愛あるキスを私に
目が覚めると、そこにはいつも所有者がいる。今まで何度か変わってきたが、貴女はいつまで私を使ってくれるだろうか。
初めはいいのだ。新鮮で便利で、楽しいと喜んでもらえる。けれど、非日常というものは続けば日常になってしまうのが道理で、
「おはようございます、お嬢様。今朝はいかがなさいますか?」
回路を走る命令に
私はヒト型の《家事ドロイド》。
基本的な仕事は
「ねぇ! 最近スカート多くない?」
シャワーを終えたらしく、洗面所からトゲトゲしい声が飛んでくる。スカートであっても なくても何かしら言ってくるが、コーディネイトは
「ちょッ――見ないでよエッチ!」
「これはとんだ失礼を。今日も一段とお
トドメに満面の笑みで「ご不満でしたら他のをお持ちしますが」と言いさえすれば、「いい!」と
過去の所有者たちに同じく、貴女は仕事の話しかしてこない。
機械の身ではあるが、朝の見送りを最も
私の胸に手をつき、背伸びをしてキスをする。目覚めのときはどこか
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
出て行く貴女を、ドアが閉まりきる瞬間まで想い、
*
目が覚めると、そこにはいつも通り貴女が居る。けれど様子が違うのは、今が朝でなく夜ということだ。
「おはようございます、お嬢様。今朝はいかがなさいますか?」
命令に従い、お決まりの第一声を吐く。状況は
「10分ほどお待ちいただけますか? もう少し煮込みたいところですが、温めて食べてしまいましょう。お嬢様は先にお
「うん、そうする」
冷やかな返答が胸に痛い。こればかりは致し方ないが、今度、改造屋にでも改良を頼むとしよう。
今月に入ってから、帰宅前に燃料切れで止まってばかりいる。初めは
キスに込められる愛が段々と薄れているのは確かだろう。だが、それだけにしては減り方がおかしい。中古だからこそ、売り出される前の点検で燃料タンクに異常がないことは念入りに確認済みだから、これが故障によるものとは考えにくい。となると燃費の悪い原因は何だろう?
「……いつもありがとうね」
「
何に対しての
「カレー、美味しいよ」
続く言葉に笑顔を返す。貴女がそう
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愛あるキスを私に
〔2018.09.21作〕
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★ 妄想コン#86「目が覚めるとそこには……。」応募、選外
※旧題『キスから始まるAIもある』
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