果穂の子宮

 果穂、おまえが生まれた時な、今は天国に行った母さんと約束したんだ。果穂は俺が幸せにすると。果穂という名前も俺がつけた。果実が、稲穂がきちんと実るまで、俺が母さんの分まで守ると、あの病院のベッドで誓ったんだ。それが、どこぞの知れぬ馬の骨に嬲られ、刈り取られるくらいなら、俺が幸せに摘み取ってやるからな。何を怖がっているんだ、果穂?お前は言ってくれたじゃないか。父さんと暮らしてきた日々は幸せだったと。一体この世界のどこに、俺以上にお前を幸せにできる男がいる?俺が責任を持ってお前を貰おう。もう式場の予約もしてあるさ。ドレスはどれがいい?オートクチュールまではいかなくても上等なのを着せてやろう。ああ、お前の成人式にはウェディングドレスで行かせてやろう。同級生に、取材に来るマスコミの奴らに、しっかりと知らせてやるんだ。お前はずっと父親である俺の元にいるんだってな。だいたいな、お前がアイドルだなんてものをやろうとしていたのも間違いだったんだ。果穂シコなんて言ってお前が慰み物になっているのは知っているだろう?俺はそれを知った時、爪が手の皮膚を貫いて、血が滴るほど怒っていたんだ。だがな、果穂、お前はあの時まだ小学生だったろう。お前のあの頃のあどけない笑顔を、俺は鮮明に覚えているよ。これまでのすべての写真は残さずフォルダに保存してあるからな。俺は何を言おうとしていたんだ。ああそうだ、だから、だからな、それはまだ俺の中で消化すべき物だと思って、必死にお前が他の男に、空想の中でも嬲られるのを我慢していたんだ。だが、もう違うよな。果穂、成人おめでとう。ようやくそれも終わりだ。俺が直々に283プロさんの方には退職届を出しておいた。やっと俺たちは幸せになれるんだな。果穂、お前はこれまでも、これからも、ずっと俺のものだ。学校では他の男は寄り付かなかっただろう?あれは俺が噂を流させて他の子を離していたんだよ。果穂、お前は渡さない。果穂の全ては俺のものだ。果穂の子宮は、父親である俺のものだ。そうだろう?何を泣いているんだ、果穂?

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掌編おきば 森エルダット @short_tongue

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