うまい話に騙されて

 四谷よつや通りをさまようこと三巡目。やっと目当ての場所に辿り着いたときには二時をまわっていた。意を決して一歩踏み出せば自動ドアが招き入れ、カウンター向こうからは陽気な声が出迎える。

「いらっしゃいませー! ご注文はお決まりですか?」

 緊張で頭が白くなりかけるが、散々練習した言葉をどうにか口にする。


「〝女ひとつ、骨抜きで〟」


 店員が一瞬止まる。スーッと細めた目で俺をすみずみ眺めたかと思うと、元の笑顔に戻って口調だけが砕けた。

「おっと失礼、初めて見る顔だったもんで。うちでしていきますかい?」

「いえ、〝お持ち帰り〟というのをするのが夢だったので」

「ええ、ええ。よく分かってらっしゃる! いい女をすぐに支度させますんで、この奥でお待ちくだせぇ」

 通された部屋にはショーケースがあった。そこに丁寧に並べられたオモチャを眺めては妄想にふける。自分には縁のないところと見向きもしてこなかったが、思い切ってよかった。きっと新しい世界がひらける。

「やあやあ、お待たせしました。さあどうぞ」

 店員に差しだされた女を見て息をのんだ。思い描いていたとおりの美しさに、たかぶりすぎて身震いする。

 手早く支払いを済ませて受け取れば、左肩に女がしなだれかかる。柔らかな肌の感触、酔いそうなほどに甘美な香り。


 ああ、これはさぞかし――


「心ゆくまでお楽しみください。またのお越しを!」

 礼を残し店を出る。家までは車で二十分。決して遠いわけではないが、手の届く距離に居ながら過ごすなんて到底ガマンできそうになかった。

 予定を変え、目星をつけていた近くのホテルに持ち込むことにする。無駄かと思ったが事前に調べておくものだ。

 部屋の鍵をかけ、女をおろして眺める。自分のモノという意識があるせいか、胸に満ちるなんとも言えない愉悦感に少しのあいだ酔いしれた。

 抵抗されるのはあれはあれでそそるし嫌いじゃない。だが、多少高くともこうして初めから従順なのも新鮮で悪くない。


 もっとも、〝骨抜き〟の身で抵抗も従順もありはしないが。


 その日の夜は、十二分じゅうにぶんに時間をかけて食べた。これほど女に満たされたことはない。忘れられなくて、忘れたくなくて。今では月に一度のご褒美にかようほどだ。注文するのは決まって同じ。

「女一つ、骨抜きで」



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うまい話に騙されて

〔2020.09.20 作/2021.05.11 修正〕

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 「意味がわかると怖い話」をお題に書いた、ちょっぴり大人なホラー作。詳細描写はないから全年齢なんですが、意味が分かったほうがたぶん楽しい…?

 騙されていただければ幸い。


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