〔短編集〕セカイの欠片を小箱につめて
あずま八重
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稲荷社のお猫さま
『おぬし、ワシが見えるのかい?』
目の前の黒猫が突然そんなことを言う。
七草目前とはいえ、神社にはポツリと
「なんだ
『
「へぇ。
突きつけた僕の指先を少し硬い肉球で押しのけながら、猫は『面白い冗談を言うのう』などとふにゃふにゃ笑った。
『カツオ一本釣り上げてから出直すんじゃな』
「いやだね。それで願い事を叶えてくれるわけでなし。それに、神頼みしに来たわけでもないから」
猫は目を細め、尻尾をくゆりと曲げ揺らす。
『ではまず問おう。君はヒトかね?』
「そう思ってきたけど、化けの皮を
『ほう。
「嫉妬とか執念深さはそんなだけど、瞬間的な怒りとか憎悪に振り回されることは多いから。そういうの〝鬼〟って呼ぶだろ?」
『ならば、その
口を
『言えぬようなことなのか?』
「そのぉ……
静けさと視線が、自然とそらしてしまった横顔にチクチク刺さる。やはり誤魔化して立ち去るべきだったか。そう後悔した直後、猫がにゃふにゃふ笑いだした。
『正直が過ぎるぞ、自称鬼の子! っはぁー、こりゃ愉快・痛快・
「よかった、ありがとう! ……家主?」
『ワシは此処でくつろがせてもらってるだけの隠居猫よ。代わりに、こうしてときどき留守を預かってるだけでなぁ。まぁそう心配するでない』
またしてもくゆりと曲げ揺れた尻尾は、よく見ると1本ではなかった。
「物の
『〝神の
「ノミ・ダニの類も含め、丁重にお断りします。あいにく爪の
『安心せぇ。そこは
老いても清い体、とかなんとか。ドヤ顔で言ってのける猫がおかしくて噴き出した。
ひとしきり笑ったあとで
『ときに
「家出じゃなくて
『似たようなものだろうに……まぁよし。どれ、案内しよう』
そうして
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〔2020.01.20 作/2022.02.22 カクヨム掲載〕
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★ writoneで出会った「空腹」さん主催の企画「空腹を満たそう」にて書いたお話。
せっかくのスーパーキャットデイ(2022.02.22)だからと、いい機会ですし作品整理も進みますしおすし、カクヨムにお引越し掲載。
「お猫さま」をただ喋らせるためだけに書いたような「すこしふしぎ」短編なので、また何かの機会に続きめいたお話を書きたいなと思っています。
――ご縁がありましたら、また!
(2022.02.22)
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