第21話 魔法って何?

「そもそも、魔法って何?」

 まずはそこからだ。創作物によっても千差万別の解釈があるし、基礎となる考えを知っておいて損はないだろう。

「……人や動物、植物といった生物全般には肉体がある。それ以外の手段で以って世界に干渉する力全般を指す」

 リーゼロッテはローブに包まれた手を上げて、かるく振った。彼女の髪が軽く風を受けて動く。

「……肉体、つまり手を振ったり扇子で仰いで風をおこすのが普通のやり方。私の風の魔法はそれ以外。だから、『魔法』と呼ぶ」

「……トールの魔法も同じ。燃焼物がない空間に突如焔を発生させる。この世の理を覆す技術だから『魔法』」

 もう隠す必要がないと判断したのか、リーゼロッテは声を少女の状態のままにしている。また、僕のことを名前で呼ぶようになった。

「ただ勇者の魔法はイメージがこの世界の人間と違うせいか、一般の魔法とは原理が違うらしい。けた外れの力を持つことが多いのもそれが理由とされるけど、詳しいことはわからない」

 自分の得意なことを離すとそれに夢中になるタイプなのか、さっきまでとはうって変わって熱心に魔法について講義してくれていた。

「……それと、魔法の制御について。トールならいずれ制御できるようになるとは思うけど、以前も暴発して汲み取り部屋を吹き飛ばしたし、当面はこれが最優先」

 確かに、あの部屋を修繕する手間と費用を考えると早めに覚えておいた方がいいだろう。もし寝てる最中に暴発して今住んでいる部屋を破壊したら、ミヒャエラや大臣まで巻き込まれてしまう。

「……魔法を発動させる際に、何らかの合図を決めておくと成功率が増す。私の場合は杖をふって詠唱する。フロイデンベルク王国の魔術師は大体がこのやり方」

 それ、すごい恥ずかしいな。

「……言いたいことはわかる。私も慣れないうちは穴を掘って潜りたいくらいだった」

 やっぱり恥ずかしいのか。

「……でも慣れないうちは合図を決めた方がいい。合図なしに魔法を使う癖がつくと暴発する可能性もある。魔法は感情とかかわりが深いから感情が高ぶっただけで発動してしまうこともある」

 以前汲み取り部屋を吹き飛ばしたのもそのせいか?

「それと、たとえば風魔法だと単純に『風よ吹け』と言うのと『大気の震えよ、龍の雄叫びとなりて天地を揺るがせ』と言うのでは後者の方が強いイメージを持つ。そうやって同系統の魔法に強弱をつけやすくする」

 そんな理由があったのか、厨二な設定が格好いいからいろいろ詠唱考えてるとばかり思ってた。

「ところでこの世界では、魔法を使える人はどれくらいいるの?」

「……国にもよるけれど、数千人に一人と言われる。このフロイデンベルク王国全体でも百人程度。貴族に多いが、平民でも突如魔法の才を持つ者が現れることもある。そう言ったものは大体国に召し抱えられ、城や国直属の機関に勤める」

「……十分な給料と地位が保証されるから、親も喜んで年端のいかない子でも差しだすことが多い」

 リーゼロッテは唇をかみしめ、拳を握りしめた。

 口減らしみたいなものか。でも日本みたいに、下手な親に育てられて虐待されるよりマシかもしれない。

「僕の他の魔法は、どんなのがあるの?」

「……国にもよる。このフロイデンベルク王国では『風』系統の魔法が多い。他の国では色々。治癒の魔法を多く輩出している国もある」

 そうか、他の国に行ってどんな魔法があるのか見に行くのも面白いかもしれない。

「……それより、汲み取り部屋を吹き飛ばしたあの魔法はどうやったのか教えてほしい」

 一般的な魔法についての説明がひと段落ついたところで、僕の魔法についてリーゼロッテが身を乗り出して尋ねてくる。

 どうするか。どれくらい教える?

 嘘を言っても彼女は賢いし、すぐに違和感に気がつくだろう。かといって全てを明らかにする気はない。

 チートは秘密を知られていないからチートなのだ。それに僕の魔法はチートまではいかないし、秘密にしておくにこしたことはない。

粉塵爆発なら鉱山とかで起きているそうだけど、爆発の原理について詳しく語る必要はないだろう。真似されたら僕の優位が危うくなる。

 僕は嘘と真実を適当に混ぜて説明し、誤魔化した。

 リーゼロッテは納得したような、していないような感じだったがそれ以上は追及してこなかった。

 それでいい。嘘をつくコツは真実を適当に混ぜてリアリティを作ることだ。

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