◆ 2020年3月

それは怖くて苦しくて(お揃い、ピアス、花吹雪)

 一対の靴や手袋のように、私達はいつもお揃いだった。歳が近いだけの他人だったのに。


 身長、髪型、手足の長さ、服のセレクト。興味を持つものから付き合う相手までがお揃いで、そうなるとたまにケンカになったりもした。

 唯一お揃いじゃなくなったのはアクセサリー。貴女は貝殻のイヤリングで、私は真珠のピアス。別モチーフだけじゃなく穴をあけることも選んだのは、ちょっとした反抗心からだった。


「そういえば最近さ、アタシ、読む本の傾向変わったんだ。どんなのだと思う?」

「んー……主人公が最後に死んじゃう話?」

「さっすがぁ、分かってるー!」


 むくり。擬音語で言えばそんな音がする。

 ああ、まただ。と自分に呆れながら、首をもたげた小さな反抗心のままに口を開いた。


「昨日読み終えた本は、何エンド?」

「あれは絶対ハッピーでしょー?」


 小首を傾げる貴女をよそに、内心で両手をあげる。

 その主人公は、桜吹雪の中で親友とともに息絶えた。叶わぬ恋を叶えて二人で逝けるのは、幸せといえば幸せだろう。でも、生きている間に重ねられるはずだった幸せがあまりに不憫ふびんだし、好きだからこそ生きていてほしいものだと思う。


「私にはバッドだったよ」


 お揃いじゃなくて、お似合いになりたい。だから〝違う〟ことに気付いてほしいのに、貴女は「そっか」と笑うだけ。

 あーあ。いっそ男に産まれたかったなぁ。異性おんなに産まれたって、心が同性じゃあ意識してもらえないんだもん。


 好きって伝えたら、嫌われるだろうか。気を遣ったり気兼ねして、離れていってしまうだろうか。断られることより、今の関係が壊れてしまうことのほうが今は、まだ、怖い。




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【それは怖くて苦しくて】 2020.03.30 作


7zu7さんのお題

「お揃い、ピアス、花吹雪」&

「台詞:主人公が最後に死んじゃう話」より即興創作

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* 貴女(男)とするのはズルっこでしょうか…。体は異性なんだけど心は同性、のオチが伝わりにくかったので創作ツイートから少し直しました。「君→貴女」の置き換え忘れの修正と、「女に生まれたって」を「異性(おんな)に~」にしただけですが。――それにしても、なんて見事なワンシーン系。もう少しストーリー性の高いものを即興できるようになりたいなぁ。(2020.06.07)


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