第14話 彼の仕業

僕は瓦礫の中から顔を出す。幸い糞尿の中に突っ込んでいたので、爆風や熱から遮られたらしい。

この時ばかりは汲み取り部屋にいたことに感謝だ。下に何も隠れるものがない部屋ならば死んでいただろう。それに運よく瓦礫の下敷きからも免れ、生まれてはじめて自分は運がいいと思った。

しかし全身が糞尿まみれで異臭を放つ僕に、居合わせた奴らは鼻を押さえて顔を背ける。

「肥溜め勇者が文字通りの有様だな」

「あのような者、この城にはふさわしくありませんわ」

 その中で、騎士の中でもひときわ立派な鎧を身にまとった男が僕を見つけて詰め寄ってきた。両手に構えた剣も意匠を凝らしてあってかなりの業物のようだ。

「く……」

 しかし彼は、僕に近付くと剣から片手を離して鼻を押さえた。おまけに臭さが目に染みるのか涙がにじんでいる。

他にも騎士らしき人はいるがどうやらこの男が騎士の中でも重要な位置にいるらしい、城に詰めている中で偉いということはいわゆる近衛の隊長だろう。同じような鎧を身につけている騎士を見ると、品とルックスが良い人員で構成されていることから見ても間違いなさそうだ。

 王族の警護をするから近衛は見た目も重視されるらしいし。

 近衛隊長は僕に色々と詰問し始める。

 まあ、汲み取り部屋を一つ壊してしまったから大事件になったのだろう。

 しかしこれほど威力があるとは思わなかった。

 他の部屋につながっているのに城の上の方が無事だったのは、爆発地点から離れていたせいだろう。

 どうやって言い訳しよう…… いっそしらばっくれるか。妙な力を持っていると知られるとトラブルの元だしな。しかし僕がやったと言わないと魔法に目覚めたことを教えてやれないな。

 そんなことを考えながら、近衛隊長の詰問を馬耳東風に受け流す。

 今までだったらこんなガタイのいい年上にきつい口調で何か言われたらびくびく怯えるしかできなかった。怯えてきょどって、嵐が過ぎ去るのを待つしかできなかった。

 でも今は違う。

 さっき魔法を発動した時に感じたものを、コントロールできているのがわかる。暴発はしたけれど自転車の乗り方みたいなもので、一度コツをつかむと二度目からは楽勝だ。

 自分が強くなったと思うと、心にゆとりが生まれる。

 しかしそんな風に別のことを考えている態度が近衛隊長の癇にさわったらしい。

「貴様、聞いているのか! 肥溜め勇者の分際で」

「うるさいな」

 自分でも自分の台詞にびっくりした。

 近衛隊長も少しだけ面食らったのがわかるが、すぐに持ち直してさらに罵声を浴びせようとする。

「……待て」

 しかし以前魔法の使い方を教えてくれた黒フードがそれを遮った。

この中で唯一僕のことを震えながら見つめている。

やがて、しわがれた声で呟いた。

「……彼の、仕業」

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