おばあちゃんは殺し屋

 ぼくはなかたゆうきといいます。

あと3か月で9さいになります。

 ぼくにはじまんのおばあちゃんがいます。

かぞくにはないしょだけど、ぼくのおばあちゃんはころしやという仕事をしています。

 夜おそくなるとおばあちゃんはみんなにはないしょで外にでます。

ぼくがついていっていい?ときくと、あぶないからダメっていわれます。

 なんでもおばあちゃんがいうには、ころしやっていうしごとはとてもきけんがあるそうなので、おとなにならないとついてきてはいけないそうです。

 外にでるときおばあちゃんは黒いふくと黒いぼうし、それと黒いくつをはいてでかけます。

 そして人をころすためのどうぐといって、右手にはかばんをもっています。

なかになにがあるの?ときいても、シュヒギムといって教えてくれません。

 そしてみんながねているころに出かけたおばあちゃんは朝にはふとんでねています。

 おばあちゃんが帰ってくる所をむかえようとしてもいつもぼくはねむくなってしまいます。この間げんかんでねちゃったけど、朝になったら自分のふとんでねていました。どうやらおばあちゃんがふとんまではこんでくれたようでした。


 

 ぼくがおばあちゃんとひみつをもつようになってから2か月くらいたったときのことでした。

 あと1週間でぼくの学校の運動会がはじまります。

3年生になると、ときょうそうのほかにかりものきょうそうやつなひきもやるようになります。それとぼくの学校ではかぞくといっしょにリレーをやります。

 クラスのみんなは自分のお父さんやお母さんとあとお兄さんとかと走るっていっています。

 でもぼくのかぞくはみんな体が弱くて、お父さんはしんぞうの病気で走ることはできません。お母さんは前に足をこっせつしてからちゃんと歩くのも辛そうになりました。

 あとは妹とおばあちゃんがいますが、妹はまだ2さいで走れません。

そのことを前におばあちゃんにそうだんしたら、おばあちゃんが走るよといってくれました。

 でもおばあちゃんはもう今年で70さいになります。

他のともだちのお父さんとかはまだ35さいとか若い人がおおいです。

 ぼくだけおばあちゃんと走るのはすごくいやだったんだけど、今日おばあちゃんが、

「こんどの運動会で走るためにくつを買ってきたよ。」

と言ってきました。

 ぼくはおばあちゃんと走るのがいやだったので、

「おばあちゃんとはしりたくない。お父さんがいい!」

と言ってしまいました。

 そしたらおばあちゃんは悲しそうな顔でごめんねといいました。

ぼくはおばあちゃんのことがきらいになりました。

 今日も夜のじかんになったので、おばあちゃんが外に出ないかげんかんに行ったけど、1時間まってもでてきませんでした。

 次の日、おばあちゃんにきのうは仕事なかったの?ときくと、

「おばあちゃんはもう仕事やめたんだよ。」

と言っていました。

 あんなにかっこよかったおばあちゃんはもうふつうの人になっていました。

とてもがっかりしました。



 運動会の日になりました。

さいしょは行進からはじまって、かいかいせんげんをしたあと、ときょうそうからはじまりました。

 グランドの横を見るとお母さんとお父さん、妹がぼくをみにきていました。

朝はおばあちゃんもくると言っていたけれど、きていないみたいでした。

 おばあちゃんもきっとぼくのことがきらいになったと思いました。

そして、つなひきや玉入れがおわり、クラスたいこうのかぞくリレーがはじまりました。

 ぼくはかぞくの方をみました。お父さんと目があったけどお父さんは走れません。

 そこでお母さんが立ちあがったので、お母さんのところに行きました。

お母さんの手をひっぱりつれていこうとしたところ、

「まちなさい。」

と声をかけられました。

 よこを見たらおばあちゃんがいました。

おばあちゃんをよく見たら、仕事のふくをきていました。

くつもしごとのときのものでした。

「おばあちゃんきてくれたの?」

とぼくが言うと、

「おばあちゃんといっしょに走ろう。」

と言われました。

ぼくが

「でもそのふくをきてたら、みんなにばれちゃうよ。」

と言うと、おばあちゃんは笑ってこたえました。

「おばあちゃんのさいごの仕事だからばれてもいいんだよ。」

そういうとおばあちゃんはぼくの手をにぎりグランドへとむかいました。

 さいしょはみんなにおばあちゃんと見られるのがいやだったけど、今のおばあちゃんはころしやなのでかっこいいです。

 ぼくのじまんのおばあちゃんがそこにいました。

おばあちゃんのくつをよく見ると、いっぱい走ったようなよごれがたくさんありました。

「どうしてこんなによごれてるの?」

ときくと、

「ころしやはいっぱい走る仕事なんだよ。」

とおしえてくれました。

 リレーがはじまるとぼくのチームは1番のじゅんいでした。

このまま行けばぼくたちがゆうしょうできるかもしれないと思いました。

そしてぼくにバトンがわたり、ぼくはいっしょうけんめい走りました。

 そしたらカーブのところで右足と左足がぶつかりころんでしまいました。

いそいで立ち上がり走りましたが、2人においこされてしまいました。

 このままだと負けてしまいます。

ぼくがころんだせいでと思いました。

それでもがんばって走り、ぼくはおばあちゃんにバトンをわたしました。

でもだれもおばあちゃんを見ていません。

 先をこしていった2人はお父さんたちにバトンをわたし、その2人がならんで走っていたので、みんなそっちを見ていました。

 ぼくは負けたと思いました。

そしたらおばあちゃんは、バトンをもらったしゅんかんに、すごいスピードで走り出しました。

 みんなはお父さん2人を見ていましたが、うしろからぼくのおばあちゃんがものすごい早さでおいついてきました。

 2人ともがんばっていましたが、ぼくのおばあちゃんは2人においつき、そしておいこしました。

 そのとき、とても大きなはくしゅやおうえんがきこえてきました。

ぼくのおばあちゃんはだれよりも目立っていて、かがやいて見えました。

 ぼくのチームは1番でゴールしたので、ゆうしょうしました。

リレーがはじまる前はおばあちゃんをバカにしてきたともだちとかも、ゴールしたあとですごい、かっこいいとほめてくれました。

 ぼくはとってもうれしかったです。




 それから時間が過ぎ行き、私ももう大人になりました。

あの時のおばあちゃんは今でも忘れられません。

 おばあちゃんはあれからも元気で生活し82歳でこの世を去りました。

私が成人式に出た時も、晴れ姿を見て喜んでくれました。

 その時も私が、

「おばあちゃん、もう殺し屋はやらないの?」

と冗談で聞くと、

「ゆうき君に助けが必要だったらまた殺し屋に戻るかもね。」

と笑って答えてくれました。

 そんな私も今では2児の父親となりました。

 幼心を思い出しつつ、子供と接する毎日ですが、実は今、私も殺し屋の仕事をしています。

 長女が今年小学3年生になり、家族と一緒にリレーをすることになったのでその時に備え、私も毎晩外で走り殺し屋を頑張っています。

 いつか見たあの黒い服を同じように纏いつつ、私は今日も外へと向かいます。

遠い未来、娘たちが祖母や私と同じように殺し屋となり、外を走るその日を夢見ながら…。

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