武芸大会の夜・後編

 星空のなかでギレイ達が跨った飛竜が緩やかに飛翔する、その下。

 

 城塞都市リュッセンベルクの某所。

 ベットでうつ伏せになった少女が、枕元の水晶に手を触れていた。

『武芸大会に関する、諸評価』

 と題された文言の下には、見たことのないほどの文字量が投影されている。

『あの飛竜で乱入して剣投げ込んだのって、規則違反だろ?』

 それが話題の中心だった。

『あらゆる武器使用が自由だから、なしってわけでもなくね?』

『最初から剣持ってたんなら別だけど、協力者が居るってのが不味いでしょ』

『規則違反なら、対戦相手の方がヤベェって。ミシュアを殺そうとしてたしょ、明らかに』

『もっというとさ、立会人もヤバかったしょ? ミシュアの剣、折れたのに止めないとか』

『規則違反に規則違反で勝って、それで良し? 無効試合でしょ』

『……確かにな。なんで、そうならなかった?』

『現場としては、対戦相手の負けっぷりが面白かったからかな~観客のノリで流れた』

『お前、居たの?』

『ああ、イケメンハゲ団長、見られて面白かった』

『まぁ、格好良かったしね~ミシュア』

 などと、文言が入り乱れて盛り上がってはいる……そんな水晶から、少女は手を離す。


(最終試合の振り返りに、みんなズレ始めてる……なら、)


 少女は思い、知り得ていたことを脳裏に描き、また水晶に触れた。

『乱入者の正体……ギレイ=アド。スリースター刀工』

 その文言を投影させると、食いついてくる者が増える……少女は淡々と、続ける。

『ギレイ=アドはリュッセンベルク都市に入る際、衛兵の許可を得ていない』

 文言の下ではようやく、情報の裏を取る人々が現れ始めた――少女は淡々と、続ける。

『ギレイ=アドは武芸大会に投下した剣にはルーキュルクギルドの魔法特許技術……古代レンギレ文字の刻印による強度付与であると目される。魔法特許侵害の可能性あり』


 少女は水晶から手を離す。

(ここまで情報を放り込めば……みんなが勝手に調べ始める。身分評議会では剣なんかよりも、みんなが気に食わない事実を投げ入れればいい)

 下らないことを思ってしまったと、少女は静かにため息をついた。

 そのまま、しばらく水晶を見つめていた少女は、身分評議会が自分の狙った以上の結論に達したことに、もう一つため息をついて、寝ることにした。


 一つ、ギレイ=アドの刀工の位を剥奪する。

 一つ、ミシュア=ヴァレルノの位はフィフス・スターに昇格。

    しかし、その条件は刀工をルーキュルクギルドとすること。


 身分評議会の、それが結論だった。

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