一人称書きと三人称書き(改行多め版)

※同タイトルのpixiv公開作を自己転載。

※2015.08.20 最終更新版。そのうちリライトする。

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※二人称書きに関しては省略。

※要望があれば関連事項を追記。


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* も く じ *


1.人称書きの違いって?

2.一人称の呪いに負けない!

3.三人称はツンデレろ!

4.カメラの切替えは有効に。

5.どっちで書くのが得?

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◆ 1.人称書きの違いって?


端的に言えば、

【読者と登場人物との距離】が違います。


それは、何人称で書くかによって

カメラマン〈語り部〉の

【立ち位置が変わる】ためです。




一人称書きの語り部は

【登場人物の内の誰か】になるので、


見聞きできることも思考〈ココロ〉も

【その視点主ワタシを通して】しか書けません。


その代わり、


視点主の感性〈フィルター〉越しに

【物語を疑似体験】させる形なので、

【より強い共感覚】を読者に与えます。




対して、三人称書きの語り部は

【そこに存在しない第三者】

――〈クロコ〉が担います。


特定人物に付いて回る

【三人称・密着ダレカ視点】の場合は、

その人物のココロだけ聞き取り可能で、


フリーランスの

【三人称・第三者視点】の場合は、

カメラを寄せた登場人物それぞれのココロを

一部すくい上げて歩く、なんてことも出来ます。


ただし、


登場人物たちから一定の距離を置いた

【傍観者・観察者】にしか読者がなれず、

【タンパクな作風になりやすい】です。




登場人物たちを、


一人称書きでは

【ココロの声で直接内面から描き】、


三人称書きでは

【仕草や言動から内面を浮き掘る】。


――極端に言えば、

二つの違いはこれに尽きるのかも。



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◆ 2.一人称の呪いに負けない!


物書き初心者がオススメされるのは、

大抵「一人称書き」でしょう。


作文、エッセイ、メールに会話――


その延長にあるSNSやブログでの日記等も

基本は一人称書きですから、

始めやすく馴染みやすいのだと思います。




一人称書きは初心者作家のことが好きなので、

つい・さりげなく

【筆は進むのに物語が一向に進まなくなる】

鈍足の呪いをかけてきます。


「一人称書きが難しい」

という話ではありませんから、

当然、呪いの効かない初心者も居ます。


まんまと呪われた時は、

【必要のない思考〈ココロ〉】を

長々とつづっている可能性・大です。


――スロウの解呪にはヘイスト!


さすがに初心者を自称できない私も、

遅筆のせいなのかよく呪われてしまうので、

いくつか対策を練ってます。



===

【1】プロットの穴を探して埋める。


  目指す着地点(目標)までが遠いと、

  脱線したり迷子になりやすいから。


【2】着地点の流れ(展開順)を見直す。


  プロットで着地点(目標)を

  細かく定めても進まなければ、

  流れが不自然の可能性が高いから。


【3】余談エピソードがあれば取り除く。


  何でもかんでも組み込んでいては、

  肝心の本編がグダグダになってしまうから。

  メモ等の形で【必ず残して】おいて、

  同作・番外編や次回作で使うのがオススメ。

===



司会・進行のスムーズさは

試行(+思考)錯誤を繰り返して身につくので、

初心者が真に気を付けるべきは

【終わりまで書ききること】でしょう。


書ききった上で読み返して、

引っかかりに気付いて一歩。

その原因を解明できて二歩。

さらに問題解消できれば三歩。


――これもまた積み重ねで、

前へ進んでいけるんじゃないかなと。



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◆ 3.三人称はツンデレろ!


一人称書きに三人称書きが混じることは

あまり無いと思いますが、

三人称書きの途中で

【一人称化してしまうことは多い】です。


というのも、

三人称書きはココロを書く際、

【擬似的に一人称書きできる】からでしょう。




『親しき中にも礼儀あり』。


密着視点で一人のキャラに付いて回るにしろ

第三者視点であちこちフラフラ回るにしろ、

カメラを寄せすぎて【同化させない】ために、

【適度に突き放す】必要があります。


同化してしまったときの手っ取り早い解決策は

主語「ダレソレは」を入れることですが、

【隠れ主語を意識して書く】だけで

良くなることもあるので、お試しあれ。




――さて。


あまり「良い例」とは言えませんが、

次の三つの例を読んでみてください。



* 例1

===

「これは……?」

 そこにはクマの縫いぐるみがあった。色も形も、果ては顔さえも違うのに、どこへ行くにも連れ歩いていた〝あの頃のオトモダチ〟に見えて、知らず笑みがこぼれる。

「ああ、それ? 特別に〈懐かしさ〉を綿に混ぜ込んでおいたから、大事にしてた縫いぐるみがあるなら、それに見えるよ」

 欲しいって言ってもあげない。そう続けて、魔女はまたガサゴソと探し物を始めた。

 ――物欲しそうな顔、してたかな?

 気になって両頬を手のひらで揉んでみるけれど、鏡でもなければ分かりそうになかった。

===



一人称と三人称。

どちらの書き方だと思いますか?


見ようによっては三人称にも見えますが、

これはフィルターを通した一人称書きです。


――ほら、地の文に主観がイッパイ!


三人称書きの途中でこの文章が来ると

一人称書きが混ざった状態になり、

違和感の「ん?」が出ます。


では、次の場合はどうでしょう?



* 例2

===

「これは……?」

 そこにはクマの縫いぐるみがあった。色も形も、果ては顔さえも違うのに、どこへ行くにも連れ歩いていた〝あの頃のオトモダチ〟に見えて、知らず笑みをこぼす。

「ああ、それ? 特別に〈懐かしさ〉を綿に混ぜ込んでおいたから、大事にしてた縫いぐるみがあるなら、それに見えるよ」

 欲しいって言ってもあげない。そう続けて、魔女はまたガサゴソと探し物を始めた。

 ――物欲しそうな顔、してたかな?

 気になって両頬を手のひらで揉んでみるが、鏡でもなければ分かりそうになかった。

===



変更箇所は下記二つ、と

わずかな違いですが、三人称書きになりました。


===

【1】(知らず笑み)がこぼれる → をこぼす


  隠れ主語がどうしてもワタシになるので、

  ダレカにも取れるように。


【2】(揉んで)みるけれど → みるが


  口語文(しゃべり言葉)は「」内に限定し、

  地の文では文語文(書き言葉)に。

===


……「自動詞を他動詞に」とか「敬体を常体に」

なんて小難しい言い方を何とか回避した人←


この文章量では、ちょっと少なくて

一人称書きにも見えてしまうので、

もう少し突き放してみましょう。



* 例3

===

「これは……?」

 そこにはクマの縫いぐるみがあった。色も形も、果ては顔さえも違うのに、どこへ行くにも連れ歩いていた〝あの頃のオトモダチ〟に見えて、少女は知らず笑みをこぼす。

「ああ、それ? 特別に〈懐かしさ〉を綿に混ぜ込んでおいたから、大事にしてた縫いぐるみがあるなら、それに見えるよ」

 欲しいって言ってもあげない。そう続けて、魔女はまたガサゴソと探し物を始めた。

 ――物欲しそうな顔、してたかな?

 そう気にして両頬を手のひらで揉んでみる少女だったが、鏡でもなければ分かるわけもなかった。

===



隠れ主語「少女」を足して、

これで完全に三人称書きになりました。


『少女は知らず笑みをこぼす』

と今回は書いてますが、

『少女から笑みがこぼれる』

と書いても良いと思います。


――まだ一人称書きに見えますか?


見えるとすれば、

セリフも描写もここでは出てきていない

「ワタシを通して書かれた」ことになります。


でも、そう仮定すると、

ワタシ以外(少女)の思考が聞こえているので、

「一人称書きに三人称書きが混じっている」

ことになってしまいます。




ホントにちょっとの差なんですが、

【なんとなく引っ掛かりを覚える部分】は、

もう一方の○人称書きが

【混じっている可能性が高い】です。


違和感はあっても原因が分からないときは、

【主語を入れたり意識してみる】か、

少し時間を置いてから推敲してみましょう。



======

◆ 4.カメラの切り替えは、有効に。


一人称書きのときは、

「ワタシが見聞き(認識)していないこと」

を書いてはいけません。


そのため、どうしても描きたい場合は、

【カメラを切り替える(視点を飛ばす)】

ことで、そのジレンマを解消します。


ただし、

あまり短文で飛び回っていては読者が

【読み疲れてしまう】ので、

多用には注意が必要です。




【同時進行であることを強調したい】

【盛り上がりにスピード感を与えたい】


そんなときは、

加減に気を付けながらドンドン飛ばす

「上級テクニック」をどうぞ。


「クライマックス限定」とは言いませんが、

【多用は物語の後半に入ってから】することで、

コロコロ変わっても疲れにくくなります。


後半に増えてくる

「非日常パート」で大いに盛り上がる為には、

落ち着いている「日常パート」の中で

伏線含む情報を充分に提示していくものです。


――視点が飛びまわってる状態を

「落ち着いてる」なんて言えませんよね?




で、肝心の三人称書きの場合はと言いますと、

どちらの演出も充分可能です。


一人称書きのように

【ココロを深く書けない】代わりに、

【視野広く描ける】利点がありますから、

アクションや推理もの向きですね。




そして、どちらの書き方でも大事なのは、

「視点主」を変えたら、

【できるだけ三文以内で変更を伝える】

ということです。


確実なのは、ダイレクトに

【主語として書く】方法ですが、

そこは描写力……

直接書かずとも伝えたいものですね。


視点主等をそのままに、

シームレスに場面転換をしたい場合は別ですが、

空行やセパレートを間に挟んで

【変わるよの合図】を出すのもお忘れなく。



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◆ 5.どっちの人称で書く?


感情移入というのは、

どちらで書かれたものでも出来ます。


じゃあ、この二つの特徴は何なのか?


――それは、読者を

【劇の舞台上に引き上げる】か

【鑑賞席に案内する】かだと私は思ってます。




当然ながら、舞台の上と下では

「見えるものも感じることも」異なります。


それぞれの位置から

【見える情報・見えない情報】があって、

それはそのまま

【描ける情報・描けない情報】になります。




一人称書きは

「体感(疑似体験)させたい物語」に、

三人称書きは

「多少裏側を見せて驚かせたい物語」に。


手法として確立されているかは分かりませんが、

そんなお約束セオリーがあるような気がします。


恋愛、ホラー、サスペンス等の、

テーマが感情に直結するものは、

擬似的に当事者になれる一人称書き向き。


アクション、サスペンス、ミステリー等の、

雰囲気や展開を楽しむものは、

客観的に描いていく三人称書き向き。


――なのかなぁ、と。

今回いろいろ考えてて思い至りました。




自分は、何を一番描きたいのか。


そのためには、

【どの書き方】を選び、

【どの角度から】見せつけ、

【どの程度深く】書き込むのか?


もし、あまり考えずに書いているのなら。

――いま一度、考えてみませんか?


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