冬と春のあいだ(荒れる、さくら、安売り)

 四月。それは、冬の魔女と春の魔女がケンカして荒れる三〇日でありました。

 二人はたいそう仲が悪く、五月まで持ち越した年もあるほどです。今年はどうでしょうか?


「イヤだわ春生はるおさん。貴方の陽気のせいで虫が出てきたじゃないの。まだ早いですわ」

冬実ふゆみさんこそ、雪を降らさないでくださいよ。やっと蕾がふくらんできたのに……さくら、貴女もお好きですよね?」


 ウインクしてみせる春の魔女に、冬の魔女はひどく顔をゆがめました。


 春・夏・秋・冬。〝四季の魔女〟は代々女性が継いできましたが、今代の春は男性です。他に継げる者もなく、適性があるなら問題はないだろう、と特別に襲名したのでした。

 冬の魔女は、賛成も反対もしません。男というのは嫌ですし、かといって自分が夏まで居座ることもまた嫌なので、決めかねたのでしょう。初めのうちは、男性に慣れるチャンスだと前向きに考えてはいたようです。


「よかったら、ご一緒にいかがです?」


 雪にも寒さにも負けず花ひらいた薄紅色の下で、春の魔女が誘いました。差し出されたまま一向に引っ込む様子のない三色団子に根負けして、冬の魔女は渋々受け取ります。


 愛の押し売りばかりの春生に、ケンカを安売りし続ける冬実。素直になれば、もっと穏やかに季節は巡るのかもしれませんね。




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【冬と春のあいだ】 2020.04.11 作


あずま八重のお題

「荒れる、さくら、安売り」より即興創作

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