名もなき男
リュッセンベルク城塞都市……某所。
「……ほ~ぅ、荒れてきたな」
手狭な一室で水晶玉を眺め、一人の男が呟く。水晶に浮かび上がる文言は身分評議会の監査官から送られた情報だった。
「刀工の客取り合戦か――はてさて」
呟きながら、男は水晶に手を当てる。自身の思念が言語化されて水晶に映し出される。その文言の下に、別の誰かからの文言が浮かび上がる。身分評議会の会議だった。
男は自分の思考を投影されぬよう水晶から手を離し、少し考える。
(これを言ったヤツは都市長か? ま、オレみたいにたまたま選ばれただけってコトも)
誰が映し出した文言なのか、列席者が誰なのか、男は知らない。
知っているのは、評議会の匿名性は、王国連合での円卓会議での
「まだ様子見……だな。ミシュア=ヴァレルノ、ルーキュルク=ベリック、あぁ、ハサン=シューも……知らんが、ギレイ=アドとやらも。武芸大会で、確かめればいいだろう」
思考を纏め、男は再び水晶に手を触れる。連なる文言はどうやら、自分の考えに同意していく流れだった。そのことに満足し、男は水晶から手を離す。
「ふぅ~」と一息つき、ふと男は思った。
(今回の俺の会議での働きも……誰かが評価してンだろうな)
思い至ったその現実――その不気味さを、男は皮肉げに笑い飛ばした。
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