する度に、皆で連携して討伐していき、さっそく下に降りる階段を発見した。
しかし……。
「これって戦闘の跡、だよな?」
シン助が警戒しながら、周りを見回し口を開いた。
壁や床に焦げ跡や破壊された形跡が見つかる。
「どうやらB組たちの方が先に向かったようだな」
もしかしたら奴らが飛ばされた場所が、階段に近かったのかもしれない。
アリア先生曰く、最初にダンジョン内に飛ばされる時、どこに転移するからは完全にランダムになっているらしい。
運が良ければ、階段があるフロアかもしれない。
冒険者にとって、運も大切なファクターの一つであり、プロでもチームメイトには幸運持ちを入れることは当たり前になっている。
実際に運が良くて助かったケースも多々あるため、運も実力の内として認められているのだ。
「マジかよ!? だったらさっさと行こうぜ!」
「……! 待てシン助! ストップだ!」
階段を勢いよく降りようとしたシン助だが、すぐに俺は彼の手を掴んで止めた。
「ちょ、何すんだよ! 早く行かねえと先越されちまうぞ!」
「いいから少し待て」
俺はそう言いながら、破壊された床の破片を拾い、階段の方へ向けて投げつけた。
破片が階段に落ちた瞬間、魔法陣が広がって放電現象が起きたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます