HEART27. 選挙演説の夜ー駅のロータリーでー

2021年10月30日

選挙最後(これから)の演説


 弘樹は、駅のロータリーで白い服を着て立っている彼女さんを見つけ、静かに歩み寄った。


「握手していただけませんか?お忘れですか?吉田弘樹です。尾崎豊の友達の…。きっと…。」


弘樹「あなたへのプレゼントです。何がって…?すべてが、あなたへのプレゼントです。僕からのプレゼントがすべてなくなったら、また、一からあげますから…。あなたのために…and For peace of the world。方向性は、大体あってますよね?」


宇都宮「痩せましたね」

弘樹「ちょっとね、いろいろありまして…。いろいろってのは、あなたに会えなかったことかな…」


宇都宮さんは、何も言わずに佇んでいた。


弘樹「本当は、あなたがスペインから帰ってきたとき、あなたの無事を一番に確認して、あなたを空港で抱きしめたかった…」


弘樹「よかったら、あなたがチラシを配る姿を見せてくれませんか?あなたのチラシを配る姿好きだったなぁ。そして、歩いて帰ってくる姿も好きでした…。過去形です…。よかったら、今も、あなたがチラシを配る姿を見せてくれませんか?確かめてみたいんです。今も、心がトキメクかどうか?」


弘樹「あそこに座ってますから、よかったら、チラシを配っている姿を見せてください。一分でいいから…」


彼女は、首を横に振った。


弘樹「じゃあ、そういうことで…」


しばらくすると、彼女は、チラシをゆっくりと配り始めた。

何度も、弘樹の前を行き来する彼女を、弘樹は、温かく見つめた。

あの頃の風を、想いを、トキメキを弘樹は彼女に感じていた。


彼女は、少しして演説をした。彼女の演説が終わって。弘樹は、ゆっくりその場を後にした。


それから弘樹は、食事をした後に、外に出てタバコを吸っていると、彼女のスタッフの男性が、弘樹のところに来て言った。


スタッフ男性「候補者は、まだ、駅にいます。これから、一人で、駅立ちするかもしれません」と、言い、スタッフは、弘樹の前を去った。


弘樹「彼女が一人で駅に立っているなら、彼女を抱きしめに行きたい。そして、彼女と二人で駅のベンチに座って話がしたい。話せなくても、言葉がなくても、寄り添い合いたい」


そんなことを思い、弘樹は、ゆっくりと駅に向かった。


駅に行くと彼女は、一人ではなく、2・3人のスタッフと車の前で話をしていた。


弘樹は、一度、彼女の前を通り過ぎたが、きずかないようだったので、弘樹は、彼女に大きな声で叫んだ。

「お疲れ様!」

彼女に届いているはずだが、彼女は振り向かなかった。


弘樹は、彼女への溢れだしそうな心のトキメキを抱えながら、彼女さんを後にした。


弘樹「次は、いつ、彼女に会えるのだろうか?彼女を抱きしめて、この心のトキメキを彼女に伝えたかった…。大切なものをいつまでも、掴めないままでいるのだろうか。この心のトキメキをいつまでも彼女に伝えることができずにいるのだろうか?何やってんだろ…俺…。」

そんな風に思いながら、弘樹は風に吹かれてエスカレーターに足を置いていた


弘樹は、電車と地下鉄に揺られて一人暮らしのワンルームマンションへと帰った。

 「もう一度、彼女に会いにいきたい。彼女に自分の思いを伝えたい。できるなら、彼女の心を抱きしめたい」

 そんな想いを弘樹は抱き、どうすることもできない夜を一人過ごした。


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