第11話 アレの詳細をイメージ
「おい肥溜め勇者! 夜が明けたのにいつまで寝てる! 早く起きて仕事にかかれ!」
突如他の奴隷に戸を叩かれて、意識を現実に引き戻された。
さっきまで感じていた感覚は消失してしまっている。
仕事をしないわけにはいかないので、しかたなく汲み取り部屋へ行った。
ネズミが這いまわり、一度入れば臭いがしみついてなかなか取れない地獄のような部屋。
初めは見るだけで吐き気を催した、大便と小便が混じり合ったモノが足首の高さまで部屋いっぱいに満ちている。
だけど今は足で踏み、シャベルで運ぶことすら何も思わなくなった。
屈辱にも慣れてきてしまっている。
この状況にも、慣れるのだろうか。同じ仕事をする人間にすら見下され、会う人全てが僕を「肥溜め勇者」と陰口を叩く。
一生、このままなのだろうかという不安がまたよぎってくる。
それでもいいのかもしれない。少なくとも食べるのと寝るのには困らない。
いや。
一瞬でもそう思ってしまった自分を何よりも恥じた。誰よりも憎んだ。最底辺の境遇に甘んじようとしてしまった自分が憎い。
一度そう思うと、屈辱が溢れだしてくる。自分を見下した他の奴隷、召喚された時にいたお偉い方、そういう存在への怒りがわいてくる。
そういえばイメージと、後一つ感情が大事だと言っていたっけ。トラウマも大事だと。
そのおかげか、今朝と同じくらいの感覚が、また掌に蘇ってきた。こんなところだけど、今朝の感覚を忘れないうちにもう一度練習してみることにした。
糞尿をすくうシャベルの手を止めて、さらに昨日何千回と描写を繰り返した、「アレ」を思い出す。
そういえばこの部屋は糞尿が発酵してるから、「アレ」に満たされてるんだろうな……
上手く操れれば、あんな奴ら見返してやれるのに。
それは、誰もが夢見る妄想だけど。自分には力があるはずだという妄想。自分はこんなはずじゃない、自分は強くてすごいはずだ。
妄想を妄想で終わらせたくなくて、色々とやってみた時期がある。その一環としてWikiで、教科書で見た映像・情報が蘇ってくる。
家畜の糞が発酵してできることが多い。炭素と水素の化合物、原子同士は109.5度の角度で結合した正四面体の構造、純粋な物ならば無味無臭の気体、和名は沼気。
掌に感じていただけだった感覚が、部屋全体に広がっていくのを感じた。
まるでこの空間そのものが僕の体と化した気さえする。
この臭気に満たされた部屋が自分と一体化していく感じさえする。
感覚が変わっていく。小さな違和感が、痺れるような快感となって広がった。
掌から、腕に、上半身に、全身に。そしてこの部屋全てに広がる。イメージし続けてきた「アレ」が現実のものとなる。
そう感じた時にはもう遅かった。
制御できない、溢れだした魔力が汲み取り部屋内部に一瞬で広がる。
魔力が魔法となって、この空間すべてに干渉する。
さらに悪いことに「アレ」の詳細をさらにイメージしてしまった。
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